第6話《灰色の邸》
ある雨の日。
カフェの店内にて、コーヒーを飲んでいるリックの姿があった。
外は大雨の影響により、街中では人の姿が少ない。
TVでは、大雨によるニュースが取り上げられている。
リックはソファー席に座っており、向いには女性がいた。
「大雨だな…君は傘を持っているの?」
リックが、女性に優しく語りかけている。
すると、
そこへ雨に打たれて、びしょ濡れになっているシルエットが
カフェの店内へとやって来る。
シルエットは辺りを見渡し、リックを探している様子だったが
リックはシルエットには気付かずに、女性と会話を楽しんでいた。
「君の手は、とても綺麗だね」
リックは、女性の手を優しく握りながら語りかけた。
「そんなことないわよ。でも貴方って…本当に素敵ね」
女性は、リックに一目惚れしている様子。
そんな2人のやり取りを目の当たりにしたシルエットは、
突然リックの隣の席に、ドスンっと音を立てるように腰掛けた。
リックは笑顔を浮かべながら、女性との時間を楽しんでいた。
だが、
シルエットがやって来た事に対し、ムッとする表情をするリック。
そんなリックを横目に、シルエットは女性に対して、こう言った。
「お嬢さん?この男は、やめておいた方が良いですよ?」
女性は、驚いた様子で言った。
「こちらの方は、お知り合い?」
女性が、リックの方を見つめながら質問をした。
リックは、真剣な眼差しで女性に言った。
「知らない。きっと僕達が楽しそうにしているのが、
気に入らなくて邪魔をしに来たんだ」
リックが女性に言うと、それを聞いたシルエットは反論した。
「女性の前で…こんな事はしたくはないのだが…」
そう言ったシルエットは、いきなりリックの手に手錠をかけた。
「コイツは凶悪犯なのです。
貴女みたいな女性を騙して悪い事をしようとしているのです。
だから私は、この男を捕まえに来たのです」
リックは、取り乱しながら
「おいおい!冗談はよせ!」
腕にかけられた手錠を外そうと、必死になっている。
女性は席を立ち、リックに平手打ちをする。
「最低!」
リックは女性に平手打ちを喰らい、下を向きながら呟いた。
「痛い…」
女性は、とても怒った表情をしながら、その場から立ち去る。
シルエットは女性に向け、ゆっくりと手を振っていると
リックは物凄い形相でシルエットに怒鳴った。
「コラコラ、やり過ぎだろ?なんで邪魔するんだ」
「約束の時間だ」
シルエットは、冷静にリックに言った。
だが、リックは納得が出来ず
「はぁ…なんで邪魔するかな?
これから捜査の協力する相手に、こんな仕打ちをするなんて…
手錠は流石に反則だろ?」
微笑みを浮かべながらシルエットは、
リックの手錠を外しながら言った。
「君には、これくらいのジョークが丁度良い」
手錠を外されたリックは、自分の手を撫でながら
「アンタのジョークが恐ろしいって勉強になったよ」
皮肉を言うリック。
シルエットが、真剣な表情でリックに告げた。
「列車の時間だ。そろそろ行くぞ」
するとリックは、さっきまでの態度とは切り替えた。
「了解」
2人はカフェを後にし、大雨の外へと出て行った。
数時間後。
列車内にいる二人は、例の一族の件について話し合っている。
外では、相変わらず大雨が降り続いていた。
「この一族は、この国のトップクラスの富裕層だ。
大規模な土地を持ち、幾つもの自社を持ち、
株や石油など様々なモノから資産へと換える術を持っている」
例の事件に関連する一族について、
シルエットがリックに説明していた。
「凄いな。一体どれだけの金を持っているんだ?
あっ…聞いた俺が馬鹿だった。今のなかったことにしてくれ」
とてつもなく、大金持ちなのだろうと察するリック。
シルエットは話を続けながら、例の一族に関する書類と
写真を手に取り、リックに説明した。
「これを見てくれ」
書類と写真をリックに見せ、更に説明を続けるシルエット。
「一族は七人家族。
既に両親は他界しており、残っているのが男兄弟の五人だ」
リックは、シルエットの説明を真剣に聞き入れている。
「それと兄弟の他に、邸には執事のルークとメイドが二人。
現状の一族の説明をしよう」
リックは頷く。
「事故にあい、車椅子生活をしているのが長男のメイソン」
メイソンの写真をリックに見せる。
「二男のサミュエルは、失明していて目が見えない。
彼が今回、依頼をしてきた人物だ」
サミュエルの写真をリックに見せる。
するとリックは無言のまま、何やら違和感を感じはじめていた。
「三男のジェイコブは、言葉が話せない。
四男のウィリアムは、先天性により耳が聞こえない」
無言でいたリックが、口を開いた。
「なんか…可笑しくないか?」
シルエットは、リックの質問を止めるように手で表現をしながら
「まぁ、聞いてくれ」
そして、シルエットは話を続けた。
「五男のネイサンは、幼い頃から身体が病弱で、
今では寝たきりの状態だそうだ」
残りの兄弟達の写真を、リックに見せる。
「この一族は…呪われているのか?
