第19話《突然の雨》

次の日の朝


邸から少し離れた北に位置する

以前ルーク達が住んでいた建物へと

シルエットとリックは向かっていた。


リックは、額に手を当てながら

「あぁ…完全に…二日酔いだ…」

「自業自得だな。吞み過ぎだ」

シルエットは、リックの様子に笑った。



間もなくして、2人は目的地へと到着する。


シルエットが、建物の玄関の扉に手を掛ける。

鍵は掛かっておらず

建物の中へと入って行く、シルエットとリック。


建物の中は、家具や色々な物が置かれている。

長年使われておらず、埃にまみれている。


すると、リックがシルエットを呼び

「これを見てくれ」

リックが手に取って見せたモノは、釘だった。


「犯行に使われた釘と似ているな」

シルエットとリックは

辺りを警戒しながら建物の中へと進んで行き

そして2人は、ハンマーが幾つか置いてあるのを発見した。


「これで打ち付けたのか?」


シルエットは、置かれているハンマーを見ながら言った。


「これのどれかとは限らないが…

     釘はハンマーで打ち付けるのもだから、そうだろうな」


暫く建物内を見て回るが

これといって手掛かりになる様なモノはなかった。


「外へ出るか?」


シルエットがリックに言うと、リックは頷き

2人は建物の外へと向かった。


「いやぁ~かなり埃っぽかった」

「使われていない建物だからな」


2人は歩きながら話を続け、そしてリックが言った。


「ちょっと、行きたい所があるんだ」

「行きたい所?」


シルエットは、わかったといった様子で

「それじゃ、先に邸に戻っている」


2人は別々になり

少し離れた所でシルエットが立ち止まり、リックに言った。


「リック!」

「なんだ?」


シルエットが大きな声で、リックに言った。


「手を出すなよ!」


リックは微笑むが、答えはせず

シルエットに向けて「わかった」っと、いうように手を挙げた。


シルエットはリックに

注意を示すかの様に、リックに向けて指を差した。


そして2人は互いに背を向けながら、別々に歩き始めた。



リックが一人で歩いていると、野生の鹿が姿を見せる。

リックが鹿に気付くと、鹿もリックの姿に気付いた。


目と目が合う。


リックが鹿に微笑みかけると、鹿はゆっくりと歩き

その場から離れて行った。


「自然は良いな…」

リックは目的地へと向かい、やがて到着した。


リックの目の前には、例の悪魔の様な姿をした

目を塞いでいる状態。

口を塞いでいる状態。

耳を塞いでいる状態

三つの石像がある。


リックは、石造を見ている。


「確か…ウィリアムが殺害された後に、此処へ来た時は

         耳を塞いでいる状態の石造だけが壊れていた」


耳を塞いでいる状態の石造が壊れている。


「残りの、目を塞いでいる状態のやつと

   口を塞いでいる状態の石造は、壊れていなかったよなぁ…」


リックは、ゆっくり二つの石造を確認する。


すると…


壊れていなかった筈の

口を塞いでいる状態の石造が、壊れている様子。


「やっぱり。壊されていたんだなぁ…」


リックは独り言を言いながら、石造を見ている。


「そしたら?次は…目の見えない人が死んだら?

               君は、壊されてしまうのかい?」


リックは、目を塞いでいる状態の石造に語りかけ

その石造に触れながら

「大丈夫!俺が、そうはさせない」


そう言ってリックは、煙草を取り出し、煙草に火を付ける。


「ふぅ~。とりあえず、報告だな」


そしてリックは

シルエットが先に向かった、邸へと歩いて行った。


リックが邸へと歩いている途中、少し雨が降り始めていた。


「おいおい。傘ねぇよ」


リックは、少し足早に歩き出し

石造のある場所から南東に位置する邸へと向かおうとするが

先程、シルエットと別れた場所である、

以前ルーク達が暮らしていた建物が東の場所にあり

リックの目に映し出される。


「あっちの方がどう考えても近いよな…仕方無い。

                あそこで雨が止むのを待つか」


リックは、以前ルーク達が暮らしていた建物へと向かい

上着を頭に被せる様にして走って行った。


間もなくすると、リックは建物に到着した。


「ひでぇ雨だ」


雨は、先程にも増して激しく降り続いている。

雨宿りをしながら、リックは空を見上げていた。


「止むかな…雨…」


リックは辺りを見渡しながら

傘を持って誰かいないか?と、探していた。


「居る訳ないよな…ん?そうか!

