Day.11 緑陰

 夏の強い陽射しを遮るには木陰はうってつけの場所だ。

 太陽から逃げた僕は、額に浮かんだ汗をハンカチで拭った。

 実際のところ、気温はほぼ同じなのだというが木陰は涼しい。これは朝のニュースで言っていたことだけど路面からの反射熱がないおかげらしい。

 昼間の木陰は最高だ。そう。昼間は。

 夜になると途端に木陰は恐怖の対象になる。

 何かが潜んでいるような、そんな嫌な空気を孕む。

「嫌だなぁ……」

 一度嫌と思ってしまうと、木陰が恐ろしいものに見えてくるから人間って不思議だ。ああ、コンビニに行こうなんて思わなきゃ良かった。過去に戻れるなら少し前までの「忘れてたけど今日はコンビニの日だ!」と浮かれていた自分を殴りたい。

 何の変哲もない家までの道程の街路樹の下、昼間には快適な木陰を提供してくれていた場所が恐ろしく見える。

 しかし、僕のエコバックの中にはコンビニで買ってきたアイスが入っている。いつまでも此処で立ち往生している訳にもいかない。

「よしっ!」

 まず息を大きく吐いて、それから空気を吸う。

 何もいない、何もいない。

 幽霊の正体見たり枯れ尾花。

 そうして僕は闇の中へ駆け出した。

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