第13話《野性動物》

霧に包まれた朝


辺りはとても静けさで満ちていて、無数の鳥達が空を飛んでいる。

庭にある噴水の所で腰かけているリックは

煙草に火を付けて、何やら考え込んでいる様子。


リックはポケットから、小さな袋を取り出す。


それは、ジェイコブの遺体から摂取したモノだった。


それを暫く見つめながら、やがてゆっくりと瞳を閉じた。



~瞳の裏側~思考回路~脳内~


部屋で遺体として発見されたジェイコブ。

リックは、その状況を鮮明に頭の中で描き出す。

そして予測される出来事を、何度も何度も繰り返しイメージして

一体どうやって、ジェイコブが殺されたのか。

何故、ジェイコブの右手の薬指だけが怪我をしていたのか。

もしくは、出血する様に自分で怪我をしたのか。

リックは頭の中で、何度も何度も繰り返し、イメージしていた。


そしてリックは、ゆっくりと瞳を開け

先程ポケットから取り出した、小さな袋を見つめている。


「血の塊に付いているコレは…糸クズ…?」

リックは小さな袋の中身を、目を凝らして見ている。

「糸クズ?それともただのゴミ?」

リックは、唸る様な溜め息をする。


すると、

微かに足音がする事に気付いたリックは、警戒をする。


徐々に近づいて来る足音は、やがてリックのすぐ近くで止まり

リックは一瞬、背筋が凍った様に感じた。


ゆっくりとリックは、その足音のした方へと身体を向ける。


そこに立っていたのは、執事のルークの娘アンジェリーナだった。


「おはよう」

笑顔を浮かべながらアンジェリーナは、リックに挨拶をした。

リックは、アンジェリーナに照れている様子。


「おっ、おはよう」

「早起きなのね?」

そうアンジェリーナが言うと

「あぁ。っというより…あまり眠れなかった」

そう言ったリックの言葉に、アンジェリーナは

心配そうな表情を浮かべながら、リックに言った。

「大丈夫?」

アンジェリーナの純粋な心に、リックは恥ずかしそうに下を向く。

「あぁ、大丈夫。ありがとう」

「それなら良かった。隣に座っても良いかしら?」

「どうぞ」

リックは、アンジェリーナが座る位置の所の埃を手で払う。


「優しいのね」

「そんな事ないよ」

「ふふふっ」

2人の会話には、笑顔が溢れていた。


リックは、アンジェリーナの方を向いて言った。


「それにしても朝起きるのが早いね?

             いつもこんな時間に起きているの?」


アンジェリーナは、空を見上げながら言った。


「いつもではないわ。時々ね」

「そうなんだ?」

「でも今日は、木の実を取る為に早起きしたの。

         美味しい木の実があるのよ。木の実は好き?」


そう言いながら、アンジェリーナがリックの方を向く。


「あぁ。食べられる物なら何でも好きだよ」

「それなら良かった。それじゃ、私は行くわ」

アンジェリーナが立ち上がると、

リックも立ち上がりながらアンジェリーナに言った。


「俺も一緒に行くよ」

アンジェリーナは「えっ?」っと少し驚いた様子。


「あっ…駄目だったらいいんだ」

すると、アンジェリーナは微笑みを浮かべながらも、

リックが他にしなければならない事があるのではないかと

不安そうな顔をする。


「駄目じゃないわ。でも、、、良いの?」

「問題無い!さぁ、行こうか」


リックとアンジェリーナは、

木の実を取りに邸から東へと歩き始めた。


暖かい朝の太陽の光と、心地良い風が街中を包み込む。


リックとアンジェリーナは、歩きながら会話を楽しんでいた。


「それにしても此処の自然は、心地良く感じるなぁ」

リックは歩きながら両手を空に翳し

背筋を伸ばしながら歩いている。


「それなら良かったわ」

アンジェリーナも同感っといった様子。


「食べ物も美味しいし!あれ?もしかして、

         料理って君が作ったの?いや、それはないか」


アンジェリーナは、不服そうな様子でリックに言った。

「それって、どういう意味?」

リックがアンジェリーナをからかう。

「この街では、とても美味しい食べ物が沢山あるの。

    でも、料理の殆どは母が作るけど。私は、その手伝いよ」


アンジェリーナは、少しムッとした表情をする。


「あははは。冗談だよ」

「別に怒っていないわよ」


アンジェリーナは少し早歩きになり、リックは後を追う。

するとリックが「ん?あれは…なんだ?」

リックが森の方を指さし、その方向をアンジェリーナが見る。

遠くの方で、何かが動いている様。


そして、アンジェリーナが微笑みながら小声で言った。

「あれは野生の鹿よ」

「鹿?本当?」

鹿がいる方向を見ながら、アンジェリーナがリックに説明をした。


「この辺りは自然が沢山あるから、野生の動物が沢山いるの」

「へぇ~そうなんだ?自然が沢山あるっていうのは、良い事だ」

リックとアンジェリーナは、遠くの鹿を見つめている。


そして、アンジェリーナがリックに言った。

「父の話では、昔は狩りをしていた事もあったみたい」

「狩り?」

リックは、アンジェリーナの言葉に耳を傾ける。


「えぇ。今はしていないみたいだけど。

     私が小さい時くらいまでは、狩りをしていたみたい」


「へぇ~そうなんだ。狩りか…」


リックは、何かが胸に引っかかる様な違和感を感じていた。

ふと、アンジェリーナが呟いた。

「なんだか…わたし…こわい…」


アンジェリーナの瞳は、今にも涙がこぼれ落ちそうな様子だった。すると、リックはアンジェリーナの心情を察する様に言った。


「大丈夫。君は何も心配することはないよ」

リックの優しい言葉に、アンジェリーナは、

柔らかな笑顔を見せながら、リックを見つめている。


「俺がいる限り犯人には、君に指一本も触れさせない。約束する」リックの男らしいその言葉に、

アンジェリーナの心は、リックに惹かれている様。


「ありがとう」

アンジェリーナが、お礼を言うと

リックは照れくさそうに歩き始めると、そのリックの横にきて

寄り添うかの様にアンジェリーナがリックと歩く。

リックがアンジェリーナの顔を見ると

とても素敵な笑顔を浮かべるアンジェリーナを見て、

またリックも笑顔を浮かべる。


「もうすぐよ」

「えっ?もう着いちゃうの?」

リックは小さなため息をつき、とても残念な表情を浮かべ

アンジェリーナとの淡い時間を、まだまだ一緒に過ごしたいと

心から願っていたリックの気持ちとはうらはらに

2人は、目的の場所へと辿り着こうとしている。


暫くすると

「着いたわ」

アンジェリーナが目的地に到着した事をリックに告げると

木々を指さし、リックがその木々を見ると

美味しそうな木の実がなっている。


「食べてしまうのが、もったいないくらい」

アンジェリーナが笑顔で言うと、リックは言った。

「君のその笑顔には敵わないけどね」

微笑み合いながらリックとアンジェリーナは、

木々に実っているとても美味しそうな木の実を取っている。


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