第23話《銃声》
建物内では、リックとメイソンが戦っている。
メイソンの手にはナイフがあり
リックに向け、止まる事なくナイフを振りかざすが
それを幾度もリックは、避け続けている。
先程、リックが投げつけた煙草は
リックの予想通り埃に引火し、建物内には煙が充満し始めていた。
その状況にメイソンも気付き、リックに質問をした。
「何か、小細工でもしたのか?」
リックは楽しそうな声で、メイソンに答えた。
「この状況に素晴らしい演出を!っと、思ってね!」
「…まぁいい。
もうすぐ君は此処で、死を迎える運命なのだからな」
メイソンは、すかさずナイフで切り裂こうとリックに襲い掛かる。
リックは間一髪でナイフを避け、疑問に思った事を口にした。
「一体なんで、こんな事をするんだ?」
「どうせやるなら
より美しく、より芸術的にする方が
見ている方も楽しいだろう?」
2人は激しく、衝突している。
「ウィリアムは
生まれつき耳が聞こえなかったから、耳を塞ぐだけだった。
だが、ジェイコブは…」
メイソンは、深く溜め息を付く。
「まさか…口を塞ぐ為の前に、声を出せなくしたのか?」
リックの質問に、メイソンは答えた。
「正解だ!やはり君は素晴らしいな!リック君!」
「そりゃどうも」
メイソンは、ナイフでリックに切りかかるが
リックは、またしても間一髪で避ける。
「あとは…サミュエルだけなんだ。
これ以上、私の邪魔をするな!」
メイソンが激しくリックに蹴りを喰らわし
リックは、その場に倒れ込む。
「サミュエルの目を塞いで、その後にあの石造を壊すんだ…
それで私の作品は完成する」
リックは倒れ込んだままで、メイソンを見上げる。
「イカれて…やがる…」
メイソンは、倒れ込んでいるリックの腕に向って
ナイフを振り下ろし、そしてリックの左腕が出血したのを見た
メイソンは、ゆっくりと立ち上がり別の話を語り始めた。
「あぁ…でも私の今回の作品の始まりは
とても素晴らしいモノだったのだよ?聞きたいだろ?」
リックは、ナイフで切られた左腕を抑えながら
「何だって?こっちは…それどころじゃねぇんだよ…」
リックは、何とか立ち上がった。
メイソンは、思いを返すかの様に語っている。
「あの日の夜…俺は、父の部屋に向かった…」
回想シーン
父、アンディーの部屋へと向かうメイソン。
メイソンの手にはグラスがある。
アンディーの部屋の前で立ち止まったメイソンは
扉をノックし、部屋の中へと入る。
ソファーに座っているアンディーは、メイソンに言った。
「こんな時間に珍しいな?一体どうした?」
すると、
メイソンは何も言わずに持っていたグラスを
アンディーに差し出した。
「…そうか…」
何かを察したアンディーは
メイソンから渡されたグラスを手に取り
1滴も残さず一気に飲み干した。
間もなくして…
アンディーは微笑みを浮かべながら、ゆっくりと瞳を閉じ…
そのまま、眠る様に死んだ。
メイソンは、不敵な笑みを浮かべている。
「あれは…最高な、一時だった…」
「…」
「飲めば自分が死ぬと分かっているのにも関わらず
飲み干したんだ」
メイソンは、ジェスチャーを交えながらリックに説明している。
室内には煙が充満し、小さな炎が燃えている。
その頃、
シルエットは建物に向って、庭を全力疾走している。
「さぁ、時間が無い。悪いのだが…
君とのお遊びは、ここで終わりだ」
メイソンは隠し持っていた銃で、リックの左胸を狙う。
リックは、手当たり次第に色々な物を
メイソンに投げつつ、逃げている様子。
かなりの距離があくが、メイソンは実際に狩りの経験を持つ。
「狙った獲物は…逃がさない」
そう言ったメイソンは、次の瞬間…
リックの左胸を目掛けて、銃を撃ち放った。
鳴り響く銃声。
その銃声は、シルエットの耳にも聞こえた。
