第8話《背徳の瞳》

数時間後、


シルエットとリックは、ルークに邸を案内された後

2人は、庭へと出ていた。


庭の中心には大きな噴水があり、

その噴水の前で2人は、何やら話をしている。


「金持ちでも、苦労や不自由な事があるんだな?」

思いにふけるリックは、空を見上げながら言った。


「金さえあれば、何でも手に出来て、何も不自由する事は無い。

         そう思っていたけど、それは間違いなんだな」


どこか哀しげに話すリックに対し、シルエットが言った。


「人の命は、運命、定めとして決まっていると言われている。

          誰もが皆、命の尊さを知っている筈なのに…

 歪んだ一瞬の感情が、己だけではなく

     その周りも引きずり込んでしまう。真っ暗な暗闇へと」


すると、リックが呟くように言った。


「その暗闇に光が射す事が出来たら、幸せや平和が訪れるのか?」


シルエットが、願うかの様に言った。


「そうであってほしい。

         だからこそ、明日への希望を翳す必要がある」


2人の会話には、とても深い想いが込められているかの様だった。


すると、遠くの方で人の気配がした。


その気配に、いち早く気付いたのはリックだった。


「…あれ?」

リックの言葉に反応したシルエットも、人の気配に気付く。


やがて、2人の方へと向かってくる人物。


段々と、その人物が誰なのかが分かる。


「やぁ!」


リックは、とても爽やかな感じで挨拶したが

シルエットは目を閉じて、頭に手を当てた。


「こんにちは」


2人の所にやって来たのは、

ルークとマリーの娘のアンジェリーナだった。


リックは、アンジェリーナと向き合い

「調子はどうだい?」と、リックが声をかけると

「えぇ、悪くはないわ。彼方は?」

アンジェリーナの笑顔に、リックの目は釘付けになっている。


「俺?全然、悪くない。いや寧ろ、調子が良すぎるくらいだよ!」


すると、「それは良かった!」


シルエットが、アンジェリーナが答える前に言葉を放った。

それに対し、リックは横目で睨みつける。


そんな2人のやり取りを見て、

アンジェリーナは微笑むが、リックは苦笑いをする。


アンジェリーナは頬笑みながら「仲が良いのですね」と、言うと

リックは「まぁ~悪くはないかな?なぁ~シルエット!」

アンジェリーナに笑顔で答える。


「調子が良いな」

シルエットは、場の雰囲気を壊さない様に小声で呟いた。


「此処には、生まれた時からいるのかい?」

リックが質問をすると

アンジェリーナは「えぇ、そうよ」と、笑顔で答える。


「彼氏はいるの?」と、続けてリックが質問をすると

アンジェリーナは「えっ?」っと、驚いた様子。


「いや、彼氏はいるのかなぁ~って、ちょっと気になって」

リックと会話をしながらアンジェリーナは、優しく微笑んでいる。


「あれ?まさか結婚していないよね?

 いや、待てよ?例え、結婚していなくても

 これだけの美人を世界中の男どもが放っておくわけないよな…」


リックは、深く考え込んでいる様子。

シルエットはリックの言葉を無視しながら、庭中を観察している。


「そうだよなぁ~放っておくわけがないよな~うーん…」

リックは、かなり悩んでいる様子。


そんなリックに、アンジェリーナが答えた。

「結婚はしていないわ」


すると、リックが

「本当に?あっ…今、結婚はしていないって言ったよね?

    結婚は?っていうことは、彼氏はやっぱりいるのか?

         だよねぁ~そうだよねぇ…美人だもんなぁ…」


リックは、酷く落ち込んでいる様子。


アンジェリーナは微笑みながら

「彼もいないわ」と、リックに言うと

「よし!」リックは、何故かガッツポーズをする。


そんなリックを見て、

アンジェリーナは微笑みながら、リックに言った。

「彼方って本当に面白い人ね!私、面白い人、好きよ」


そのアンジェリーナの言葉に、

リックは最高な上機嫌を見せ、シルエットに言った。


「シルエット!大変だ!

         アンジェリーナが今、

                  俺を好きって言ったぞ!」


リックは、嬉しさのあまり興奮しているが

そのリックに対し、冷静に言葉を伝えるシルエット。


「いいか?リック?良く聴くんだぞ?

