Day.10 くらげ

 幽霊海月が漂っていた。

 それが海の中だったなら、僕だってこんなに驚いたりしない。

 僕の前に広がるのは海でもなければ水族館でもない。ただの青い夏空だ。

 その空に。

 ユウレイクラゲが漂っていた。

「何で……?」

 空に向かって呟くが、当然クラゲは何も答えてなんかくれない。

 あれ、クラゲって口はあるんだっけ。いや口がなければ何も食べられないから口はあるか。いやいや口があったところでクラゲは何も言わないだろう。

「クラゲは魂の化身ともいわれているんだよ」

 いつの間にかそばに居たヒトミさんが何ともないことのように言う。

 クラゲは空を漂う生き物であるのが当然かのような声に、僕は自分の常識が間違っているのかと悩むほどだった。

「だから、あのクラゲも誰かの魂の化身なのかもしれないね」

「誰かの化身……」

 それじゃあ、どこかで誰かが亡くなって魂が空を彷徨っているということなのか。

「浮遊霊になっちゃわない?」

「大丈夫。そのうちあっち側に行ってしまうから」

 あっち側。

 あの世ということなんだろうか。

 不思議とヒトミさんは変なことにも詳しい。

 ヒトミさんと二人、揺蕩うクラゲを見つめる。

 クラゲは僕達に見つめられていることなど気づいていないのだろう。

 暫く空を漂って、やがて静かに空の青に溶けていった。

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