第6話 フィオナとの会話
ブラントたちが見えなくなるのを確認した俺は、早々にこの場所から立ち去ろうとした。
「さて、じゃあ、お疲れ様でした。お先に失礼しま~す。」
定時退勤するサラリーマンのような挨拶をし、俺は元来た道を辿ろうした。ステータスカードを、いち早く見つけないといけないし。しかし、俺の眼前にフィオナが立ち塞がり、鋭い目を向けてきた。
・・・えっ、何?さっきからめっちゃ怖いんですけど。俺、あなたに何かしました?
「どこに行くつもり?まさか、『インペリアル・エイプ』の素材は要らないとか言うんじゃないでしょうね?」
「えっと、そのまさかなんですが・・・。」
確かに、貴重な魔獣の素材は、今後の生活面を考えると必要だろう。だが、俺はそれよりも、悪目立ちすることを避けたいのだ。変な奴に目をつけられたくないし・・・。それに、ギルドの調査団が来たとき、ブラントたちかフィオナが、俺が『インペリアル・エイプ』を倒したと、うっかり口を滑らすかもしれない。ブラントたちには申し訳ないが、『インペリアル・エイプ』の死体があるこの場所から、とっとと離れるのが得策だろう。
それに、もともと、俺はステータスカードを捜索しているのだ。こんなところで何時間も拘束されるのは、本末転倒だろう。説明書をじっくり読んで、色々とこの世界のことも知りたいし。
「はぁ・・・。」
フィオナは俺の返答に大きなため息をつき、呆れた表情を浮かべた。
「ユリウス、あなた本当に何者?さっきも、つまらない嘘をついていたし。」
「ん?嘘?」
「とぼけないで。『インペリアル・エイプ』を倒せたのは、私が弱らせていたからだって言ったでしょ?」
あぁ、そういえばそんなこと言ったな。
「あぁーー、言ったような気が・・・」
「『あぁーー、言ったような気が・・・』じゃないわ!私の攻撃なんて、全然効いてなかった。それは、あなたも分ってたことでしょ?」
「そ、そんなこと、ないです・・・。」
無言でフィオナが俺を睨みつける。・・・怖ぇ~。
「・・・まぁ、分かってなかったと言えば、嘘になりますね・・・。」
フィオナの攻撃は霞色に染まった剛毛に阻まれ、肉体には一切通っていなかった。『インペリアル・エイプ』の耐久力・防御力は、まさに怪物級だったと言えよう
・・・えっ、俺ってそんなやつを一撃で倒したの?マジで、どういうこと?強すぎじゃね?この世界のバグ?
「ごめん、話の途中だけど、その変な敬語やめてくれない?さっきから、話しづらくて。ユリウスって、見た目からして私の2~3個上でしょ?」
初対面の人には子ども以外、基本的に敬語を使うのが俺のポリシーなんだが・・・。まぁ、フィオナ本人がそう言うなら砕けた言葉遣いにするか。
「分かったよ、じゃあこれからは砕けた感じで話すことに・・・・・・おい、今何て?」
おいおい、ちょっと待てよ。フィオナの発言に、聞き捨てならない内容があったぞ。
「えっ?だから、変な敬語をやめてほしいって。」
「いや、そのあと。」
「そのあと?確か・・・あなたは私の2~3個上に見えるって言ったような・・・。」
「そう、それ!!」
「ちょっと、急に大きな声出さないでよ!気持ち悪い!」
おっと、気持ち悪いとは失礼な。俺がガラスのハートだったら、ここで号泣してたぞ。って、そんなことはどうでもいい。フィオナは今、俺の年齢がフィオナの2~3個上に見えると言った。これは、まさか・・・。
「フィオナって、今いくつ?」
「ちょっと・・・。女性に年齢を聞くのは失礼って教わらなかった?」
「フィオナって、今いくつ?」
「あなた、私の話聞いてる?というか、聞く気ある?」
「フィオナって、今いくつ?」
「はぁ・・・・・・。ユリウスの性格が何となく分かってきたわ。・・・・・・私は、今年で18歳よ。」
俺の必殺「ゴリ押し戦術」が功を奏したのか、フィオナはようやく年齢を教えてくれた。フィオナが今年で18歳なので、俺の見た目は、つまり・・・・・・
「クソがーー!!!!!!」
地面に蹲る俺の脳裏には、ニヤニヤと笑いながら、「お・こ・と・わ・り♥」と右手を前に出しているアホ女神の姿が浮かんだ。本当にやりやがったあのアホ女神!!次会ったとき、絶対にボコボコにしてやる!!泣いて謝っても、許してやらねぇ~!!