そして建物に到着するシルエットは、すぐにリックの姿を探す。
建物は、煙と炎に包まれている。
「リック、何処にいるんだ」
シルエットは必死に、リックを探し続けた。
煙と炎は、徐々に勢いを増してゆく。
やがて、リックの姿がシルエットの視界に入り
すぐ近くで、銃を片手に立っているメイソンに気付く。
そして倒れているリックを見つけ、駆け寄るシルエット。
メイソンはシルエットがいる事に気付き、言った。
「遅かったみたいだね?シルエット君」
シルエットは、鋭い視線でメイソンに言った。
「貴方が、犯人だったのですか…」
「わっははは」
メイソンは、笑っている。
シルエットは、ゆっくりとリックを抱き抱える。
「おいリック。しっかりしろ」
「バーカ…おせぇ…んだよ…」
シルエットは
リックの左胸部分が、血だらけなっている事に気付いた。
「大人しくしてろ。すぐに助けが来る」
そう言ったシルエットは
抱き抱えたリックをゆっくりと床に寝かせるようにして
メイソンと対峙する。
「メイソンさん…歩けない筈ではなかったのですか?」
シルエットは、メイソンに質問をした。
「いや?私は今日という日までの人生
ずっと、この足で歩き続けて来たよ」
「それでは何故?」
「教えてやろう。
ある日、交通事故があって。
私は、その瞬間にチャンスだと思った」
回想シーン
車に乗っているメイソンは、車と車の衝突事故にあう。
対向車からは、炎が立ちあがっている。
メイソンの運転していた車は白い煙で包まれて
意識朦朧の中でメイソンは、思いついた。
「…そう…か…」
メイソンは、不敵な笑みを浮かべる。
間もなくして、メイソンの元に助けがやって来る。
「大丈夫か?今、助けるぞ」
メイソンは、救助されながら言った。
「足が…足が…」
「足?大丈夫か?ちょっと待っていろ。
おーい。誰か手を貸してくれ」
救助している男は、他に助けを呼んだ。
メイソンの口元は、ニヤリと口角が上がっている。
足の力を完全に抜きながら。
「事故にあい。足が動かない。車椅子。
誰も皆、私が歩くことが出来ないと判断する」
シルエットは、開いた口が塞がらない様子。
「…」
「そして君達もまた、他の者と同様。
車椅子の私の姿を見て、歩けないと認識する」
「…」
メイソンが微笑みながら、こう言った。
「先入観ってヤツだな」
シルエットは、愕然とした表情。
「なんてことだ…」
「わはははっ」
メイソンは、大声で笑っている。
「ネズミが2匹揃った…まとめて始末してやる」
メイソンは、シルエットに向けて銃を撃つ。
シルエットは素早く身を隠し、シルエットも銃を取り出し
メイソンに立ち向かう。
撃ち合う、シルエットとメイソン。
辺りは、炎に包まれつつある。
建物内が煙で充満している為
メイソンは、少し目を開けている状態が辛い様子。
その一瞬の隙に、シルエットはメイソンに向けて発砲する。
シルエットの撃った弾が、メイソンの腕に命中する。
「くそっ!」
逃げようとしているメイソンを、シルエットが追う。
別の室内に逃げ込むメイソンは、息を殺しながら佇んでいる。
少しして、シルエットがメイソンの逃げ込んだ室内にやって来る。シルエットは警戒しながら、ゆっくり進んで行く。
部屋の開けられた扉の裏に隠れていたメイソンは、
後からシルエットに襲い掛かる。
2人は転がり、お互いの銃が少し離れたところまで転がる。
メイソンはシルエットの首を力強く絞めるが
シルエットは激しく抵抗し、メイソンにパンチを喰らわし
怯んだところにメイソンの横腹あたりに蹴りつけた。
メイソンは、床に倒れ込んだ状態。
燃え盛る炎によって、建物が少しずつ崩れ始める。
倒れ込んでいるメイソンに馬乗りになり
シルエットは、何度も殴る。
メイソンも抵抗し、シルエットを蹴り飛ばす。
