第23話 アジト潜入
探知魔法で、「黒南風」の潜伏先を突き止めた俺は、不可視魔法「インビジブルザラーム」をフィオナと自分にかけた。そして、浮遊魔法 ―俺からすると、完全に飛行魔法だが― 「ヴォルフライト」を駆使しながら、急いで潜伏先に向かった。
裏路地にある古臭い大きな倉庫へと辿り着いた俺たちは、一呼吸おいて、中へと潜入した。しかし、倉庫内には特に何もなく、完全に空き倉庫といった感じだ。
「おかしいな、潜伏先の目印はここについているんだが・・・。」
「ヴァールハイトサーチ」は、使用者の頭の中に周辺地図を描き出し、探知したいものをピンで突き刺して示す魔法だ。生前で言うと、「ウェブマップ」にかなり近い。
「もしかしたら、どこかに隠し通路とか、隠し扉があるのかも。」
フィオナと俺は、「黒南風」の潜伏先へと繋がる通路や扉を見つけるため、倉庫内を隈なく調査した。しばらくすると・・・
「ユリウス、これ見て。」
フィオナが小声で俺を呼んだ。フィオナが立っている場所に向かうと、彼女は地面を指さしていた。そこを見ると、ほかの地面と比べて、色が少し暗く、何となく違和感を覚えた。
「これが隠し通路か?」
「たぶん、そうだと思う。けど、どうしたらいいのか・・・。」
隠し通路っぽいものを見つけたはいいが、地面を押したり、触ったりしても特に何も起きない。ここまできて、変な足止めをくらうとは・・・。
「何かの合言葉を言わないといけないとか?もしくは、『漆黒の仮面』が必要とか?」
「もしかしたら、そうかもしれない・・・。どうしよう、ユリウス。」
フィオナが、初めて不安そうな顔を見せた。確かに、潜伏先まで突き止めたにもかかわらず、何もできないのは、相当悔しい。よし、「幸福亭」まで戻るか。
「じゃあ、あいつらに直接聞いてくるよ。本気で飛べば、一瞬だから。」
「えっ!?」
フィオナに「ヴォルフライト」をかけて移動したため、安全性を考慮して、速度をかなり落としていたのだ。だが、今回は俺一人の飛行となる。初めての日雇い労働のときから、色々と練習をして、かなり上達した。時間は、そこまでかからないはずだ。
「じゃあ、すぐに戻ってくる。」
俺はフィオナにそう言い、全力で「ヴォルフライト」を使用した。「幸福亭」から潜伏先までは、5分ほどかかったが、30秒もかからずに「幸福亭」まで戻った。
「インビジブルザラーム」を解除し、一か所に集めていた「黒南風」たちのところに向かった。
「痺れは、どうだ?」
「はっ、聞くまでもないだろうが。」
リーダー格の男は、吐き捨てるように言った。案の定、全員麻痺して動けない状態だ。ちなみに、魔力量を調整して、10時間は痺れるようにしている。
「単刀直入に聞く、アジトの隠し通路にはどうすれば入れる?」
「あぁ?俺が言うわけないだろ。」
予想通りの反応だな。
「まぁ、そうだろうな。ただ、俺も早くアジトを潰したいから、遠慮なく使わせてもらうぞ。」
「はぁ?」
「『ヴァサニスティリオ』。」
「なっ!!」
俺は躊躇なく、闇属性の究極魔法「ヴァサニスティリオ」を唱えた。「ヴァサニスティリオ」は、この世界で唯一の拷問魔法と言われており、その危険性から「禁忌魔法」に指定されている。ただ、「禁忌魔法」のほとんどが、膨大な魔力を消費するため、そもそも使用できる存在がいないと言われている。
「あ゛ぁ゛ーーー!!!!!!!!!」
拷問魔法は直接、対象者の精神に働きかけ、様々な苦痛を与える。1分以上継続すれば、確実に精神を破壊するため、俺は10秒ぐらいで一旦止めた。
「どうだ?教える気になったか?」
「はぁ、はぁ・・・。き、貴様、なぜ『禁忌魔法』が使える!?それは、ロイ・・・」
「『ヴァサニスティリオ』。」
「あ゛ぁ゛ーーーーーーー!!!!!!!!!」
・・・無駄口はやめてほしいんですけど。早く教えれば、苦しまなくて済むのに。
次は、20秒ぐらいで一旦止めた。リーダー格の男の顔が、自分の吐瀉物と涙と涎でぐちゃぐちゃになっている。
「で、教える気になったか?」
「も、もちろんです!!な、何でもお教えいたします!!」
少しやりすぎたか、リーダー格の男の口調が一気に変わった。
・・・ん~、人格そのものを破壊したかもしれないな・・・。少し心は痛むが、まぁいいか。自分たちがこれまでしてきたことの報いだと思えば、安いものだろう。
「じゃあ、改めて聞くが、アジトの隠し通路にはどうすれば入れる?」
「アジトは、地下にあります。地面の色が少し変わっているところがアジトの入口です。『漆黒の仮面』をつけた状態で、『コギト・エルゴ・スム』と言えば、地面が分かれ、地下へと続く階段が現れます。」
「なるほど、よく分かった。じゃあ、お前のその仮面をもらっていくぞ。」
「もちろんです、どうぞお使いください!」
俺は、人格が変わったリーダー格の男から手渡された『漆黒の仮面』を持って、再び潜伏先まで飛んでいった。
「おまたせ。」
「えっ、もう戻ってきたの!?」
フィオナは、すぐに帰ってきた俺を見て、驚愕の表情を浮かべた。まぁ確かに、行って戻ってくるまで、3分もかかっていないからな。
「まぁな。しっかり、隠し通路を開く方法を聞いてきたぞ。」
「さすが、ユリウス。」
フィオナについさっき、リーダー格の男から聞いた話をした。そして、俺は「漆黒の仮面」をつけ、「コギト・エルゴ・スム」と言った。すると、眼前の地面が徐々に消えていき、地下へと通ずる螺旋状の階段が姿を現した。
「よし、行こう。」
俺はもう一度「インビジブルザラーム」を使用し、フィオナとともに螺旋階段を降りていった。
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