第3話 食事

 ファミレスの卓につき、竹内が真っ先に注文したのは生ビールだった。若松はもう驚かない。帰り道を運転しろ、という意味の「道順を覚えろ」だったのだな、とぼんやり考える。

 やがてビールと共に、チキンのグリルやらほうれん草のソテーやらが運ばれ、竹内はむしゃむしゃと食べ始めた。若松は、手元のコーヒーに手を付ける。

「食べないの? ま、初出社で緊張してんだな」

「え、いや、そういうわけでは」

 事実、食が細っているわけではなかった。多くのスタッフが動いている緊急時、何かを食べることに罪の意識を感じただけだ。

「あ、もしかしてまた『緊急事態なのに』とか思ってる? 何というか、日本人だね、若松」

 見事に看破された。それにしても、もっと言い方があるだろうに、と若松は憮然とする。

「あんまり長居できないんだけど、一つ聞いてもいい? なんでうちの会社選んだの? 結構きついよ。緊急時には何をしていても投げ出して出社しなきゃならないという超絶ブラック」

 その緊急時に飯を食っているではないかとツッコみたい気持ちを抑え、若松は答える。

「月並みですが、幼いころから機械いじりが好きで、大学でもそちらの方面に進んだんです。そのあと大学院で機械の自動制御を専門に研究し、それを生かせる職場を探していて、採用していただけたわけで」

「あー、じゃあゆくゆくは整備課か通信課に行きたい感じ? あれでしょ、無人戦闘機とか無人偵察船とかをいじりたいってことでしょ」

「そうなんです。やっぱり、やるからには世の中の役に立ちたいと思うじゃないですか。無人戦闘機は、これまでに何度も巨大生物との戦闘で活躍しています。僕の技術や知識も、そこで発揮できればと」

 ふうん、と竹内はうなり、生ビールを飲みほした。いつの間にか皿はほとんど空になっている。

「いいね、若いね。若者はこうでなくちゃ」

 自分の意気込みを「若い」で片づけられたのは癪だが、嫌な気はしなかった。若松は、自分の中の竹内に対する印象が少し和らいでいくのを感じた。

「あ、お姉さん、生ビール一つ」

 若松の頬がひきつった。前言撤回だ。

 

 運ばれてきた生ビールを一息で飲んでしまうと、竹内は伝票をもって立ち上がった。若松も慌てて後を追う。

「『ここは僕が』とか言うなよ。どうせ経費で落ちるから、誰が払おうと変わらん」

 竹内が前を見たまま言う。若松が礼を述べるのを素知らぬ顔で、レジに伝票を突き出した。

「それと、さっきのことだけど」

「えっと、失礼ですが、さっきのこととは?」

 竹内はポケットから小銭をじゃらじゃらと出しながら、「無人戦闘機のこと」と言った。

「確かに表向きの報道では、無人戦闘機の活躍によって巨大生物を異次元に送り返したことになっている」

「表向き?」

「そう。報道に使われる写真、動画、データは、全部うちで用意したもの。つまり、余計な情報が流れないよう、統制されてる」

「では、一般人が知りえない何かがあるということですね?」

「正解。巨大生物に無人戦闘機のみで挑むのは、今の技術力では無謀。やっぱり、人力が必要になってくる」

「人力って…まさか、戦闘機に人が乗っているとか?」

 お釣りを受け取って、竹内は背を向けた。

「あとは、帰ってからのお楽しみだ」

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