もう一度だけあの星空を②
よくよく落ちついて考えれば、向こうからは見えていないのだから何も言わずに部屋からそっと
「お
僕は思わずくびをかしげた。明らかに、その質問はおかしかったのだ。お医者さんや看護師さんというのがだれのことを言っているのかはよく知らないが、少なくとも地球人であるかぎり、その人たちが透明であるはずもない。ここにいるのはコンパスの力で必死に身をかくす、ただの宇宙人だ。
「ねえ、そこにいるのはわかってるんだよ。お返事してよ」
そう口では言いつつも、アイの目はどこかうつろで
これでもし、彼女が
僕は
……いや、待てよ。逆にこの
「ごめん、びっくりさせちゃった?」
僕の声にアイは少しだけ体をのけぞらせたが、すぐにもとの
「僕は……その、君のおかあさんの友達で……」
「なーんだ。それならそうとはやくいってよ」
「ごめん。え、えっと……それで君にききたいことがあるんだけど」
「名前は?」
「え?」
「あなたの名前。後でおかあさんに
これはまずい。もしこの場をデタラメで切りぬけようものなら、二度とアイの話は聞けないかもしれない。だからといって今さら「ウソでした」とバカ正直に言うわけにもいかない。子どもの
そうやってグルグルと
「くふっ、あはは! わかった! 病室まできちゃったこと、おかあさんにバレるのがはずかしいんだ! あなた、もしかしてストーカー?」
「ストーカーって?」
「人の後ろをついてまわる人のこと! そんなことも知らないの?」
まあ、そう言う意味なら、あながちまちがいではないのかもしれない。
「そうとも、いうかもしれない」
「……正直な不審者さんだね。ちょっとびっくり」
「でも、僕は君のおかあさんに迷惑をかけるつもりはない。ただ願いを叶えてあげたいんだ」
はたからみればかなりあやしまれるようなことを言っている
「ねが、い……? おかあさんの願いごとを? どうやって?」
「それを決めるために、その願いが一体なんなのかを君にきこうと思ったんだ」
アイはだまってうつむき、何かを考えこんでいる様子だった。
「本当に、本当に叶えてくれる?」
「……うん、できるかぎりのことはするよ」
僕はそう答えるしかなかった。あいまいな返事をしてしまったら、彼女はもう心を開いてくれないような気がしたから。
アイのくちびるがかすかにひらき、空気がゆれた。ベッドのシーツにかるくシワが走る。
「……お金」
「……え?」
「お金だよ。おかあさんの願いごとは、私の目の
僕の
僕の場合は父さんや母さんをとりもどすために、えらい人にたくさんお金をわたさなければいけないので、お金なんてあってないようなものだったけれど。
「どれくらい
「わかんない。でも、少なくともおかあさんじゃ
「そう、なんだ」
アイはくるしそうに口をゆがめた。シーツのシワはどんどんと
「なのに、それなのに、おかあさんはいつも、いつもはたらいてばっかりで……。無理だって、はらえないっておかあさんもわかってるはずなのに。私の目が
「わかった。わかったから、泣かないで、落ちついて」
「……べつに、泣いてないし」
そう言って彼女は
「よし、わかった! じゃあ僕が、おかあさんの代わりにお金をたくさんあつめてくるよ」
口からでまかせもいいところだ。だけど、これ以外に願いを叶える方法が、僕には思いうかばなかった。
「……どうやって?」
「それは……。お金がたくさんあるところから、持ってくるとか」
「あのね、それって犯罪だよ? ハンザイ。わかる?」
アイの言うとおりだ。いくら透明になってしまえばやりたい
「それに、そんなことで手に入れたお金で目が見えるようになっても気分がわるいだけ。私は、だれかを不幸にしてまで自分の目を治したいわけじゃない。それくらいなら、べつに今のままでいい」
僕は何も言えなくなってしまった。正直、いい
「……期待した私がバカだったね。てっきりお金持ちのストーカーさんなのかと思った」
彼女はのそりと
「……ごめん」
「いいよ、べつに。お金がダメならさ、せめておかあさんが無理しないように、私の目のことをあきらめさせてよ」
顔はよく見えなかったけど、その声はわずかにふるえていた。無理しているのはアイのほうじゃないのかと、そう言いたかったけれど、彼女の心はすでにかたく
「かんがえて、おくよ」
「……」
アイは口をつぐんだまま手さぐりで布団をつかみ、あたまから足までをすっぽりとおおいかくした。もう僕と話す気はないようだ。
僕も、何も言わずに病室を後にする。アイの母親をおいかけて願いをあきらめさせるべきか、それともお金を大量にあつめる方法を今からでもさがすべきか、また、ついグルグルと考えこんでしまう。
結局、自分の中ではっきりと答えを出せないまま時間ばかりがすぎていって、気がつけば僕は、あてもなく
——ボスン。何かやわらかいものが無気力な僕の足にふれる。黒くて大きなゴミ
むすびがあまかったのか、僕が持ち上げた
そこに入っていたのは、数えきれないほどたくさんの紙の
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