第14話《先入観》
シルエットは椅子に座り、新聞を読んでいると
そこへルークが、シルエットに飲み物を持ってやって来る。
「どうぞ、お召し上がりください」
「ありがとうございます」
シルエットが読んでいる新聞には、ある言葉が書かれていた。
《決まった答えなどない》
「確かにそうだ。
答えは、その時によって変わるモノだ。
素晴らしい新聞記者だな」
などと思いながら、新聞を読んでいるシルエット。
すると、そこへリックがやって来た。
「調子は、どう?」
リックがシルエットに語り掛けると
「どうした?随分とご機嫌じゃないか?」
「やっぱり…早起きすると良い事があるな!」
シルエットは不思議そうな表情をし、リックを見ながら言った。
「…拾い食いでもしたのか?」
シルエットは、リックを心配する。
するとリックは
少し離れた所にいる、ルークの胸元に視線を向けた。
ルークの胸元には、真新しい白いポケットチーフがあった。
そして、リックが急に真面目な顔をして小さな声で、こう言った。
「犯人について、何かわかった事は?」
「いや、まだ何も掴めていない。そっちは?」
シルエットの言葉に、リックは顔を横に振る。
2人が会話をしている目の前を、アンジェリーナが通り
リックはとても明るい表情で「やぁ!」っと、話しかけると
アンジェリーナは笑顔でリックに答える。
リックとアンジェリーナの様子を、
無言のまま見ているシルエット。
間もなくして、
シルエットがリックに言った。
「リック。アンジェリーナさんに手を出したのか?」
「馬鹿言うな!手なんか出していない。失礼だな、アンタ」
シルエットは、溜め息を吐き「手を出すなよ!」っと、
リックに忠告する。
「はぁ~い」そしてリックは立ち上がり、その場を離れた。
シルエットは、読み掛けていた新聞に目を向ける。
リックが邸内を歩いていると
前方から、車椅子に乗ったメイソンがやって来た。
「やぁ!リック君!」
メイソンは陽気に、リックに話しかける。
そしてメイソンは、思いを振り返る様にリックに言った。
「昨晩の肉と酒はどうだった?」
リックは、昨晩の食事の事を思い出しながらメイソンに答えた。
「いやぁ~本当にウマかったよ!」
メイソンは、それは良かった!っというような表情を浮かべ
「今夜はヴィンテージワインなんて、どうだ?」
そう、リックに今晩もお酒のお誘いをする。
「いいねぇ~!」リックとメイソンは、気が合う様子だ。
そして、リックがメイソンに「何処へ行くんだ?」そう尋ねると、
「あぁ、ルークに用があってな」メイソンが答えた。
「そうか。それじゃ俺が押して行ってやるよ」そう言うと、リックはメイソンの車椅子を押して、ルークのいる場所へと向かった。
「すまないな」
メイソンが、申し訳ないという気持ちをリックに伝えると
「良いんだよ!それより!
さっきのワインの話、忘れないでくれよ?」
リックは、今晩の酒の約束を忘れない様にとメイソンに念を押す。「あぁ、勿論だとも」
リックとメイソンは、とても上機嫌でいた。
だが、次の瞬間
メイソンの膝掛けが前方にズレ落ち
車椅子のタイヤ部分に引っ掛かり
車椅子が前に進めずに止まってしまう。
「あぁ、やっちまった。たまにこうして落してしまうんだ」
メイソンは座った状態で手を伸ばすが、膝掛けには手が届かない。タイヤ部分に引っ掛っている事もあり
リックが膝掛けを取ろうとする。
「しょうがねぇなぁ。ちょっと待ってくれ」
すると、リックはしゃがみこみ
車椅子のタイヤ部分に引っ掛った膝掛けを取ろうとするが
思うように取れない。
「くそっ!なんだこれ、なかなか取れない」
苦戦しているリックを見て
「すまんな」
メイソンは申し訳なさそうに、リックに謝る。
「ふぅー。簡単に取れそうにない。強く引っ張ってもいいか?
