第7話《肖像画》

邸の中へと進んで行く、リックとシルエット。


その途中、庭の中心には、大きな噴水があった。


「こんな噴水があるなんて、凄いな」


大きな噴水を見たリックが、驚いている様子。

そして、シルエットも大きな噴水を眺めていた。


一方、邸の玄関先では1人のメイドが立っている。


執事のルークを先頭に、シルエット、リックの順で

玄関へと向かう。


するとリックは、玄関先に立ち止まっているメイドに気付いた。


「綺麗なメイドさん、って話だよな?」

リックが、シルエットに確認をするが

「…」

シルエットは無言でいた。


少しずつ玄関先へと近づくにつれ、

メイドの顔がハッキリと見えてくる。


「…」


リックは疑いの眼差しとなり、目が細くなる。


「シルエット?綺麗なメイドさんは…何処だ?」

リックが、シルエットに質問をするが

「…」

シルエットは更に、無言のままでいた。


玄関先に到着し、

ルークが1人のメイドを、シルエットとリックに紹介した。 


「この邸の、メイドのマリーです」

メイドのマリーは、礼儀正しく2人を出迎え

「ようこそ、おいでくださいました」

マリーは、シルエットとリックに挨拶をする。


「実は、マリーは私の妻なのです」

ルークは、マリーが自分の妻であることを説明するが

リックは聞く耳をもっていない様子。


「話しが違うな」

リックは小さな声で、シルエットに言った。


シルエットは、相変わらず無言を貫き通していた。


「私は、この邸の執事。妻がメイドとして仕えております。

                    それと、もう1人…」


ルークが、シルエットとリックに説明をしていると

突然、女性の声が聞こえてきた。


「お父様?」


そこに現れたのは、ルークとマリーの娘のアンジェリーナだった。


「話しの通り!」

リックの目は瞬時に、アンジェリーナに釘付けになった。


そのリックを目にしたシルエットは、勢いのある溜め息を吐いた。


「娘のアンジェリーナです」

ルークが、2人にアンジェリーナを紹介する。


「ようこそ、おいでくださいました」

アンジェリーナは、2人に挨拶をする。


「どうも!リックです」

リックは、いち早くアンジェリーナに手を差し出し

握手を交わすが、周りは苦笑いを浮かべる。


そしてルークが、シルエットとリックに伝えた。


「それでは邸の中へ、ご案内致します」

2人は、邸へと招かれた。



邸の大きな玄関の扉を開け、邸の中へと入る。


シルエットとリックの目に飛び込んできたのは、

とても大きく、立派な肖像画だった。


「あの肖像画は先代、アンディ様でございます」

ルークが肖像画の説明をすると

「とても貫禄のあるお方ですね」

シルエットが感想を述べる。

「眼力が、かなり強いな」

リックも感想を述べると、ルークが笑みを浮かべながら

2人に説明をした。


「確かに。アンディ様は、とても厳しいお方でした。ですが、

    同時に心がとても温かく、お優しいお方でございました」


ルークは寂しそうな表情を浮かべながら

肖像画を見つめ、こう言った。


「この邸は、皆様の笑顔で幸せが溢れかえっておりました。   

           アンディ様がお亡くなりになるまでは…」



回想シーン


食べ物を運んでいるルーク。

食卓には沢山の食事が並べられている。

アンディが食卓の中心に座り、家族の笑顔を見ながら

また、アンディも微笑んでいる。


街中の誰もが皆、羨む様な幸せな一族であった。


「あの頃は本当に、この邸の誰もが皆、

          それはそれは、幸せに包まれておりました」


シルエットとリックは、ルークの言葉に耳を傾けている。


「アンディ様は、とてもご家族の皆様を大切にしておられました。

    どんな時でも、皆様を均等に愛していらっしゃいました」


ルークが、思いを返すように話している。


「絵に描いたような幸せが、そこにあったのですね」

ルークの気持ちを察するシルエット。

「そうですね。アンディ様がお亡くなりになるまでは」

リックは、ルークの話を聞きながらも邸の中を観察している様子。


「アンディさんは、どうしてお亡くなりになられたのですか?」

シルエットは、ルークに質問をした。


ルークは、ゆっくりとアンディの肖像画を見上げながら言った。


「アンディ様は、とても疲れておられる様子でした。

   私などでは到底、考えもつかない。

    きっと毎日毎日、大変な思いをしておられたのではと…」


ルークの話から、アンディの多忙さを感じ取るシルエット。

「思い出させてしまって、すみません」

シルエットはルークの気持ちを察し、頭を下げた。


「いえ、いいのですよ」

そう言うとルークは笑顔を見せ、話しを続けた。


