明星をその手に②
ソラは地球人のなかでもかなりあたまがいい方なようで、コンパスや星くず、星のカケラについての長ったらしい説明を、一発でほとんど理解してしまった。
「なるほど……。星くずは使い切りの電池みたいなもので、星のカケラは……ほぼ
「このコンパス一つで透明化から物への
説明を理解してくれたのはいいが、さっきからソラは翻訳を通してもさっぱり理解できない単語ばかりをくり返しつぶやいている。まったく、あたまがよすぎるのも考えものだ。
僕は、終わりの見えない彼のひとりごとをさえぎるかのように話しかけた。
「理解出来たか?」
「ああ、大体わかってきたよ。君はその星のカケラとやらを失くしたばかりに、こうして地球でいろいろ頑張っているわけだ」
「そう、その通り。そして、僕が
「へえ、そう言われても自分じゃわからないな……」
「願い事をしたはずだ。星のカケラが引きよせられるほどの強い願い。ソラ、お前は何を星に願ったんだ?」
だからお前じゃないって、と文句を言いながら、ソラはおもむろに立ち上がり僕を見下ろした。コンパスの光に照らされたその顔には、どこかさびしさがただよっていた。
「……もうすでに、半分は
また明日、同じ時間に。そう言い残して、ソラは宇宙船を後にした。
「答えになっていない」と言ってやりたかったのに、彼のこまったような表情を見るとなぜか何も言えなくなってしまった。
一体何が彼の願いだったのか、どうして叶いかけているのに残念なのか、いくら考えてみてもさっぱり思いつかなくて、結局僕はソラのことを何一つ知らないままだった。
やっぱり生まれた星がちがうと
さわがしかった宇宙船はまたいつも通り、静かな僕だけの空間となった。そう、元通り、今まで通りのはずなのに、心に
「そうか、さびしかったのは、僕の方か」
思えば、
だから、ソラと交わしたなんてことない会話が
「……また明日、か」
今はまだ動かない転送装置を手入れしながら、僕はまだ見ぬ明日にそっと思いをはせた。
翌日、ソラはまるで通り雨にあったかのようにずぶぬれの
「川にでも落ちたのか?」
僕がたずねると、彼は「そう見える?」と少しおどけたように笑った。その作ったような笑顔は、僕でもそうじゃないことがわかるほどぎこちないものだった。
「あんまり
服がよごれるのもおかまいなしに、ソラは地べたにすわりこんだ。僕もそのとなりにならんで、同じようにちょこんとすわる。
「学校って、小学校か?」
「フッ、ちがうよ。高校っていってさ、小学生なんかよりもずっと
そう言う彼の目は、視界いっぱいに広がる森やその向こうの
「大人……いや、ちょっと違うか。こんな
ソラはすみきった山の空気を
「ソラは、大人なのか?」
僕は
「……わからない。どっちにもなれるし、どちらでもない。そういうお
ソラは大きなのびをして
「おい、マネするなよ」
「マネじゃない。僕はもともと寝転ぶつもりだった」
そのあまりにしょうもない言いあらそいに、気がつけばおたがい顔を見合わせて、心ゆくまでいっしょに笑っていた。
「実は僕も、
「……へえ、どこの星でもあるんだな。そういうの」
「ううん、たぶんソラとは違う。僕にはちゃんと、さけられるような理由があるから」
「どんな?」
会って数日の彼に言うことではないかもしれない。もしかしたら気を使わせてしまうかもしれない。そんな不安があたまをよぎったけれど、それと同時に、彼になら打ち明けても大丈夫だと僕の直感が
「……僕の
僕は一息つき、チラッと横目で様子をうかがう。ソラはただ
「でも、試作品が完成した時、二人が起動した装置が
「……ロケット?」
「うん、ロケットっていっても
だから、と僕は青空に
「だから、地球の中でも、宇宙の中でも……ソラは初めての、僕の友だち」
ソラは大きく目を見開いて、あっけにとられたような顔でこちらを向いた。自分で言ったのに今さらはずかしくなって、思わず僕はくるりと彼に背を向ける。
「フ、フフッ……。そうか、初めて、か」
そうかそうかと彼は
「よし! じゃあ、そんな友だち第一号のお願い。特別に教えてやろう」
だれにも言うなよ、とソラはいたずらっぽくほほえんだ。
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