Day.6 筆
三国志の赤壁の戦いで諸葛亮の「十万本の矢」を受けた船の気分ってこんな感じかもしれない。
そんなあったかも分からない伝説の逸話に思いを馳せるくらい、僕はこの時クラスメイトの嫉妬と同情の視線の矢を全身に浴びていた。
「はい、終了ー」
美術教師が終了の合図を告げ、試験終了の時のように各所で鉛筆を置く音が響く。
でも、僕の試験というか試練はこれから始まるのだ。
「さあ、サトウ君」
僕の前には満面の笑みのヒトミさん。
そして、そのヒトミさんが差し出すのはクロッキー帳。
僕の手にもクロッキー帳。
美術の時間でお馴染みの『友達を描こう』のクロッキー。
僕はよりにもよってヒトミさんを描く事になってしまったのだ。
恐る恐るヒトミさんに僕はクロッキー帳を差し出した。途端に周囲のクラスメイトも僕が描いたヒトミさんを見ようと覗き込む。
「これは、また、随分と独創的で前衛的だね……」
一瞬言葉に詰まりかかったヒトミさんが言葉を選んで感想を言うけど、その近くでは耐えきれずにタカハシさんが噴き出していた。
そう、僕の絵は酷い。それは僕だって分かっている。
「こ、弘法にも筆のあやまりって言うし……」
僕が一応ながらも言い訳を述べると、ヒトミさんはとても綺麗な笑顔で一言。
「弘法は筆を選ばずとも言うね」
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