「ある日の朝、アンディ様の部屋へと私は向かいました。

そしてドアをノックしたのですが…何の返事もありませんでした」


シルエットはルークの目を見ながら

「それで?」っと、質問をした。


「はい。胸騒ぎがしたもので…失礼を承知の上

     私はドアを開けて、アンディ様の部屋へと入りました。

 まだお休みになっているのかとも思い、

                  ベッドを拝見致しましたが  

 アンディ様のお姿はベッドの上には無く

        ソファーに、アンディ様は座っておられました」


シルエットも、アンディの肖像画に目を向ける。


「私は、アンディ様にお声をお掛けしましたが…

                  返事はありませんでした。 

 もしやと思い私は急いでアンディ様の元へと駆け寄りましたが…

     既にアンディ様は、お亡くなりになられておりました」


シルエットはルークの話を聞きつつ、質問をした。


「病死とかでは無く、

         眠りながらお亡くなりになられたのですか?」


ルークが答える。

「はい…。とても穏やかなお顔をしておられました」


シルエットは、申し訳なさそうな表情で

「お悔やみ申し上げます」ルークに言った。


ルークの目には、うっすらと涙が浮かんでいた。

リックもルークの話を聞き、残念な表情を浮かべている。


「その時にアンディ様は、とても大切に大切にしておられていた  

       《懐中時計》を、お手にしておられておりました」


シルエットとリックは、驚いた顔をする。


「とても、お気に召しておられたのでしょう」


すると、シルエットがポケットから懐中時計を取り出し、


「その懐中時計は、これですか?」ルークに見せた。


「おぉ。それは正しく、アンディ様の懐中時計です。

           でも一体どうして、貴方様がお持ちに?」

ルークが質問をすると、


「私の元に資料と懐中時計が、一緒に送られてきました」

シルエットが答えた。

「それでは、サミュエル様が?」

シルエットが「そのようですね」そう言った。


すると…


1人の男が、ルークとシルエットとリックの元へとやって来た。


「ようこそ、我が邸へ」


声のする方へと、3人が振り返る。


すると、「サミュエル様」ルークが名前を声に出した。


その男は一族の二男、サミュエルだった。


「こんにちは」サミュエルと握手を交わすシルエット。

「助手のリックです」リックもサミュエルと握手を交わす。


「立ち話もなんだから。私の部屋と案内しよう」

シルエットがサミュエルに「ありがとうございます」そう言うと、サミュエルはルークに申しつけた。


「ルーク。

   お2人に、何か飲み物を用意して差し上げてくれないか?」


ルークは、サミュエルの方を向き

「かしこまりました。すぐに御持ち致します」

そう言ってルークは、その場から去って行った。


するとサミュエルが、2人に言った。


「御覧の通り。私は目が見えません」

シルエットは、サミュエルの風貌を見ながら

「その様ですね?」と、言った。


「目は見えませんが…

        お2人が、この邸に来られたのは分りましたよ」


シルエットとリックは、互いに顔を合わせる。


「そうなのですか?一体、何故お分かりに?」

シルエットは、サミュエルに質問をした。


すると、サミュエルが答えた。

「初めて聞く音がしたのです」

サミュエルは、自分の耳に手を添えた。

「いつもとは違う足音がね」


2人は驚いた表情を見せ、

「足音ですか?凄いですね」

シルエットが感心した表情をしていると、

サミュエルが語り出した。


「目が見えなくなってから、音に敏感になるようになりまして。

              人間というのは不思議なものです。

 何かを失ったら、何かでそれを補おうとするのですよ。

                      身体が勝手にね」


シルエットが手にしている懐中時計を、

サミュエルに返そうと手を伸ばすと…


「それはまだ、貴方がお持ちになっていて下さい。

               何かの役に立つかもしれません」


シルエットとリックは驚きを隠せない様子。


「どうして分かったんだ?」

リックは思わず、身体が前のめりになった。

「わはははっ」サミュエルは、声を大にして笑った。


「おいおい。笑ってないで教えてくれよ」

リックは、少しムキになる。

「リック、失礼だぞ」

リックに怒るシルエットに対して、サミュエルが言った。


「いいのですよシルエットさん。威勢が良いのは元気な証拠だ」

シルエットは申し訳なさそうに「すみません」っと、伝えた。


シルエットは、リックに険しい表情を見せると

リックは顔をシルエットから背ける。


「リックさん?

