第5話 初めての異世界人との交流
俺と美少女は、息絶えた『インペリアル・エイプ』を見下ろしていた。冒険者パーティー(?)の3人は、怪我の手当てに集中している。
「あ、あなた、一体何をしたの・・・?」
美少女は、顔を引き攣らせながら俺に聞いてきた。
「何って・・・ただ、ファイアーボールをぶつけただけですが・・・。」
「いや、そんな冗談はいいから。」
いや、全然ジョークじゃないんだけど。むしろ、何が起こったのか、俺が聞きたいぐらいですわ。なにこれ、どゆこと?オーマイガーを通り越して、What’s happenedだな。
俺たちが話していると、後ろから怪我の手当てを終えた男女3人が近づいてきた。
「あんた一体、何者だ?」
ガタイの良い小柄な中年男性が険しい表情で俺の顔を覗き込んだ。
「何者と言われましても・・・。」
「ついさっき転生してきた者です!よろしくお願いします!」なんて言ったら、余計怪しまれるだろう。まぁ、そもそも信じてくれないと思うが・・・。ここは、適当に身分を偽るしかないな。
「た、ただの旅人ですよ・・・。」
「ふーん、ただの旅人ね・・・。」
「あはは・・・。」
苦笑いで誤魔化そうとしたが、猫目の若年女性は俺の答えに納得いっていない感じだ。まぁ、そりゃそうか。自分でもいまだに信じられないけど、俺が一撃でこの化け物の腹を貫通させて、倒したんだからな。
「あの閻魔種を一撃で倒せるほどの実力者ですから、きっと何か言えない理由でもあるんですね。これ以上の詮索はやめておきましょう。」
「ま、まぁ、そんな感じです・・・」
痩身の眼鏡の男性が何かを察したように、俺の目を見て「無理して言わなくていい」と訴える。うん、絶対に勘違いしてるけど、面倒くさいし、このままにしておこう。
「おっと、自己紹介が遅れたな。俺はDランク冒険者のブラント。アックス(斧)使いで、冒険者パーティー『如月』のリーダーをしている。ヤバイところを助けてくれて、ありがとうな。」
体格の良い中年男性―ブラント―は、ゴツイ両腕を少女と俺に差し出した。
「私は、アーチ(弓)使いのティルザ。同じくDランクよ。本当にありがとう。助かったわ。」
猫目でモデル体型の女性―ティルザ―は、少女と俺の目をまっすぐ見て感謝を伝えた。
「僕はロングソード(長剣)使いのルシオです。まだEランクの未熟者です。命を救っていただき、感謝いたします。」
痩身で気弱そうな眼鏡男性―ルシオ―は、深々と頭を下げた。
予想通り、この男女3人は冒険者パーティーのようだ。この世界のランクが何段階あり、どのような基準で決まるのかは分からないが、DランクやEランクということは、そこまで強くないのかもしれないな。『インペリアル・エイプ』にビビッていた感じからも、そう思える。おっと、俺も自己紹介しないとな。
「俺は・・・」
ここで俺は、自分の生前の名前をそのまま言うべきか迷った。ブラント、ティルザ、ルシオという3人の名前から推測するに、この世界の名前は、生前の欧米の名前に類似している。それに、名字とか家名があるのかが分からない。名乗るときには名字や家名を省略するのか、それとも、そもそも名字や家名の概念がないのか。う~ん・・・。
数秒悩んだ末、俺は転生したこともあるので、新たな名前を自分につけることに決めた。せっかくの生まれ変わったのだ。新しい人生を歩む第一歩として、「佐藤優紀」という名前を封印するのも悪くない。
「俺は、ユリウスといいます。諸事情で、今は旅を続けています。ただ、その諸事情については、あまり詮索しないでいただけると助かります。皆さんにもご迷惑をおかけすると思うので・・・。」
転生後の名前は、共和政ローマ期の有名な政治家・軍人の人物から拝借した。何となく、名前の響きも良いし。
「私の名前はフィオナ。私も『とある目的』があって、ずっと旅をしているの。3人が無事で良かった。」
小柄で細身な美少女―フィオナが淡々と自己紹介をした。フィオナは山吹色の刺繍が少し入ったローブを着ており、いかにも旅人という感じだ。まぁ、それ以上にめちゃくちゃ端正な顔立ちなんだけど・・・。
