第34話 開演!

          1 


 すべての照明が落ちる。

 訪れた暗闇は大きな歓声を呼び起こした。真っ暗になった体育館には魔法がかかっている。非日常的な高揚感が満ち満ちていた。

 カウントダウンが始まった。

 それを聞きながら、舞台袖でマイクを持ち、笑う。隣にいる四人も微笑んでくれた。


「さあ、いよいよ文化祭も終わり! いまから最後の後夜祭だよ!」


 舞台袖で祭里が叫ぶ。マリナが涙ぐんでいた。


「本当に、ここまでこれるなんて、思ってなかった。ありがとう、みんな」


 祭里のその声は、あがった歓声にかき消された。なんて? と細波が意地悪な笑みを浮かべて訊いてきた。祭里は苦笑した。


「気を取り直して。ありがとう、みんな。──見てて」


 祭里はマイクを持ち、笑った。隣にいる四人も微笑んでくれた。


「もう開演までのカウントダウンはじまってるよ。後野祭里、乗り遅れないでね」


 いつまで細波は祭里をフルネームで呼ぶのだろう。まあいっか、と祭里は思い直す。大きく息を吸い込み、最後のスリーカウントに乗る。


「3、2、1……」


 胸が激しく鼓動を打っている。大きく息を吸い込んで、一気に声を発した。


「それでは後夜祭、スタートです!」


 直後、激しいドラムロール。軽音楽部の演奏がはじまる。


「レッツパーティ!」


 ボーカルがシャウトすると場のテンションは最高潮に達した。

 こんな、こんなものがつくれるなんて。

 まるで夢のようだと、思いながら。舞台袖で彼らの演奏に身を任せた。



          2


 軽音楽部の演奏が終わり、閉じられた舞台幕には、祭里たちの演劇の配役リストが投影されていた。



《配役》

・プリンセス(ローラ)/後野祭里

・王子(フィリップ)/細波レン

 皇女姉妹

・長女(テネシー)/てしがわらマリナ(仮名かな表記は本人希望)

・次女(スーザン)/手嶋かなで

 フィリップの従者

・騎士(ケイリー)/氷室祐介



 ブザーが鳴った。いよいよ、開演の、ときだ。

 カウントダウンが始まる。幕が上がる。いよいよ始まる──。

 舞台袖で、ドレスに身を包んだ祭里は後ろへとふりかえり、笑った。


「みんな行こう! 最後だよ!」


 フリフリのドレスの裾を踊らせながら、祭里はステージへ駆け出していった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る