    どうして私が懐中時計に気付いたのか気になりますか?」


サミュエルの言葉に、リックが喰らい付く。


「気になる。だから聞いているんだ」

静けさに包まれた邸の中で、サミュエルが口を開いた。


「何故、気付いたか。それは…音ですよ。音」

シルエットとリックは、サミュエルの言葉に耳を傾けた。


「そう。その懐中時計は、もともとは父が持っていた物。

 私はその懐中時計を幼い頃から知っている。

 形や重さ。今は目が見えないが、

 何処が傷付いているかも私には分かる」


すると、リックが言った。

「へぇ~凄いな。でも、それじゃ俺の質問の答えになっていない」リックが、サミュエルに問いただす。


サミュエルは、ゆっくりと…

シルエットが手にしている懐中時計を指差す。


「その懐中時計に付いている…チェーンの音だよ」


リックが懐中時計に目を向ける。

シルエットはゆっくり手にしている懐中時計を上下に軽く振った。


すると…


微かにチェーンとチェーンが触れる音がする。


「本当かよ…アンタ本当は目が見えているんじゃないのか?」

シルエットは、リックを見ながら静かに言った。

「リック。いい加減にしろ」

サミュエルが、その場を抑えるかの様に言った。


「亡くなった父が、その懐中時計を大切にしていた様に

        私にとっても、その懐中時計がとても大切。

                 だからこそ分かるのですよ」


シルエットは、深く頷く。


「さぁ、私の部屋へと案内をしよう」


サミュエルを先頭に、シルエットとリックが続く。



間もなくして、

サミュエルの部屋へと招かれた、シルエットとリック。


3人は椅子に腰掛け、会話をしている様子。


すると、そこへ執事のルークが飲み物を持ち、やって来た。


「どうぞ。お召し上がりください」

シルエットとリックは「ありがとうございます」そう言いながら

2人は、飲み物に手を付ける。

サミュエルも飲み物を少し口にした後、2人に話を始めた。


「もう大体の事は、

    お送りした資料を見て貰えば、お分かりになるでしょう」


サミュエルの言葉に、シルエットが答えた。

「はい。大体の事は」

サミュエルは、とても悲しそうな表情をしながら

「ウィリアムは…殺されたんだ」

そう言うとシルエットが「お察しします」と

サミュエルの心情を察する。


「私は…犯人は、この邸の中にいる者の仕業だと思っている。

             是非とも犯人を見つけ出して欲しい」


サミュエルは、シルエットとリックに強く訴えかけた。


「はい。此処へ来た以上、出来るだけの事はするつもりでいます」


シルエットが、サミュエルに心構えを伝えると

「宜しく頼む」サミュエルはシルエットとリックに握手を求め、

その手を強く握り締めた。


「何か必要なモノがあったら何でも言ってくれ。遠慮は要らない」


サミュエルが心配りをすると、シルエットは頷いた。

リックは、サミュエルの部屋の内部を観察している様子。


「サミュエルさん?すみませんが

        少し邸内を見て回ってもよろしいでしょうか?」


シルエットが言うと、サミュエルはとても明るく答えた。

「勿論だとも。隅々まで見て行ってくれ。ルーク」

ルークが、サミュエルの元へと歩み寄る。


「シルエットさんとリックさんに、邸を案内してくれ」


サミュエルがルークに申しつけ、

「かしこまりました。では、こちらへ」

ルークが2人を誘導する。


「シルエットさん?」


シルエットがサミュエルの方を見ると、

「どんな事があっても、真実を伝えて欲しい。

      例えそれが、私達、一族が滅ぶような事になっても」


サミュエルは、シルエットの手を強く握り

自分の気持ちをシルエットにぶつけた。


「分かりました」

シルエットが固い表情で答えると

サミュエルは「宜しく頼む」と、優しい笑顔で願った。


シルエットもサミュエルの手を強く握り返し、部屋を後にした。



ルークは、邸内をシルエットとリックに説明している。


邸内には、とても古いアンティーク家具や置き時計、

騎士の鎧などが置かれている。


「凄いな」

リックは、騎士の鎧を触っている。

そんなリックの行動を見ながらシルエットは

「リック?壊すなよ?」と、注意をする。

シルエットは、リックが何か物を壊してしまうのではないかと

不安気な表情を浮かべながらも、ルークに質問をした。


「他の皆さんは、今どうされていますか?」

