第5話 訃報

 私たちは、対象を乗せ、一棟のビルに到着した。そこは以前ブリーフィングをした部屋のある建物とは別の場所だ。


 そのビルの地下、そこは人が何十人も入れるほどの広さがある集会所があった。ここも、私たちレジスタンスの拠点の一つである。


「皆、揃ったな」


 対象を護送したメンバーと、拠点を警護するメンバーが合流し、キャプテンもそこに現れた。


「サーリャ、リリナ、アイシャ、三人ともご苦労だった。よくやってくれた」

「ホントですよお! 私なんて機関銃でハチの巣にされそうだったんですからあ!」

「サーリャがハチの巣になるのなんていつものことじゃね?」

「それな」

「何ィ⁉ ぐえっ!」


 男性のレジスタンスメンバーたちに私が飛びかかろうとしたときに、アイシャ会長が首根っこを掴んで制止した。苦しい。


「それで、フランク氏はどちらに?」

「もうすぐ来るはずだ。どうぞ、こちらに」


 アイシャ会長の問いに答えたキャプテンは、丁寧な仕草で一人の人間を部屋に招き入れた。


「え?」

「へえ」


 私とリリナは思わず声を漏らしていた。


 視線の先にいたのは、一人の小さな少女だった。身長はリリナと同じ百五十センチくらいか。服装は変装ように清掃員のような青い服を着ているが、黒髪のおかっぱ頭でくりっとした大きな目が可愛らしい。


「ごきげんよう。同志諸君」


 少女は見た目とは裏腹に低い声で私たちに挨拶をした。


「私はエストレヤ・フランク。ご存じの通り反体制派の旗振り役を仰せつかっている。今回、貴方たち日々圧制と戦うレジスタンスメンバーに会えてとても光栄に思う」

「リリナちゃん、あの子、幼女だよね?」

「幼女ですねえ、でもなんであんなにしゃがれ声なんでしょお」

「お前ら、失礼だぞ!」


 私とリリナが思った事をうっかり口にしたら、アイシャ会長が血相を変えて注意してきた。


「ほほほ、構わんよ。私はこう見えてもう六十過ぎの婆さんだ。ちょっと訳アリでこんな見た目をしているがね」

「あ、幼女じゃなくてロリババ――」


 私がまた思った事を口にすると、アイシャ会長が鬼のような形相で私を睨んできた。怖いよ。


「さて、今回私が危険を冒してまでここに来たのは、我ら反体制派のかつての指導者、ジョニー・クリステンセン氏が投獄されて十年の節目にして、クーデターによって政権が覆されてから三十年の節目になるからだ。我らはすでに長い事政権の圧制に苦しむまま、大きな変革を成し遂げていない。私はこの状況に大きな危機感を持っている」

「パパ……」

「君が、サーリャ・ナイチンゲールか」

「あ、はい」


 私が短く返事をすると、フランク氏は目を細めて私を見た。


「君の活躍は聞いている。お転婆で破天荒なところはお父さんそっくりだな。皆君の働きに期待している。頑張ってくれたまえ」

「は、はい……」


 私にとって、パパは一人の漫画家で、それ以上でもそれ以下でもない。周りが勝手にそうやって持ち上げたせいで、パパは捕まったんじゃないのか、そう、今でも思う時がある。


 そんなふうに、私が一人で物思いに耽っていた時だった。


「おい! 大変だ!」


 レジスタンスメンバーの一人が顔を真っ青にして部屋に飛び込んできた。


「どうした」


 キャプテンが短く問うと、彼は手に持っていた小型のテレビを私たちに向けて来た。


 画面にはニュースが流れており、それを見た全員は言葉を失った。


『臨時ニュースです。先ほど、反体制派の指導者だった、ジョニー・クリステンセン受刑者が死亡しました。繰り返します。先ほど……』


 私は、聴覚がだんだんと遠のき、何も聞こえなくなる感覚を覚えていた。

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