なんだか皆、身体の一部が不自由だな」
リックがそう言うと、シルエットは何やら煮え切らない表情を見せ
「そうなんだ。事故や病気などは理解出来るのだが…
三男のジェイコブは…」
シルエットは、三男ジェイコブの写真を手にしながら、
「彼の場合は事故や病気ではない」そう言い切った。
するとリックは、シルエットの顔を覗き込むようにして
「何?一体どういう事だ?」
リックが質問をすると、シルエットは険しい表情で答えた。
「調べによると、
毒物によって彼の喉は焼かれた状態になり言葉を失った。
犯人による計画的犯行だ」
リックは口元に手を当て、「犯人が…いるのか?」
リックの顔もまた、険しい表情になる。
「それと二男。事故で失明となっているが…
私は犯人による犯行だと思う」
まだ憶測の段階ではあるが、
シルエットはリックに自分の考えを更に告げた。
「外部からというよりは、内部の可能性が高いと私は思っている」
リックは、一族の写真を見ている。
「それと先日…」
シルエットが四男のウィリアムの写真を指さし、
リックは写真に目を向ける。
「ウィリアムが殺害された」
驚いた様子でリックは「殺されたのか?」
そう言いながらシルエットの方を見た。
「ウィリアムの妻であるサラが、執事のルークに
朝からウィリアムの姿が見当たらない事を告げ
残された兄弟と、そしてメイド達が邸内を探した」
リックは、シルエットの説明に耳を傾ける。
「だが、昼くらいに彼は遺体として発見された」
リックは険しい表情をしながら
「誰がウィリアムを見つけたんだ?」
すると、シルエットは一枚の写真を手に取り、こう言った。
「執事のルークだ」
リックは、目を細めながら頷き
「死因は?」
リックは冷静に、四男ウィリアムの死因をシルエットに尋ねた。
「邸の外にある馬小屋で、ウィリアムは発見された。
死因は、頭部に外部からの損傷によるもの。
遺体は地面に座っている状態で、耳から出血していた」
するとシルエットは、
四男ウィリアムの発見された遺体写真を、リックに渡した。
「わぉ…かなりリアルだな」
ウィリアムの遺体写真を見たリックは、ある事が気になっていた。
「なんで…座っている状態なのに…耳に手を当てているんだ?」
リックは、不可解な事に気付いた。
何故ならば、四男ウィリアムの遺体が
両手を耳に当てた状態になっていたからだ。
四男ウィリアムは頭部を損傷されて死に至り、
遺体は座っている状態。
両方の手は何かで吊るし上げられていない限り、
耳に手を当てるなど通常では考えられない事だからだ。
「有り得ない状態だ。
いや…寧ろ、あり得ない状態にする必要があったのだろう」
リックは、シルエットの言葉に疑問を抱く。
「きっと、何か理由がある筈だ」
そう言いながらシルエットは、もう一枚の写真をリックに渡す。
「釘?」
リックが見た写真は、
ウィリアムの遺体が耳を手で塞いでいる手元のアップ写真だった。
手に釘が、討ち付けられているのが分かる。
「そうだ。釘だ。耳を手で塞いでいる状態にする為に、
両手には釘が打ち付けられている状態になっている」
シルエットは、
ジェスチャーを交えながら、リックに状況の説明をしている。
「イカれてる」リックは、額に手を当てている。
「これは何かのメッセージ?
それとも何かの作品のつもりなのか?
