Day.7 天の川

 トーンッ、トーンッと跳ねる音がする。

 その音は重々しくもあり、軽々しくもある。

「七夕には、サトウ君は必ず素麺を食べるように」

 ヒトミさんに言われた言葉が、自宅のキッチンで煮立つ鍋を前にする僕の脳裏を過ぎる。

「素麺はね、鬼のはらわたと言うんだ。疫病を流行らせた一本足の鬼の祟りを鎮める為にお供えをしたのが始まりなんだよ」

 カップラーメンよりも早く茹でることの出来る素麺。

 だけど、僕にはその時間が無限にも思えるくらい長く感じられて。

 また、トーンッ、トーンッと音がする。さっきより近い。

 茹で上がった麺をザルに移して冷水へ。本当は揉み洗いをした方がおいしくなるみたいだけど、僕にはそんな時間は残されていない。

 そのままザルに箸を突っ込んで素麺をとると、予め用意しておいためんつゆへ。そして、口からツルリと喉へ。

 トーンッ……

 音が、消えた。

「やった……?」

 キッチンからリビングから見回しても何もいない。ペットの猫のミャーちゃんが僕と目が合って「にゃあ」と鳴くだけだ。

 それでも不安でミャーちゃんが出ていかないように気をつけながら掃き出し窓を開けて外を窺うが、やはり何もいない。

 安堵して空を見上げれば、七夕らしく綺麗な天の川。

 だけどそれを「綺麗だなぁ」と眺める余裕は今の僕にはなくて。

 僕はまた、さっきの音がしないことを空に願いながら早々に窓を閉めた。

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