「ちょっと、また急に大きな声を出して何?本当に気持ち悪いんだけど・・・。」
ドン引きしているフィオナを横目に俺は、大事な確認をした。
「フィオナさん。俺の容姿は、高身長でダンディかな?」
顔を月9ドラマに出てそうなイケメン俳優ばりに決めながら、イケボで聞いてみる。
「・・・・フッ。」
美少女に鼻で笑われた。めっちゃ泣きそう・・・・・。
だが、これでハッキリした。あのアホ女神は、俺の容姿に関する要望を全く聞かず、死んだときと同じ年齢・見た目で転生させたのだ。俺はそっと、アホ女神への復讐を誓った。
・・・絶対、痛い目に合わせてやる!まぁ、どうせ今頃あのパジャマ姿で寝てるんだろうな。・・・何だか悲しくなってきたよ、パトラッシュ。
「話がかなり逸れたけど、本当にあなた何者?閻魔種を一撃で倒すなんて、あり得ないわ。本来『インペリアル・エイプ』はAランク冒険者がグループを組んで、ようやく討伐できる魔獣なのに・・・。ユリウスはAランク冒険者なの?・・・ま、まさか・・・ウィザード?」
・・・ほぇ?ウィザード?何それ、美味しいの?
ここはAランク冒険者とでも言うべきなのか・・・。いや、変にランクを言うと、後から色々詮索されるかもしれないな。う~ん・・・。
「・・・・・・。」
「はぁ・・・。何か言えない事情でもあるのね。分かったわ、これ以上の詮索はしないから。」
フィオナは、考えている俺の表情を見て、特別な事情があるのだろうと察した。そうしてくれると、ありがたい。
「ユリウスはこれからどうするの?」
「そうだな、とりあえず、自分のステータスカードを探そうと思う。」
さっさと、ステータスカードを見つけて、次の目標を早めに設定しないとな。
「えっ、ユリウス、まさかステータスカードをなくしたの!?」
「まぁ、なくしたというか・・・なくされたというか・・・。この辺のどこかに落ちているはずなんだけど。」
ステータスカードを探すと言った俺に、フィオナは目を見開き、驚愕の表情を浮かべた。美少女だけど、コロコロと表情を変えるから、おもしろいな。
「個人情報の塊のステータスカードをなくすなんて、相当マヌケとしか・・・。」
「あはは・・・。」
フィオナは、呆れ果てた様子で苦笑いする俺を見てきた。やはり、ステータスカードは重要な所持品の一つのようだ。そりゃ、呆れられるわな。クソ、あのアホ女神め!!
「ステータスカードの再発行には、かなりのお金と時間がかかるから、なくした場所が分かっているのなら、見つけ出す方がいいと思う。でも、早く見つけないと悪用される可能性があるわよ?よかったら、私も一緒に探そうか?」
「マジで!?それは助かる!」
フィオナのありがたい提案に、俺は即答した。1人より2人の方が早く見つかる可能性が高いからな。フィオナ、案外良い奴だな。異世界に来て早速、優しい人物に出会えるとはラッキーだ。
すぐにステータスカードの再捜索に行こうと思ったが、地面にうつ伏せで息絶えている「化け物」がチラッと目に入った。
「でも、この『インペリアル・エイプ』はどうするんだ?フィオナは、こいつの素材が欲しいんだろ?」
俺は、素材を所持することで、変に注目されるのは避けたいから全然構わない。だが、フィオナは倒したことは伏せておきたいが、『インペリアル・エイプ』の素材はゲットしたい感じだ。どうすべきだろうか。
「あ、それなら大丈夫。」
そう言うと、フィオナは懐から小刀を取り出し、『インペリアル・エイプ』の死体から、手際よく霞色の硬い毛皮や大口に生えている鋭い牙などを一部剥ぎ取った。非常に慣れている手つきだな。
・・・おぉ、ちょっとグロテスクだな。
「おいおい、勝手に剥ぎ取って大丈夫なのか?」
この世界の法律とかルールはまだ分からないが、ブラントたちの言動から推察するに、『インペリアル・エイプ』とかの閻魔種討伐は、ギルド調査団に報告する義務があるのだろう。調査団が来る前に剥ぎ取るとか、かなりヤバイんじゃ?もしかしたら、逮捕・投獄かも・・・。
「ここに2人しかいないけど、この私が剥いだという証拠はどこにもないんだから、全然大丈夫。」
なるほど、確かにこの状況では、フィオナか俺のどちらが剥ぎ取ったか、正確に分からな・・・。
「おい、ちょっと待て。その論理だと、俺が無実の罪に問われる可能性があるんだが。」
「さぁ、何のこと?」
俺の問いかけに、フィオナは両手を軽く挙げて、首を傾げながら答えた。
・・・こいつ!あのアホ女神と性格が似てやがる!
俺は静かに、拳を力強く握りしめた。だがしかし、このときの俺は「インペリアル・エイプ無断剥ぎ取り事件」が、のちに数千倍になって返ってくるなんて、思いもしなかった・・・。
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