第8話 自由の空間
そして、即売会当日。
場所は街はずれにある寂れた集落の一棟の大きな建物。屋内ではまばらながらも人が集まっている。
「ふおお! スゴイ! この作品はすごいですううう!」
リリナちゃんは男同士の裸が描かれた薄いマンガ本、同人誌というらしいが、それを見ながら鼻血が出んばかりに興奮している。
「見て! 見てください先輩! この絡みのシーンすごく繊細なタッチじゃないですか⁉」
「あ、あまり見せないで! はずかしい……」
私はただでさえエッチな描写は苦手なのに、それが、その、男同士なんて。私には刺激が強すぎる。こんなの町にばら撒いたら即行逮捕だよお!
「気に入ってもらえましたかな?」
「それは! それはもう! お買い上げですう!」
参加者は皆何かしら仮面を付けたり動物の被り物を被ったりしている。当然ながら、素顔がバレないようにするためだ。とは言っても、ここに来ることができるのは、反体制派に協力しているか、レジスタンスメンバーとコンタクトを取っているかのどちらかの人間のみなのだが。そして、彼等を警護する私たちも仮面をつけている。万が一内通者がいる場合に素顔がバレないようにするためだ。
「お前たち。何を遊んでいる。私たちは客じゃないんだぞ」
ふと、背後から気配なしにアイシャ会長が声を掛けて来た。会長はキツネの仮面をつけている。可愛い。
「わかってますう。でもせっかくの機会なんですから、ちょっと中身を見るくらいいいじゃないですかあ。検閲ですよ検閲」
「ここを警護してる私たちが見てるのは検閲って言わないんじゃ……」
テキトーな返事に静かにツッコミを入れる私。
「まあ、三十年以上前はこういった事が当り前に開催されてたと言うのは、とても貴重な事なのかもな」
「そうですね」
アイシャ会長の言葉を聞いた私は、会場にいる人たちを見つめた。
皆仮面をつけているから表情こそわからないものの、とても生き生きしているように見える。自分の言いたいこと、伝えたいことを絵や文章で表現する。そこに価値や意味を付けることはできないし、これって凄く心が解放されることなんだ。逆に、押さえつけられると、首を絞められているかのように息が詰まる。
「リリナの夢がここで小さいながらも実現してるんですう。リリナは政府のクソデブと犬を全員撃ち殺したら、こういう事が大っぴらに、誰からの指図も受けることなくできるようにしたいんですう」
「まったりした口調でスゴイ剣呑なことを言うよねリリナちゃんは」
リリナちゃんの言葉はさておき、私もほとんど同じ意見と夢を持っている。いや、私だけじゃない。アイシャ会長も、キャプテンも、レジスタンスメンバーも、皆が同じ夢を持っている。だから、絶対にどれだけ押さえつけられても、負けるわけにはいかないんだ。
そう、思っていた時だった。
入口の方が騒がしくなった。どうしたのかと思った時、バタバタとたくさんの人の足音が聞こえた。
「警察だ! 全員ここを動くな!」
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