きらきら星になりたい③
ミイがいなくなってしまった日も、チエはゆったりと読書を楽しんだり、縁側でくつろいだり、いつも通りの日常を過ごしていた。ただ、その目はいつもどこかさびしげで、何をしていても
「ミャー」
なぐさめるように僕が鳴くと、彼女はいとおしそうにフサフサの毛を手ですいて笑った。
「なあに、ブチもミイが
そう言って僕をなでるチエの
夕方になっても一向に帰ってこないミイに、いよいよしびれを切らした僕は、あたりを少し探してみようと思い、軽い気持ちで庭に出た。
「……ブチッ!」
いたいくらいに
うなじに、何か温かいものが走る。それはつうと僕の背中を伝って、モノトーンの毛並みにじわじわと吸いこまれ広がっていった。
「行かないで……。ブチまでわたしをおいていくの? イヤだ、もう一人はイヤなの」
彼女は、泣いていた。今までの、のほほんとした
こんな
「……ニャー」
まるで子どもをあやすように、僕は肉球をチエの手にかさねる。カサカサで、今にもこわれてしまいそうなほどたよりなくて、でもやさしくて温かい手。
そのさびしさが、ひとりのつらさが僕にもわかってしまうから……。だから僕は、チエが寝静まった夜にもう一度だけ、ミイを探しに行くことを決めた。
月と星の明かりだけが、庭の草木をあざやかに浮かび上がらせる。
縁側は昨日と同じく
いや、それだけじゃない。もう一つ、僕には見落としていたものがあった。
僕はずっと大きな
『ありがとうって、いっしょにいて楽しかったって、伝えて』
最後に聞いたミイの言葉が、ずっとあたまからはなれない。その
僕は走った。夜の
むねの光は確実にそのはげしさをましている。このあたりにいることはわかっているのに、それでもなかなかミイの姿が見つからない。
「ミイ! ミイー!」
力のかぎり僕はさけぶ。声がかれるほど、のどがすりきれるほどにあいつの名前を呼び続けたけれど、
アスファルトにポタリと
空が、知らぬまに星も月もかくしてしまったくもり空が、ポツリポツリと泣いている。僕の瞳からも、ひとすじのぬるい雨がふる。
不意に、強い光が僕の目をさし、くらませる。あまりのまぶしさに、僕は思わず人目につかない
車が水たまりをはねとばしながら僕の前を
カケラだ。星のカケラが、こんなうすよごれた路地裏の中でひときわうつくしく、そのきらめきを
ならば、ミイは。あいつはどこにいる。いるはずだ、かならず近くにいるはずなんだ。だって、このカケラは、ミイの心にあったものなのだから。探して、ちゃんと見つけないと、ここまで追いかけた意味がない。見つけるんだ。ぜったいに、見つけなければ。どこだ、たのむ……返事を、なんでもいいから、ただ
雨はいよいよその勢いをまして、僕も、カケラも、あたりにちらかるゴミも、
ふと視界に入った
やっと、見つけた。ゆっくりと、その背中に肉球をおしあてる。
……冷たい。こおりのように冷たくて、小さくて、ピクリとも動かない。
「起きて。ねえ、起きてよ。ミイ」
ぐらり、とその体が
「ミ……」
その瞳は、もうなにもうつしてはいなかった。どしゃぶりの雨が、
ふるえが止まらないのは、僕一人だけだった。
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