フラフラな状態になっているシルエットとメイソン。
メイソンが隠し持っていたナイフで、シルエットに斬りかかる。
なんと、シルエットの足にメイソンのナイフが刺さる。
シルエットは唸り声をあげる。
それを見たメイソンは、不敵な笑みを浮かべる。
「これで…最後だ…」
メイソンが、もう一つ隠し持っていた小さな銃を取り出して
シルエットの額に銃口を付ける。
「何か…言い残す事は…ないか?」
すると、シルエットはニヤリと笑う。
「何が可笑しい?」
「ははは…」
「頭が可笑しくなったのか?」
シルエットは、メイソンに銃口を額に付けられながら言った。
「…残念だ…」
「くたばれ!」
メイソンが握り締めた銃には、手の力が入る。
次の瞬間、
メイソンに左胸を撃たれた筈のリックが
煙草を口に銜えながら現れ
シルエットの銃でメイソンに向けて発砲する。
リックの弾丸はメイソンの肩に命中し、倒れ込むメイソン。
リックが、シルエットのもとへ駆け寄る。
「大丈夫か?」
シルエットは、ぐったりした様子。
「あぁ…なんとかなぁ…でも何故だ?撃たれた筈じゃ?」
するとリックは左胸から、あるモノを取り出す。
取り出したモノは、ジュッポライターだった。
あの時、リックはメイソンが銃の引き金を引いたと同時に
微かに左肩を後ろに下げながら、上体を少しだけ横に向けた。
次の瞬間、メイソンがリックの心臓をめがけて撃った弾丸は
リックが上体を横に向け、更に左胸ポケットには
ジュッポライターが入っていたので、微かにかすった程度だった。
だが、リックは撃たれた事にして
シルエットが到着する為の時間稼ぎを行った。
間もなくして、シルエットが到着し
メイソンに撃たれたリックを抱き抱え
左胸のあたりが血だらけになっているので
シルエットは、心臓付近を撃たれたと思ったが
血はナイフで切られた出血によるものだった。
リックは、笑いながら言った。
「煙草以外にも、役に立つ」
「運が良いんだな」
「そりゃどうも」
リックが答えると、天井から燃えている木材が崩れ落ちてくる。
「立てるか?」
そう言ってリックは、シルエットに手を差し出す。
「ありがとう」
シルエットは、リックの手を握り立ち上がる。
「急ごう」
「あぁ」
すると、一発の銃声が鳴り響く。
シルエットとリックは、ゆっくりと振り返る。
そこには、メイソンの姿があった。
メイソンは鬼の形相で、シルエットとリックを睨みつけている。
「まだ…終わっていないぞ…」
メイソンは、大きな声で叫んだ。
リックは、メイソンを睨めつけながら言った。
「しつこいな…」
すると、シルエットが
「リック…銃を貸てくれ」
そうリックに言うと
「大丈夫か?」
「問題無い」
リックは、シルエットに銃を手渡した。
そしてリックは
シルエットがメイソンに刺された足を掴み、身体を押した。
「うっ」
シルエットは、その場に倒れ込む。
「…何するんだ…リック…」
リックはシルエットの上に馬乗りになり、こう言った。
「シルエット?アンタは…」
「…」
シルエットは息を飲み込んだ。
「アンタは、頭は良いが接近戦は弱いんだから
此処で大人しく待ってろ」
リックは微笑みを見せながら立ち上がり
メイソンに向って行った。
「はぁ…焦らせるなよ…馬鹿野郎…」
シルエットの足から、大量に出血している。
リックとメイソンは、睨み合っている。
「君が私の相手を?」
「俺じゃ不満か?」
「まぁ…いい。どちらが相手でも
君達2人は私の手によって、この世から消えて無くなる」
「アンタ…死相が出てるぜ?」
「君に私は殺せない」
メイソンは、リックに向け発砲する。
リックはすぐに身体を動かし、弾丸から身を伏せる。
そして、建物の柱にリックは身を隠しながらメイソンに言った。
「知ってるか?死相っていうのは、死ぬ前に見えるらしいぜ?