「さてと、これからどうするかだが・・・。」
全員の自己紹介が終わったあと、ブラントが今後の行動について言及した。
「俺たちは、ギルドから受けた薬草と鉱物の採集依頼の途中だったんだけどよ・・・。」
「採集した物を運ぶ荷車がこれじゃあね・・・。」
ブラントとティルザは、大破した荷車をため息まじりに見つめた。確かに、あの状態では依頼達成どころではないな・・・。
「というわけで、俺たちは一度ギルドに戻って、事の顛末を報告してくる。」
「ユリウスさんが倒した『インペリアル・エイプ』の死体も、ギルドに回収してもらわないといけませんし。」
ルシオの言葉で俺はハッとした。これはヤバいぞ・・・。
「あの・・・すみません・・・。こんなことを言うのも何なんですが、『インペリアル・エイプ』を倒したのは、僕以外の誰かということにしてくれませんか?」
彼らの反応から察するに、閻魔種の『インペリアル・エイプ』を討伐することは、非常に難しいのだろう。つまり、俺が一撃で討ち取ったということが広まれば、一気に悪目立ちしてしまう。ただでさえ、アホ女神によってよく分からないスキルを付与されたのだ。変に目立つことは、何としても避けたい。
「えっ、あんた正気か?『インペリアル・エイプ』をたった1人で倒したとなれば、叙勲ものだぞ?安定した将来が確定するのにいいのか?」
「褒賞金もかなり支払われるわよ?勿体ない。」
「もしかして、また諸事情というやつでしょうか?」
ブラント、ティルザ、ルシオの冒険者パーティーは、「うわ、こいつマジかよ。」という視線を送ってくる。だが、その厳しい視線に屈するような俺ではない。こんなことで悪目立ちすれば、何をされるのか分かったもんじゃないからな。
「ま、まぁ、そんなところです。それに、フィオナさんの凄まじい攻撃で弱っていたところに、俺がトドメの一撃をくらわせた感じなので・・・。だから、倒したのは、実質フィオナさんですよ。叙勲とか褒賞金とか、そういうのはフィオナさんが受け取るべきかと。」
俺より先に到着し、3人を助けようとあの「化け物」にただ一人で対峙していたフィオナこそが、正式に称えられるべきだろう。俺なんかより、フィオナの方が本当にすごいと思う。
・・・あれ?フィオナがすごく険しい顔で俺の方を見てるけど、どういうこと?めちゃくちゃ怖いんですが・・・。
「そうか、ユリウスがそう言うなら、ギルドにはフィオナが『インペリアル・エイプ』を討伐したと報告しておこう。」
「すみません、ありがとうございます。」
ブラントが、話が分かるおっちゃんで良かった。これで、悪目立ちせずに済むだろう。
「フィオナもそれでいいか?」
「申し訳ないけど、私もユリウスと同じで、名前を出すのは避けてほしい。」
俺はフィオナの言葉に衝撃を受けた。おいおいおい、マジかよ、あんた!!悪目立ちを何とか回避したと思ったのに、こんなところに思わぬ伏兵がいたとは!!クソがっ!!
「おいおい、あんたもかよ・・・。」
・・・よし、ブラント!もっと押していけ!フィオナが倒したことにしろ!さぁ!ほら!
俺は心の中で、ブラントを必死で応援した。
「適当に、通りすがりの凄腕冒険者が倒したということにするのはどう?怪我の手当てをしている間に、その冒険者がすぐに去ってしまったって言えば、大丈夫と思うわ。」
「うーん、ギルドが信用するかどうか分からないが・・・。まぁいいか。そう報告しよう。」
「ありがとう、助かる。」
・・・おい、おっさん!なに妥協しているんだよ!もっと粘っていけよ!フィオナの口車に乗るんじゃないよ!そんなんじゃ、いつかおやじ狩りに遭うぞ!
俺の熱烈な応援はついぞ届かなかったが、結果的に目立つことはなくなったので、まぁ良しとしよう。
「それじゃ、俺たちはギルドに報告してくる。おそらく、『インペリアル・エイプ』の素材の一部が報酬として貰えるはずだから、ここら辺で待っててくれ。」
そう言い残すと、ブラントたち冒険者パーティーはギルドに帰還するため、森の奥へと足早に消えていった。
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