まぁ、どっちにしても相手は異常者って事に間違いはない」
シルエットが、強い口調で説明をしている。
「それで?俺に一体何をしろって言うんだ?」
リックがシルエットに、どうして自分が必要とされ、
一体何をするべきなのか質問をした。
すると、間もなくしてシルエットが答えた。
「これは私の憶測だが…
君は、想像力や記憶力や計算力が人並みを遥かに超えている。
だがらこそ、警察に捕まる事無く
今こうして私の目の前にいるのだと思う」
リックは、ムッとした表情で
「おいおい。今こうして俺がいるのは、
アンタが強引に連れて来たからだろう?」
シルエットは冷静な対応で、答えた。
「あぁ、違った。私が君にゲームに勝ったからだったな」
シルエットは、微笑みを見せる。
リックは肩を撫で下ろし、顔を横に振る。
「冗談はさて置き。君の力が本当に必要なんだ」
シルエットが真剣な眼差しでリックに言うと、
「ふぅ~。わかった」
リックはそう言い、2人は軽く握手を交わす。
「もうすぐ駅に着く。
駅では執事のルークが出迎えに来てくれる事になっている」
リックの目が鋭くなる
「第一発見者が出迎えてくれるって訳か。面白い」
リックは、不敵な笑みを浮かべる。
「くれぐれも言っておくが。失礼の無いように」
リックに注意をすると、
リックは、わかったというように手を上げる。
「それと一つ…」
まだあるのか?っと言ったような表情で
リックがシルエットの方を見る。
「君は女性に対し、非常に優しい」
穏やかな表情で、シルエットがリックに言う。
「なんだよ?さっきのカフェの話しか?」
リックは何を言い出すのか、というような表情を浮かべる。
「とても綺麗なメイドさんらしい。絶対に手を出すなよ」
穏やかな表情から厳しい表情へと変え、
リックに忠告するシルエット。
「はいはい。わかってますよぉ~」
リックは、軽く聞き流している様子。
そのリックの反応にシルエットは、深く溜め息を付く。
間もなくして、列車が駅へ停まる。
降り続いていた雨が、いつの間にか止んでいた。
「到着だ」
シルエットとリックが荷物を持ち、席を立つ。
駅から出ると、
黒塗りの車の前に、黒いスーツの男が一人立っており
シルエットとリックの方を見ている。
リックが黒いスーツの男を見ながら
「彼が、執事のルークか?」
「そうだ。彼の運転で、例の一族の邸へ向かう」
シルエットが、そう答えると、
「黒いスーツに、
あの白いポケットチーフが
如何にも執事って感じだな」
リックがルークの風貌について言うと
シルエットが冗談をリックに言った。
「君には、ポケットチーフが似合いそうにないな」
シルエットの冗談にリックはムッとした表情をしながら、
執事のルークの元へと歩き続ける2人。
間もなくして、リック・シルエット・ルークが顔を合わせる。
「お待ちしておりました」
ルークは礼儀正しく、2人を出迎える。
「FBIのシルエットです」
シルエットがルークにFBIのバッチを見せ、握手を交わす。
すると、ルークが訪ねた。
「こちらのお方は?」
シルエットが、リックをルークに紹介する。
「助手のリックです」
「助手?」
シルエットは、リックの身体を肘で突く。
「えっ。あっ、どうも助手のリックです」
ルークは頷きながら、リックと握手を交わす。
「お車へ、どうぞ」
ルークは車のドアを開け、2人を誘導する。
車に乗り込むシルエットとリックに続き、ルークも車に乗り込む。
「此処から邸までは、どれくらいで着きますか?」
車内で、シルエットがルークに尋ねた。
「そんなにお時間は掛かりませんが?どうかなされましたか?」
心配そうな表情をするルーク。
「いえ。少し気になったもので」
シルエットがそう言うと、
ルークは心配そうな表情から笑顔を見せ
「そうですか。宜しければ、出発しますが?」
シルエットに確認すると。
「お願いします」
シルエットがルークに伝えた。
そして車は、邸へと向かって走り出した。
車の窓の外で流れゆく景色は、とても穏やかだった。
見慣れない景色は、何処か心が弾み楽しさを覚える。
リックとシルエット。
2人は今まで、それぞれの人生を歩んできた。
出身・性格・仕事・どれをとっても2人の接点は無い。
だが、出逢いは突然訪れた。
ある一つの出来事により、2人は少しずつ繋がりをみせる。
2人の出逢いは、偶然だったのか。
それとも、必然だったのか。
その理由は…神のみぞ知る。
リックとシルエットの瞳に映る美しい景色は、序章にすぎない。
リックとシルエットの性格をオセロで例えるならば…
リックは黒。シルエットは白。
色で表わせば、白色と黒色が混じわると《灰色》になる。
数式で表せば、1+1=《2》になる。
シルエットは、自分の生み出す答えと
リックの生み出す答えを、重ね合わせた時、より真実へと繋がる。のではないかと、思っていた。
そんな中、
一枚の写真をシルエットが手にし、リックに見せる。
その写真は、
これか向かう一族の邸の外観が映っている写真だった。
最初は白く輝いた邸だったのであろう。
長い年月が経ち、
いつしか白い邸には黒い膜が張っているかの様に見える。
白色と黒色が交わる灰色。
黒の色を持つリック。白の色を持つシルエット。
二つの色を混じり合わせた2人が灰色の邸へと向かう。
果たして2人が手にする答えとは…
灰色の邸に隠された真実とは、一体どんな事なのだろうか…。
すると、ルークが言った。
「間もなく到着します」
リックとシルエットの瞳には、
大きな門が映っているゆっくりと大きな門が開かれてゆき、
ルークは車を邸の中へと走らせる。
「でかい門だな…」
門の大きさに驚きを隠せないリック。
「像でも壊せそうにないな」
顔を合わせて苦笑いをする、リックとシルエット。
ゆっくりとブレーキを踏むルーク。
「到着致しました」
すると、ルークが車から降りる。
続いて、リックとシルエットも車から降りる。
やがて、2人の目の前に立ちはだかる、大きな灰色の邸。
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