ルークは考えている様子で

「そうですね、、、

      今は皆様、お部屋におられると思いますが。何か?」


シルエットが質問をした。


「皆さん、ご結婚はされていないのですか?」

ルークが立ち止まり、シルエットとリックに説明をした。


「その事について、ご説明させて頂きます」

何やら神妙な面持ちの様子のルークを見て、

シルエットは何かあるのではと、思いながら

「お願いします」そう言ったシルエットだが、

リックが居ない事に気付く。


するとリックは、まだ騎士の鎧の所にいた。

シルエットは片手を頭に当てながら溜息をつき、呆れた様子で


「おい、リック」


リックは、騎士の剣を手にしていた。


「シルエット。なかなか…重いぞ…」


シルエットはリックに手招きをし、リックを呼びつけた。


リックは剣を元に戻し、シルエットとルークの所へと向かう。


そしてルークは続けて、説明をはじめた。


「長男のメイソン様は、ご結婚されていましたが…

   奥様のイザベラ様は病により、お亡くなりになられました」


ルークが、一族の事について語りはじめる。

「いつ頃ですか?」シルエットが、ルークに質問する。


「そうですね…アンディ様がお亡くなりになられ、

  間もなくしてメイソン様が事故にあい、          

   車椅子で生活をなされる様になってからの事でしょうか…」


シルエットはルークの説明を聞きながら、

ポケットから手帳を取り出す。


「二男のサミュエル様は独身でおられます」

シルエットは、ルークの説明をメモに書いている。

リックは、邸内を観察している。


「三男のジェイコブ様は、ご結婚なされており、

          奥様のヴィクトリア様と一緒におられます」 

シルエットがメモに書きながら、質問をした。


「五男のネイサンさんは寝たきり状態だそうですが…ご結婚は?」


その質問に対しルークは、

「ネイサン様は、ご結婚はされておりません」そう答え、

シルエットは、メモに書きながら言った。


「それで、四男のウィリアムさんが殺されている」

ルークは「はい」と、答えた。

シルエットが「ご結婚は?」と、続けて質問をし、

ルークは「されております」とすぐに答える。

シルエットが続けて「では、ご婦人は?」と質問をする。

するとルークが、とても言いづらそうな表情をしながらも

シルエットの質問に答えた。


「ウィリアム様の奥様のサラ様は…

         今は、お部屋に籠りきりでいらっしゃいます」


メモに書いていたシルエットのペンが止まり

「…とてもショックだったのでしょうね」

シルエットが言うと、ルークは神妙な面持ちで

「そうだと、私も思います。

    あの様な出来事を目の当たりにしたら…

      きっと誰もが皆、サラ様の様に

        お心をお閉ざしになられてしまうかと思います」


ルークは瞳を閉じながら、

とても悲しい、あの日の出来事を思い返していた。



回想シーン


執事のルークが、邸の庭にある馬小屋で

ウィリアムの遺体を発見する。


ルークが邸に戻り、一族に事情を説明する。


それを聞いたルークの妻マリーは、警察へ電話をする。


邸の庭の馬小屋では、一族がウィリアムの遺体の傍にいる。


少し遅れて、ウィリアムの妻、サラが駆けつける。


やがてサラの瞳には、無残なウィリアムの姿が映る。


サラの瞳には涙が溢れ、目の前の現実を受け入れたくないかの様に顔を横に振りながら、ウィリアムの頬に触れる。


冷たくなっているウィリアムの顔に、

         現実を知らされるサラは大きな声で泣き叫ぶ。



「あの様な日は…決して…2度とあってはならないと思います」


ルークの目が、涙で滲んでいる。


「私もそう思います」シルエットが言うとリックも続けて言った。

「確かに、俺もそう思う」3人の意見が、一つになる。


「私からも、お願いします。

         どうか、犯人を捕まえてください。

                   宜しくお願い致します」


ルークは、シルエットとリックに頭を下げる。


リックがルークに声をかけ「頭を上げてくれ」

シルエットは、リックの気使いに微笑みを見せる。


シルエット・リック・ルークを、

     大きな肖像画が3人を見下ろしているかの様に見える。

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