もしかしたら、膝掛けが破れてしまうかもしれないけど」
すると、メイソンは仕方ないと言った表情で
「構わんよ。此処にこうして、ずっと居る訳にはいかん。
今夜のワインにありつけない」
リックとメイソンは笑い合う。
「それじゃ、ワインの為に強く引っ張るぜ!」
「あぁ、頼む!」
するとリックは、膝掛けを力強く引っ張った。
予想通りに、膝掛けはビリビリと音を立てながら破れた。
「あぁ…」
リックは残念そうな顔をするが、メイソンが陽気に言った。
「仕方がない。何かをする為には、
何かを犠牲にしなければならない時もある。
長年寝かせたウマいワインを呑む為には、
コルクを捨てなければならん!それと同じだ」
リックは、メイソンの言葉に楽しさを感じていた。
「ふっ。ウマい事を言うよなぁ」
2人は、大きな声で笑い合う。
するとリックは、何かに気付いた。
メイソンの車椅子のタイヤ部分に
引っ掛った膝掛けの一部分が、汚れているのを目にした。
「…」
違和感を感じながらもリックは、
タイヤから膝掛けを取ろうとする。
「いや~これはルークに言って、
新しい膝掛けを用意して貰わなければ」
先程の意気投合とした様子とは打って変わって
メイソンの話を半分しか聞いていない様子で
「そうだな…」っと、汚れている一部分を見ている
その、リックの目は鷹の目の様に鋭かった。
そうこうしている内に、タイヤ部分から膝掛けが外れた。
「よし!取れた!」
「ありがとう」っと、感謝の気持ちを伝えると
「どういたしまして。
あぁ~だけど膝掛けがボロボロになったせいで…
散らかしちゃったな」
床には、膝掛けの糸クズで散らかっている。
「構わん。後でルークに掃除を頼もう」
「いや、いいよ。俺が後で掃除する」
そう言いながらリックは再び、メイソンを乗せた車椅子を押し
ルークが居る場所へと向かった。
間もなくして、
ルークとシルエットが居る場所にリックとメイソンが到着する。
「やぁ、シルエット君」
シルエットがメイソンの方を向き挨拶をする。
「どうも」
シルエットとルーク、リックとメイソンの4人が顔を合わせる。
するとリックがルークに言った。
「ホウキとチリトリあるか?」
ルークは、どうしたものかと気になった様子でリックに言った。
「はい。ございますが…掃除なら私がさせて頂きますが?」
「いや、俺がやるよ。何か用があるみたいだし」
リックは、そう言ってメイソンを見た。
申し訳ない表情を浮かべながら
「すまないな。私が膝掛けを落としてしまったせいなんだ」
メイソンはボロボロになった膝掛けをルークに見せた。
「さようでございましたか。
すぐに新しいモノをお持ちいたします」
すると、メイソンが思い出したかの様に
「そうだ!それと今夜、ウマいワインを頼む。
確か、、、ヴィンテージモノがあった筈だ」
ルークがメイソンの車椅子を押しながら
その場から離れて行った。
間もなくして
リックはルークからホウキとチリトリが渡される。
そしてシルエットが、ホウキとチリトリを持っている、
違和感のあるリックに向って言った。
「素晴らしい」
「それ…嫌味か?」
「いや、誉めている」
「そりゃ、どうも」
リックはホウキとチリトリを持って、先程の場所へと向かう。
先程の場所に戻って来たリックは、床に散乱している糸グズを見て
その場にしゃがみこみポケットから、
ジェイコブの遺体から摂取した小さな袋を取り出す。
「糸クズ…」
リックが床に散乱している糸クズに目を向けると、気になっていた
膝掛けの一部分が汚れている部分の千切れた小さな布が
リックの視界に入った。
「これだ、これ」
リックはポケットから、空の小さな袋を取り出して、
落ちている汚れた小さな布を小さな袋に入れる。
「汚れが…赤黒い…」
リックは二つの小さな袋を、見比べている。
「一体…何故だぁ…」リックは、考え込んでいる。
「動けない…いや、動かない。
でも…何故だ?
行動が分かっても、そうする理由が分からない」
リックは立ち上がり、天を仰ぐ。
「わからん!」
リックは掃除を終え、またシルエットの所へと戻って行く。
間もなくして
掃除から戻って来たリックは、
新聞を読んでいるシルエットの所に向かう。
リックがポケットから小さな袋を取り出す。
「これはジェイコブの遺体の右手の薬指から採取したモノだ」
リックはシルエットに小さな袋を見せる。
「何だ?」っといった様子のシルエットに対し、
リックは説明をする。
「見た感じ…糸クズだと思う」
シルエットは小さな袋の中身を見ながら
「糸クズ?ただのゴミじゃないのか?」そう言うと、
リックが続けて答える。
「そうかもしれない。でも何か引っかかるんだよなぁ」
リックがシルエットに言うと
「そうか。それじゃ調べさせよう」
シルエットはリックから小さな袋を受け取る。
「あっ、そうだ!」
するとリックが、もう一つ小さな袋を取り出しシルエットに渡す。
「…布の切れ端?」
シルエットがリックの顔を見ながら聞くと
「正解!」っと、リックが答えた。
だが、シルエットは1つ気になった事があった。
「これは…血が付いているのか?」
不思議そうな表情をするシルエット。
「その二つのモノが一致すれば…犯人はアイツだ」
そうリックが言うと、シルエットは驚いた様子で
「もう犯人が分かったのか?」っと、リックに質問をするが
「いや…まだ確信している訳じゃない。
ただ…一つだけ引っ掛かる事があるんだ」
「引っ掛かる?」
「あぁ。普通なら有り得ない。
でも、もしもそれが違っていたら有り得る事だ」
「…」
シルエットは、無言のままで何やら考え込んでいる様子。
すると、リックはニヤリと笑いながら言った。
「どっちが先に犯人を捕まえられるか、ゲームスタートだ!」
そう言い残し、リックは何処かへ行った。
シルエットはリックに渡された、二つの小さな袋を見ている。
すると再び、リックがシルエットの所に戻って来て、こう言った。
「ポケットチーフって、、、大事な物か?」
するとシルエットが、こう答えた。
「ポケットチーフ?
必要な状況であれば、大事だとは思うが?急にどうした?」
「いや。別に」
リックは、そうかっといった様子を浮かべるが、
シルエットがハッとした様子でリックに言った。
「あっ…まさかリック。この邸の執事になって
アンジェリーナさんに近づこうっていう気だな?
そうはさせないぞ」
シルエットが立ち上がりながら、リックにそう言うと
「なるほど!それは良い案だ」
「待て、リック」
シルエットの言葉を聞かずに、リックはその場を後にし
何処かへ向かった。
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