第3話 カーチェイス
そして、任務当日。私たちは反体制派代表、エストレヤ・フランクの警護の為、それぞれ配置についていた。
メンバーに指示を出すのはもちろんキャプテンだ。居場所はわからない。万が一メンバーが敵に捕まったときに、彼の居場所を吐かせて特定されないようにするためだ。
『準備はいいか、リリナ』
「はーい、こっちはいつでもオーケーですよお」
キャプテンの声に応えたリリナは周辺で一番高いビルの屋上に陣取っていた。既に身の丈を超える大きな狙撃用ライフルを構えてレンズを覗き込んでいる。
『サーリャはどうだ』
「あ、はい。大丈夫でーす」
私はとある歩道で待機している。恰好はランニング用のスポーツウェアだ。この姿で対象を乗せた車を自分の足で追いかける。
『アイシャはどうだ』
「すでに対象を確保済み。一緒に車に乗っています」
アイシャ会長も冷静に返事をした。すでに全員、準備は整った。
『よし。何かあったらすぐに連絡しろ。こちらも一応モニターで状況はわかるが、必要な指示は逐次出す』
『了解』
そして、対象、フランク氏を乗せたバンが動き出した。見た目はクリーニング業者のロゴが入っている普通のバンだ。
「こちらAチーム、現在対象を護送中だが異常なし」
助手席にいるレジスタンスの男性メンバーが周囲を見ながら報告を入れる。
「こちらBチーム。異常なし」
対象を乗せたバンを警護するセダンが少し離れたところからくっついてきている。今のところ順調に任務は進んでいる。
「ふあーあ」
私は特に今のところやることがないので、思わず欠伸をしてしまった。
「あ、先輩今欠伸しましたねぇ?」
「ご、ごめん。あまり眠れなくて」
「気を引き締めろ。いつ何が起きるか分からないんだぞ」
「すんません」
会話が会長にまで聞こえていたようだ。インカム越しに怒られてしまった。
『よし、とりあえずそのまま全員持ち場を維持しろ。当局がすでに状況を掴んでいたとしたら必ず邪魔をしてくるはずだ』
キャプテンの指示を聞いて、私は作戦の内容を頭の中で確認する。
「来ないでほしいなあ。おじさん一人運ぶだけなんだからさあ」
「せんぱーい、それってフラグですよお?」
「だ、だってホントの事だもん。来ないでほしいって思ってるのは皆同じでしょ⁉」
「お前がそういうことを言った時は大体無事には終わらないんだがな」
「会長まで……」
そして、リリナと会長の懸念は見事に的中してしまう。
しばらくして、何事もなく目的地につくかと思われたその時だった。
突然、バンの後ろを走っていたセダンが一台のトラックに横から突っ込まれた。鉄がひしゃげる鈍い音が周囲に響く。
「Bチームがやられた!」
「後ろから二台のバンが付いてきている! キャプテン!」
『とにかく飛ばして撒け! 地点アルファまでまずは移動だ。サーリャ! お前はバンに付いてくる車両を足止めしろ!』
「り、了解!」
やっぱり変な事言うんじゃなかった! そんな風に後悔している内に、仲間のバンが角を曲がってやってきた。後ろに同じ型のバンが二台猛スピードで付いてきている。
「ひいい、来たあ!」
私は緊張がマックスになって心臓がバクバクと鼓動の速さを増しているのを感じながらも脳と下半身に意識を集中させる。
「
私は一歩目から最大速度で走り出し、すぐに敵のバンの背後に付いた。
「ごめんなさーい!」
私は拳銃を取り出すと、バンのリアタイヤに一発ずつ銃弾を撃ち込んだ。バンは一気にスピンして路肩のガードレールに突っ込んで停止した。中の人間は皆気絶しているのだろうか、誰も出てこない。
「次!」
一台を強制的に停車させた私はもう一台のバンに狙いを定めた。その時だった。
バンの窓が開き、黒い塊がにょきっと伸びて現れた。
「い……っ⁉」
それが機関銃であると知ったとき、すでにそれは私に向かって火を噴いていた。
「ひいいいいっ!」
悲鳴を上げながら、私は右往左往してなんとか躱すが、それに精一杯で中々バンのタイヤに照準を合わせることができない。
「リリナぁ! 助けてえ!」
「全く、世話の焼ける先輩ですねえ」
リリナはそう言いながら改めてレンズを覗き込む。
「いたいた」
リリナがバンを見つけた時、それは大通りを時速百キロ近くで走っていた。しかし、その程度のスピードはリリナにとっては止まっているも同然だった。
「キャプテーン、運転手ヤッちゃっていいですかあ?」
『許可する。躊躇はなしだ』
「ヤッタね!」
リリナは笑みを浮かべて舌で唇を舐めると、すぐさま引き金を引いた。
バンの運転手の頭が吹き飛び、フロントガラスが真っ赤に染まった。そして、コントロールを失ったバンは蛇行をしながら近くの建物に突っ込んだ。
「お、やった。リリナちゃんありがとおおおお!」
私はようやく敵のバンに追いつき、対象(フランク氏)を乗せた車もその場に停止した。
『リリナ、周囲の状況はどうだ』
「今のところ怪しいヤツはいないですう」
「もう来ないでほしいよお……」
私がとほほと思いながら肩を落としてそのまま敵のバンに背中を向けたその時だった。
背後から、一人の男がふらつきながらバンを降りて銃をこちらに向けてきていたのだ。
「先輩! 後ろ‼」
「え……?」
リリナの大声を聞いて振り返ったとき、既に周囲に銃声が響き渡っていた。
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