第2話 ブリーフィング

 放課後、陽が傾いた午後六時、私とリリナ、そしてアイシャ会長の三人はとある三階建てのビルの一室にいた。カーテンが閉まっているため、中は薄暗い。


「よし、全員揃ったな」


 そう言って現れたのは一人の迷彩柄の軍服を纏った、長身で筋骨隆々の若い男だった。角刈りの黒髪でむすっとした顔はまさしく鍛え抜かれた軍人のそれだ。普通の男だったら相対しただけで逃げ出すだろう。


「話ってなんですか? キャプテン」


 私がキャプテンと呼んだその男の名はグレン・フォード。私たちが所属している反政府組織、レジスタンスの幹部の一人だ。


「ああ、今回反体制派の代表、エストレヤ・フランク氏がこの町に訪れることになった」

「同人誌即売会の護衛とかじゃないんですかあ? つまんなーい」


 話の内容を聞いたリリナがぷうっと頬を膨らませた。


「まあそう言うな。今回はフランク氏が来る目的は、我ら反体制組織に対して演説をするためだ」

「演説? なんで今そんなことをする必要があるんですか?」

「よく考えてみろ、サーリャ。今年は君のお父さんが捕まって十年になる。その数字の節目に反体制派の指揮を高めようということだろう」

「パパ……」


 アイシャ会長の答えを聞いた私の身体がビクッと動いた。


「そうだ。我らの道標であったサーリャの父、ジョニー・クリステンセン氏が拘束されて今年で十年だ。それまで我らは大きな変革を起こせていない。さすがに士気も下がるころ合いだ。それを考慮しての事だろう」

「それで、私たちが選ばれたということですか?」


 私の問いに、キャプテンは首を縦に振って頷いた。


「この地域のレジスタンスメンバーの中でも、君ら三人は主要戦力だ。特にサーリャ、君の『能力』には大きな期待が寄せられている」

「え、私?」

「お前の力は動物の能力をその身に宿すことができる。それはこの世の科学では解明できない不思議な力だ。それは攻撃でも防御でも絶大な力を発揮する。こういう時こそ使いどころだろう」


 アイシャ会長はそう言ってくれるが、私は自分のこの力に関してはあまり自信がない。


「私なんて、ただすばしっこいだけで、リリナみたいに狙撃が得意だったり会長みたいに隠密行動が得意だったりするわけじゃないし」

「そんなことないですよお。素早さは戦いでは最大の武器ですし、今までもそれで何とか乗り切ってきたじゃないですかあ」

「そうだけど……」


 リリナはそう言って励ましてくれるが、私は、人を傷つけるのが苦手だ。それで何度も仲間には迷惑をかけている。


「まあ、今回は敵に対する攻撃ではなく、あくまで要人の警護だ。そこは気にする必要は無いだろう」

「そう、ですね」

「さて、計画の詳細をこれから説明する。皆しっかり聞いてくれ」

『了解』


 こうして、私にとって、久しぶりの任務が始まることになった。

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