第24話《ラスト・コインゲーム》

数時間後。


邸の中では、事件の一連について

シルエットがサミュエルに報告をしていた。


サミュエルは大きな溜め息をつき、肩を撫で下ろす。


シルエットは軽く会釈をし、その場から立ち去る。


その頃、

リックは、噴水の所に座っていた。


するとそこへ、シルエットがやって来る。


「調子は、どうだい?」


リックは、シルエットの方を見ながら言った。


「まぁ~悪くはない。っていうかアンタの方が大丈夫なのか?」


リックが、シルエットの体を気遣うと


「大丈夫だ」


シルエットがそう言い、2人は会話を交わし、軽く握手をする。


「得るモノもあれば、失うモノもある…」


リックは、何処か切ない表情を浮かべる。


「真実というのは、形が有るモノや形の無いモノもある」


すると


シルエットがポケットから一枚のコインを取り出し、こう言った。


「リック。とてもシンプルなコインゲームをしようじゃないか」


リックは、笑いながら


「何処かで聞いた事のある台詞だな」


シルエットに言った。


「そうか?それじゃ話は簡単だ。ルールの説明の手間がはぶける」


2人の後ろでは、噴水の水が音をたてながら溢れている。


その噴水の前で、2人はコインゲームを始めた。


「それで?勝敗の内容は?」

リックがシルエットに問う。


すると、シルエットが真剣な眼差しでリックに答えた。


「君が勝ったら、君の望みを何でも聞こう」

リックは本当か?っという表情で

「何でも?」っと、シルエットに聞く。


「あぁ、そうだ」シルエットがリックに、笑顔で答えると。


「そうだな…まぁ、これだけ色々あったからな…

    ゆっくり旅行にでも行かせてもらうかな?勿論VIP待遇で」


シルエットが答えた。


「いいだろう」


リックは、ガッツポーズをする。


そして、リックはシルエットに質問をした。


「それで?アンタが勝ったら?」


「そうだな…」


シルエットは、考えている様子。


「…で?」


リックが答えるのを待っていると

シルエットは、真剣な眼差しでリックを凝視する。


「引き続き、いや。これからずっと協力してもらう。

                   私が現役を終えるまで」


リックは、何を言っているんだ?

っという様な表情でシルエットに言った。


「おいおい。それって…

      この俺に、アンタの相坊になれって事か?冗談だろ」


リックは呆れた表情を見せながら、両方の掌を宙に浮かび上げた。


シルエットは、両手の人差し指を両方のこめかみに当て

その人差し指を天に向け、言った。


「君の過去の数々の…」


リックは、シルエットの言葉に言葉を被せる様に反論する。


「また脅迫か?アンタ本当に、どうかしてる!」


シルエットが、人差し指を横に振りながら


「リック?君が私に、勝てば良いだけの話だ」


シルエットはリックに、そう言い放つ。

それに対しリックは一つ深呼吸をし、シルエットに言った。


「いいだろう」


2人は、互いに真剣な表情を見せ合う。


シルエットは、コインを右手の親指と人差し指の上に乗せ

少し腕を上へ振り上げながら、親指でコインを弾いた。


そのコインを、目で追うリック。


スローモーションの様に、コインがゆっくりと宙を舞う。


シルエットはコインを掴み取るではなく

拾い上げるかの様に手を動かした。


そして、シルエットは両方の拳を力強く握り締め

リックの前に、強く握った拳を差し出した。


リックは、物凄い眼力でシルエットの拳を睨みつけた。


「コインは?」


シルエットが、リックに聞く。


「…」


リックは、ゆっくり瞳を閉じた。



~瞳の裏側~思考回路~脳内~


何度も何度も、シルエットがコインを宙に浮かせ

手に拳を握るまでの場面を、何度も何度も頭の中で

プレイバックしている。


リックは、心の中で自分自身に問う。


「コインが最後に触れたのは左手だ。

 だが、拳を握る瞬間に右に移った可能性もある。

 シルエットは右利き。

 そうだ…懐中時計を持っていた時も右だった。

 右だ。右に違いない。

 左手で取る様に見せかけて

 実は、コインを左手で弾き右手でコインを掴んだ」


リックは、ニヤリと笑う。


シルエットは、無の様な表情を見せている。


2人の間の後ろには、噴水が水の音で存在感を出している。


やがて、リックが口を開いた。


「右だ」


シルエットは頷き、リックに問う。


「右で良いのか?」


リックは力強い眼で、シルエットを見ながら答えた。


「あぁ。右で良い」


「わかった」


シルエットは、強く握り締めた拳を、ゆっくりと開く。


小指から親指に向けて、指一本一本ゆっくりと広げてゆく。


リックの眼は、シルエットの手に釘付けになっている。


うっすらと笑みを浮かべるシルエット。


やがて

シルエットの強く握られた拳は、ゆっくりと開かれた。


シルエットの手の平の中にコインは…


存在しなかった。


ゆっくりと口角を上げ、微笑むシルエット。


「…はぁ」


リックは、頭を抱えている。


シルエットは、広げた両手を天に翳した。


「なんだ?なんだ?なんだ?一体、なんなんだアンタ!」


リックはキレて、シルエットに喰ってかかる。


「ズルイだろ!」


冷静に対応をするシルエット。


「ん?何がだ?」


「大体、何で!…あっ、いや…んん…」


リックは、あまりの悔しさに言葉を詰まらせる。


そしてシルエットは、更にリックを追い込む。


「君は…また負けたんだ」


その言葉に、リックは額の血管が浮き出るほど

怒りの表情を見せる。


「シンプル?アンタのシンプルって何だ?」


「君が私にコインゲームをした時も、

              同じ様な感じだったではないか?」


「…」


リックは、もはや言葉も出なかった。


シルエットは、とても明るい感じで言った。


「いや~リック。君はとても素直な人間だ。実に良い。

             これからも良いパートナーになる!」


リックを追い込む事から、今度は煽てる事にしたシルエット。


リックは当然、納得しない表情でシルエットを睨みつける。



回想シーン


シルエットがコインを宙に浮かせ…

左手でコインを拾い上げる様にしている。

そして、左手でコインを掴む様に見せかけ

左手でコインを弾き、右手へ。


だが…


シルエットは、

左手で弾いたコインを右手で握ったかの様に見せかけ

実は、更に右手の指でコインを弾いていた。

そのコインの行き先は、後方にある噴水の水の中へと向けて。


噴水の中に堕ちる瞬間のコインの音は

溢れ出ている噴水の水の音でかき消され

リックが気付く事はなかった。


「では、リック君!行こう」


そう言いながらシルエットは、

その場から離れようするが、リックがシルエットを引きとめる。


「ちょっと待ってくれ!アンタの勝ちっていうのは認める。

         だからコインは、何処にあるのか教えてくれ」


「それじゃ君は自分の負けを認めて

           私の助手になる事を認めたという訳か?」


シルエットは、リックをからかうかの様に攻めたてる。


「それとこれとは…話が違う…」


リックの声はとても小さく、かなり弱気になっている。


「そうか。ならば仕方がない」


シルエットは、そう言い残しその場から再び離れようとする。


リックは、シルエットの後を追う。


「頼むよ。コインの行方が気になって仕方がないんだ。

        そう意地悪な事しないで。頼む。教えてくれ!」


シルエットは呆れた様で、溜め息を一つ漏らした。


「それが、人に対するものの言い方かね?」


などと言い、シルエットはリックをからかい続ける。




噴水の中では、一枚のコインが輝いている。



END

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