第4話 グリムノーツ・エンゲル

「……っ!」


 私が思わず閉じた目を再び開くと、銃を持っていた男が倒れこむ姿が見えた。


 そして、フランク氏を乗せた車の方を見ると、アイシャ会長が両手に銃を構えていた。銃口から煙が上がっている。どうやら彼女が男を倒してくれたらしい。


「サーリャ!」


 呆然としている私の下に、アイシャ会長が駆けつけてきてくれた。


「大丈夫か? 全く、お前は詰めが毎回甘いんだ!」

「か、かいちょおおおおおお‼」


 私は泣きながら会長の胸に飛び込んだ。ああ、意外とあるこの胸の感触、最高。私は同性の特権だと言わんばかりに会長の胸に顔を埋めてグリグリと頬ずりした。


「わかった、わかったから! もう大丈夫だから離れろ!」


 会長はくすぐったいのか感じちゃってるのか、勢いよく私の肩を掴んで私の顔を引き剥がした。


「リリナ、合流しましたあ」

「リリナちゃんもありがとおおおおお!」


 私は今度はリリナちゃんの薄い胸に照準を合わせて飛び込んだ。


「ちょっとお、止めてくださいよお。痛いですぅ」

「ああ、会長と違ってこの薄いおっぱいもいいかも」

「頭ブチ抜きますよ?」


 可愛い後輩が真顔になり危険な雰囲気になったので、この辺りで退いておくことにした。


『皆、大丈夫か?』


 突如、インカムからキャプテンの声が聞こえた。


「はい、こちらは大丈夫です。対象は無事です」


 アイシャ会長はバンの中にいるフランク氏を見ながら淡々と答えた。どうやら保護対象は無事のようだ。


『よし。そのまま合流地点まで向かえ。追手はまだ来るかもしれない。その場から速やかに離れろ』

『了解』


 その場にいたレジスタンスメンバー全員は揃って返事をすると、急いでバンに乗り込んだ。


「じゃ、私も」


 私も車に乗ろうとしたとき、窓からアイシャ会長が顔を出した。


「サーリャ、お前は引き続きバンの後ろを走って警護してくれ」

「そんなあ!」

「頑張ってくださいねぇ、先輩」

「ひどいい!」


 私は、結局最後まで走らされることになってしまった。




 場所は変わり、王国首都、ガングルフにある首相公邸。


「対象はどうなった」

「逃げられました。やはり民兵はあてにできませんね」

「ふん」


 秘書から報告を聞き、鼻から息を吐いて大きな椅子にふんぞり返った一人の太った髭面の大男。サン・ノワール王国首相、グリムノーツ・エンゲル。


「まあいいがな。老害一人放っておいたところでこちらに何かがあるわけでもない」

「今年はジョニー・クリステンセンが有罪判決を受けて十年の節目となります。あちら側としては士気を高めておきたいのでしょう」

「下らん。何が自由を取り戻すだ。誰のおかげで平和な毎日を享受できていると思っている」

「ねえ、パパぁ。私早く遊びたいよお」


 その場にそぐわない、一人の制服を着た長い金髪の少女がグリムノーツの背後に現れた。秘書は嫌悪と恐怖で顔が歪むのを必死になって抑えた。


「まだ待っててくれカンナ。お前が遊べる環境はもうすぐ整う」


 カンナと呼ばれた少女の頭を撫でながら、グリムノーツは大きく口元を歪ませて笑みを浮かべた。

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