っということは…アンタ死ぬんだな」
メイソンは、鬼の形相でリックを探している。
「よく喋るネズミだ。舌を抜いてやるから、出て来い」
「ある意味、死へのカウントダウンだな」
リックは近くにあったモノを
遠くの方に投げて、わざと物音をたてた。
その物音に反応したメイソンは、一発だけ発砲した。
そして銃を向けながら、ゆっくり音のした方へと向かって行く。
リックは、ゆっくりとメイソンの背後に回り
攻撃する瞬間を狙っている。
その時、
リックは物にぶつかってしまい、メイソンが振り返る。
「ヤバイ…」
メイソンは何発か発砲するが、リックは全速力で逃げて
また身を隠す。
「あぁ…今のは、ヤバかった…」
その状況を、シルエットは遠くから見ている。
「あのバカ…」
シルエットは、心配そうにリックを見守っていた。
「ふぅ~あと何発くらい残ってるんだよ」
リックは独り事を言いながら、柱と柱の間を走る。
メイソンは銃を構え、リックを探している。
その頃、建物内には、炎が広範囲にわたり燃え広がりつつある。
「このままじゃ、燃えて崩れちまうなぁ」
そしてリックは、わざとメイソンに姿を見せ
銃の弾数を減らす事にした。
「俺はここだよ」
リックがメイソンに姿を見せると
「死にたいみたいだな」
発泡するメイソン。
リックは間一髪で、弾丸を避ける。
「ひぇ~、危ねぇ~」
リックは内心、冷や冷やしていた。
「もう悪あがきは止めて、素直に打たれたらどうだ?」
メイソンがリックに、そう言うと
「ははは。それも良い案だな。
でもアンタ、死相が出てるからそれは止めておくわ!」
リックは、またメイソンにわざと姿を見せて発砲させる。
メイソンは、なかなかリックを仕留める事が出来ず
苛立ちを隠せない様子。
またしても、リックがメイソンに見える所に出てきた。
メイソンは、ゆっくりとリックに銃口を向ける。
「観念したか?」
今度は、すぐには発砲せずにリックを見据えている。
その時、リックは心の中で思った。
「そろそろ…無くなってもいいんじゃない?」
すると、メイソンが言った。
「分かっているぞ?君は、私にわざと撃たせているんだろう?」
リックは、とぼけたフリをしながら言った。
「何の事だ?」
すると、メイソンは笑いながら肩を動かし
「君の思い通りになったぞ?ほら?弾が無くなった」
メイソンは銃を撃ってみるが
カチンカチンっと音を鳴らし、弾切れの様だ。
「正解!それじゃ、殴らせてもらうぜ?」
リックは、メイソンに向って行く。
すると、
メイソンがリックに言った。
「悪いな~弾は、まだまだあるんだった」
メイソンは、新しい弾を取り出した。
「それは…反則だろ?」
リックは、全力疾走する。
メイソンは、何発もリックに向けて発砲する。
次の瞬間
リックは物に躓いて、その場に倒れ込んでしまう。
すかさずメイソンはリックに飛びかかり、抑えつける。
「捕まえたぞ」
激しく抵抗するリック。
「参ったな…」
リックが天井に目を向けていると、すぐ上の天井が燃えており
今にも崩れ落ちてきそうになっていた。
「…最後だ」
メイソンは、銃の引き金をゆっくり引く。
リックは溜め息を一つした後、メイソンに言った。
「死相のカウントダウン…始まってるぜ?」
もはやメイソンは、リックの言葉を聞いていない様子。
「死ね!」
メイソンがリックに発砲しようとすると同時に
天井の一部が崩れ落ち
メイソンの腕に先端が尖った木材が刺さり
大きな木材がメイソンの足に圧し掛かる。
リックは、メイソンの押さえ付けられた力が緩んだと同時に
逃げ出す。
「危ねぇ~助かったぁ…」
リックはゆっくり立ち上がり、メイソンが倒れている所に行った。
メイソンはリックに、こう言った。
「頼む…助け…て…くれ…」
「…」
「お願…いだ…」
リックは寂しそうな目をしながら、メイソンに言った。
「悲しいな」
そう言い残し、リックはメイソンに背を向けて歩いて行った。
建物は燃え盛る炎に包まれ、天井が燃え落ちメイソンに直撃する。
リックはシルエットに手を添え、抱える様にして歩き
建物の外へと向かった。
外へと出たシルエットとリックは、燃え盛る建物を見つめていた。
シルエットとリックは何も語らず
少しの間だけ、その場に立ち尽くしていた。
間もなくして
警察のパトカーが、邸内の建物周辺に集まって来る。
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