  アンジェリーナさんは、お前の事が好きとは言ってはいない。

       面白い人が好きと言ったんだ。そこを間違えるな」


もはや、

リックの耳にはシルエットの言葉は届かず、響いていなかった。


「これは、、、駄目だ…」

シルエットは、また頭に手を当てた。


すると、遠くの方からルークの声がした。


「アンジェリーナ?」

アンジェリーナはルークの声に気付くと

「はーい。行かなくちゃ」

そう言って、アンジェリーナはリックとシルエットにお辞儀をし、

その場から去って行った。


リックは、アンジェリーナの後ろ姿を、ずっと見つめている。


「シルエット…」リックが静かに口を開いた。

「俺は…恋をした」シルエットは呆れた様子で

「どうせ、いつも恋をしているんじゃないのか?」

リックは、真剣に言葉を口にする。


「いや。これは真実の愛だ!俺は、ついに真実の愛を見つけたよ」

シルエットは、リックの肩を軽く叩きながら「幸運を祈るよ」

リックは素直に「ありがとうシルエット!」と、言った。


シルエットが、今までのやり取りを断ち切るかの様に

手と手を合わせて、パンっと音を響かせ、「はい。ここまで」

そのシルエットの言葉にリックは嫌々、聞き入れた。


「あぁ…僅かな幸せだった…」

シルエットとリックは気持ちを切り替え、

シルエットが眉間に皺を寄せながら話し始めた。


「先ずは、馬小屋へと向かおう」

リックは頷きながら、答える。

「あぁ。何か手掛かりになるモノあるかな?」


シルエットは、考え込んでいる様子で

「どうだろうな…事件の日から少し日が経っているから

     なんとも言えないが、行ってみる必要はあると思うが」


シルエットとリックは顔を合わせ、互いに頷く。


「では、行くとするか」

「あぁ」


一族の四男である、ウィリアムが遺体で発見された。

巨大な邸から北西方向に位置する、馬小屋へと足を運んだ。


辺りには、草や木が生っているが見晴らしは良く

誰かが近くを通ればその姿に気づくほど

草や木が綺麗に整えられている。

暫く歩き続けると、ウィリアムが遺体で発見された馬小屋に

シルエットとリックは辿り着いた。


「邸からは、思ったよりもそう遠くはなかったみたいだ」

シルエットが馬小屋を見ながら言うと

「でも…どうして馬小屋だったんだ?」

リックが疑問を口にした。


「そうだな…

 まだ犯人が邸内の者と決まった訳では無いから、

 何とも言い切れないが。

 サミュエルとルークの証言から犯人は邸内の者だと、

 仮に特定したとしよう」


リックは、シルエットの推理に耳を傾けながら

ウィリアムが遺体で発見された馬小屋の中へと入って行った。


馬小屋の中は少し硫黄の様な臭いがたちこもっていて、

リックは少し苦い表情を見せる。

あたりには少し誇りまみれになっているところがあり、

シルエットは腕で自分の鼻を覆い伏せながら馬小屋の中を見渡し、やがて鼻を伏せた腕を下ろしリックに言った。


「邸の何処かで、ウィリアムは殺害された。

 死因は頭部に外部からの損傷によるもの。

 私の憶測では、ウィリアムは邸の何処かで殺害された後に

 この馬小屋で、耳に手を当てられた状態で

 釘を打ち付けられたのではないかと推測する」


静けさに包まれた馬小屋の中で

シルエットは、自分の考えをリックに説明している。


「その理由は?」リックは、辺りを見ながら言った。


「例えば、邸からあの状態でウィリアムが運ばれたとしよう。

        打ち付けた釘が取れない様に運ぶのは

             非常に手間が掛かると思わないか?」


リックはシルエットの意見を聞きつつ、考え込んでいる。


「完成された状態で、此処へ遺体を運ぶとすれば…

 釘が取れないように、その部分を何かで縛り付けるか

 もしくは、袋状の様なモノで

 体を動かない状態にする必要があると思う。

 だが、ウィリアムの遺体には縛り付けられた跡などは無かった」


リックは頷き、シルエットは更に説明を続ける。


「遺体を完成させた状態を維持するには、とても難しい。

 遺体を運ぶ為に、例えば台車や車を使用したのなら

 当然、動きが目立ち、邸の誰かが気付くのではないか?」


リックは壁に手を当て「確かに、そうだな」と、思い

更にシルエットの話を聞く。


「ウィリアムは邸内で殺害された後、

 この馬小屋に何らかの方法で連れ去られ

 更に、耳に手を当てられた状態で釘を打ち付けられた。

 そう私は推測する」


リックが「それで納得だ」シルエットとリックの意見が一致した。


そして、馬小屋から出る2人は、ゆっくりと辺りを見渡している。


その頃、

邸の窓から、シルエットとリックがいる馬小屋の方を

じっと、見ている人物がいた。


すると、何かを感じたのかリックは、

さり気なくシルエットに伝えた。


「シルエット。なんだか…誰かに監視されている気がする」

そうリックに言われたシルエットは、気付かれない様

さり気なく辺りの様子を伺う。


「…」


何かを察したのか、邸の窓の人物がゆっくりと姿を消した。


「誰かいるか?」

リックが訪ねるとシルエットは

「いや、特に変わった様子はないようだが…

      私も、誰かに監視されているように感じた。

                    警戒する必要がある」


リックも辺りを警戒しながら「そうだな」と答え、

2人は馬小屋を後にし、庭を少し歩いた。


庭では、穏やかに木々が風に揺られ、木洩れ日が輝いている。


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