第17話《向き合う》

数時間後、、、


邸内のソファーに腰掛けて

新聞記事を読んでいるシルエットの姿があった。

そのすぐ近くでは、執事のルークが清掃を行っていた。

すると、そこへリックがやって来る。


リックはすぐに、シルエットがいる事に気付いたが

無言のまま通り過ぎて行く。


そんなリックを目で追うシルエットもまた、無言のままでいた。


邸の外へ出て行くリックは、拳を強く握りしめながら

「まったく。頑固なジジイだ」

リックは、先ほどのアンジェリーナの件で

シルエットに腹を立てている様子。


やがて、邸にある噴水のところにやって来たリックは

ゆっくりと足を止めた。


「やっぱり犯人だったのか…

           それとも犯人じゃない人物だったのか…」


リックは、アンジェリーナと衝突した人物が一体、誰だったのか。もし犯人であれば、

アンジェリーナの身が危険に及ぶのではないかと心配をしていた。


ふと、リックが目を向けた先に人がいる事に気付く。

リックは何気なく、その人物がいる方へと足を向け、歩き始めた。


邸の庭で、鮮やかに咲いている花の手入れをしている

アンジェリーナの姿があった。


間もなくするとリックは、花の手入れをしている人物が

アンジェリーナだと気付き、話をかけた。


「もう大丈夫なのかい?」


するとアンジェリーナが、後ろを振り向き、リックに答えた。


「ええ。もう大丈夫よ。大した事ではなかったし」


アンジェリーナが笑顔でそう答えると

リックは安心した表情を浮かべた。


「もう少し、ゆっくり休んでいた方がいいんじゃない?」

「ううん。手入れをしないと、お花が枯れてしまうから」


そう言いながら、アンジェリーナは花の手入れを続ける。


「何か手伝おうか」

リックがアンジェリーナの横に並ぶように立つと

アンジェリーナは言った。


「大丈夫よ」


「いやいや、何か手伝うよ。

 ほら、1人でやるより2人でやった方が早く終わるでしょ」


リックが手伝おうとすると、アンジェリーナがクスクスと笑った。


「えっ?何か可笑しい?」

すると、アンジェリーナが笑いながら

「だって、お花を手入れしているのを想像したら、可笑しくて」

アンジェリーナは、笑いが止まらない様子。

「いやいや、こう見えても結構、花とは心が通じているんだ」


リックは、得意げの様な表情を浮かべるが

アンジェリーナがリックの方を向いて言った。


「ありがとう。その気持ちだけで十分よ」

「わかった。何か手伝える事があれば、いつでも声を掛けて」

「うん」

だが、まだアンジェリーナは笑いが止まらない様子。

「そんなに可笑しいかな」

リックは、少し気落ちしている。


すると、そこへシルエットが近くを通り

アンジェリーナの姿に気付き、声をかけた。

「もう大丈夫なのですか?」

「はい。ご心配おかけして、すみません」


リックがシルエットに対して、

背を向けている事に気付いたアンジェリーナは、急に話を始めた。


「楽しい事や幸せな事があると、人って笑顔になれますよね。

 私、笑顔ってとても好きなんです。

 嫌な事って誰も好む人はいないと思うけれど…できれば私は

 皆が笑顔になれる様な事をしたいといつも考えています」


アンジェリーナの声に耳を傾けているリックは

まだシルエットに背を向けている。

アンジェリーナは何かを察した様に、話を続けている。


「何かが上手くいかなかったり

 嫌な気持ちになってしまう事もあるから

 笑顔になれる事ができない時もあると思うけれど

 何事にも向き合う事が、いつでもどんな時でも必要だと思う」


シルエットは、アンジェリーナの言葉に微笑みを浮かべている。

アンジェリーナは優しい笑みでリックを見ながら、こう言った。


「だから私は、自分自身と向き合えるよう

         いつでも素直にいられる様に心がけています」


リックは、アンジェリーナと目が合い、少し照れながら

リックはゆっくりと振り向き、シルエットと顔を合わせる。


「まぁ~俺は、いつでも素直だけどな」

まだ表情の硬いリックが言うと、シルエットが

「まだまだ子供だな」

すぐに言葉を返すと

その場を和ますかのよう様にアンジェリーナが笑顔で言った。


「向き合えるっていいですね」

その言葉を聞いた、リックとシルエットも

アンジェリーナの笑顔につられて、微笑んでいる様子。


すると、遠くの方から、声が聞こえてきた。

「アンジェリーナ」


その声がルークだと気付き

「そろそろ行きますね」

アンジェリーナは、そう言い残し、その場を去る。


シルエットと2人になったリックは

少し気まずそうな表情を若干浮かべるが

シルエットがアンジェリーナを見送りながら言った。


「とても素晴らしい心の持ち主だ」

すると、リックが言った。

「当然だ。あの子を悪く思う奴の気がしれない」

「確かに。だが、あの子を付け狙う奴の心はもっと気がしれん」

そうシルエットが言うと、リックは真剣な表情で言った。


「俺の心は清らかだ」

その言葉を聞いたシルエットは

「汚れない様に努力するんだな」

そう言い、リックの背中を軽く叩き、邸の方へと歩き始めた。

リックもシルエットの後を追う様に、邸へと歩き始めた。


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