             建物の中に、傘あるんじゃねぇの?」


そう思ったリックは、建物の玄関へと振り返る。


やがて…

リックは、異変に気付いた。



~瞳の裏側~思考回路~脳内~

シルエットとリックが建物から出る時に、最後に扉を閉めたのは

シルエットではなくリックだった。



「いや…俺はちゃんと扉を閉めた筈だ…」


リックが締めた筈の扉が、少し開いている状態だったが

リックは思った。


もしかしたらシルエットも雨に振られて、

この建物へと戻って来たのでは?と、一瞬そう思ったが

時間的にも距離的にも此処へ戻るよりは

邸に向かった方が無難だと、リックはすぐに考えを変えた。


「おいおい…一体、誰だよぉ…」

リックは少し開いた扉に手を掛け、建物の中へと入って行った。


建物の中は静けさに包まれている。


リックは、ゆっくりと建物の中を歩き

「傘はないかな?傘ぁ…」

小さい声で呟きながら、リックは傘を探している。


すると…

ガタンっと音がし、リックは音のした方へ振り向くが

そこには誰も居ない。


再び、リックは傘を探していると

床に釘が転がっているのを発見する。


「釘くらいちゃんと片付けろよ」

などと文句を言っていると、リックはある所に目が止まった。


「…」


リックは、自分の目を疑った。


シルエットと来た時には、幾つかあった筈のハンマーが

一つ足りない事に気付いた。


またしてもガタンっと物音がし、リックは辺りを警戒している。


すると、リックの足に何かが当たった。


リックは驚き足元を見ると…猫がリックの足に絡みついていた。


「なんだよ…お前も雨宿りか?」


そう言いながらリックは猫を抱きあげて、猫に言った。


「雨が止んだら、さっさと外へ行けよ?

               此処は埃っぽいから身体に悪い」


リックが猫を下に下ろし、顔を上げると…


少し離れた所に人影があるのが見え

互いに向き合うが、リックの方からでは相手の顔が見えない。


「誰だ?」


リックの言葉に、反応を見せない人影。

沈黙のまま、少しの時間が流れた。



その頃、シルエットは先に邸へと到着していた。


玄関では、アンジェリーナが掃除をしている。


「お帰りなさい」


アンジェリーナが、シルエットに言うと

「ただいま」と、シルエットが答える。


邸の中へと入ろうとするシルエットだが

足を止めて、アンジェリーナに言った。


「気を付けてくださいね」


アンジェリーナは

シルエットが何の事について言っているのか分からない様子。


「ヤツは貴方を狙っています」


アンジェリーナは不思議そうな表情で

「…ヤツ?」っと、シルエットに言った。


「リックです」


険しい表情で伝えるシルエットに対して

アンジェリーナは、微笑みながら


「はい。気をつけます」


シルエットは、アンジェリーナの答えに笑みを浮かべながら

邸の中へと入って行った。



邸内では、ルークの妻マリーが掃除をしていた。


「大きな家には、物が沢山」


マリーは、掃除をしながらボヤいていた。


そこへ、シルエットがやって来た。


「何か手伝いましょうか?」


「ありがとうございます。

 でも、そんな事をさせてしまったら怒られてしまいますわ。

 うちの旦那、ああ見えて以外と怒ると怖いのですよ」


マリーは冗談を言いながら、2人は笑い合う。


すると

「あら?雨が降って来たみたいだわ」

マリーとシルエットが、窓の外の雨を見ている。


そして、シルエットは

一つのテーブルの上に、積み重ねられた物がある方へと歩き

マリーに「これは何ですか?」っと、質問をした。


「えっ?あぁ、古いアルバムですよ。

        この邸の皆様の、お写真が入ったアルバムです」


マリーがそう答えるとシルエットが

「拝見させて頂いても、よろしいでしょうか?」


そう質問をするが、マリーは困った様子で

「えっ?う~ん…私では判断つきませんわ?」


すると、そこへサミュエルがやって来る。

「ルークはいるかな?」


サミュエルに気付いたマリーが

「私ならおりますが、どうかなされましたか?」


そう言うとサミュエルが

「いや、大丈夫」すると、シルエットがサミュエルに言った。


「すみません。このアルバムなのですが…

               拝見しても、よろしいですか?」


すると、サミュエルが言った。


「アルバム?」

「はい」

「…」


サミュエルは少しの沈黙の後、シルエットに告げた。


「私は目が見えない。だから、、、

 そのアルバムの中の写真が、いつの頃だったのか分からない」


「…」


シルエットは、申し訳なさそうな表情を浮かべるが、


「だから…」

サミュエルは、とても優しい口調でシルエットに再び告げた。


「だから私の代わりに

 そのアルバムの中の写真を見てくれないか?」


「…はい」


シルエットがそう答えると、サミュエルは

「その代わりに、どんな写真があったのかを教えてほしい。

 …思い出を振り返りたい」


シルエットは、サミュエルを見ながら答えた。


「分かりました」

サミュエルがシルエットに思いを伝えた後、その場から離れた。


シルエットは、古いアルバムの中にある写真を見始めた。

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