第4話《抜いてくれ》

別の日

リックは、とある建物の前でバイクを停止させた。

到着した場所は、静かな街にある一軒のカフェ。

バイクから降りたリックは、カフェの店内へと足を運ぶ。


店内には数人の客が飲食をしており、

リックは店内を見渡し、座る席を探している様子。

間もなくして、リックはカウンターの丁度真ん中の席に座った。


「ご注文は?」店員が、リックに尋ねた。


「ホットドックとコーヒーを頼む。

              あっ、チリビーンズは抜いてくれ」


 そう店員に注文を伝えたリックは、ゆっくりと辺りを見渡す。


「はいよ」店員は、注文の品を用意しはじめた。


リックは、店内にあるテレビに視線を向けると

テレビではニュースが流れており、何気なくテレビを見ている。

すると、リックの携帯電話が鳴り、手に取り液晶画面を見る。

どうやら、メールが携帯電話に届いた様子。


「先日、ある一族に奇妙な出来事が起きていると、

 ご連絡させて頂いた者です。

 突然ですが、本日お時間ありますか?

 場所は駅の近くにある緑色の看板のカフェ。

 お時間はお任せ致します。如何でしょうか?」


そのメール内容を見たリックは、すぐに返信をした。


「ご連絡お待ちしておりました。

 偶然にも今そのカフェにおりますが、

 もしよろしければ、今からでも如何でしょうか?

 ある程度の時間であれば、

 このままカフェでお待ちしておりますが?」

リックはメールを返信した。


っと同時に、あの日の夜の事をリックは思い返していた。



回想シーン。

リックが暫く暗闇の道を歩いていると、暗闇の向こう側に、

うっすらと人影が見えるのをリックは素早く気付いていた。

やがて、その人影はゆっくりとリックの方へと身体の向きを変える。


「?」


何かを感じたリックは、その人影に向かって全速力で走り出す。

暗闇の中の人影の横を通りすぎるころ、その人影の手の中に

うっすらとではあるが懐中時計らしき物があるのが一瞬見えた。


数十メートル離れた所でリックは立ち止まり、

少し息を切らせながら振り返り、暗闇の中の人影の方を見る。


だが既に、暗闇の中の人影の姿は無い。


「懐中時計…」


リックはポケットから煙草を取り出し、

上着の左ポケットにあるジッポライターを取り出して、

煙草に火を付けて夜空に向け、煙草の煙を吐き出す。

やがてリックは夜の暗闇の中へ、ゆっくりと消えていった。



「懐中時計…」


リックは何か理由を見つけようと賢明に脳を動かしている。

すると、

また携帯電話が鳴り、メールの返信が届き内容を確認するリック。


「そうなのですか?奇遇ですね。

実は私も丁度、今そのカフェにいるのですよ。」


リックは辺りを見渡すが、それらしき人物は見当たらなかった。

リックはメールの続きを読む。


「それなら話は早い。私はカウンターに席を取ってあるので、

           その店のカウンターでお会いしましょう」


メールの内容を見たリックが、カウンター席を見渡すと、

カウンターの一番端の席に荷物が置いてあるのを見つける。

そして、リックはメールを返信する。


「分かりました。それでは、このままここでお待ちしております」


もう一度、リックは辺りを見渡す。

だが、誰が依頼人なのかは…一目で解る術が無い。

リックはカウンターの一番端の席の荷物を見ながら、

ふとリックは思った。


「荷物が席にある。っということは、

            トイレか?トイレに行けば居るのか…」


依頼人は、一体どんな人物なのか。

リックは、はやる気持ちを抑えきれない様子で席を立ち、

トイレへと向かった。


トイレ内に入ったリックは、用を足している若者が一人と

個室の扉が一つ閉まっているのを確認した。

そしてリックは先ず、用を足している若者の隣に立ち、

用を足しながら、その若者をチラッと見る。

若者は、何か視線を感じリックの方を見るが

リックは、何気なく目を反らす。

そして、またリックは若者を横目で見る。

何度か視線のやり取りがあった後、

若者とリックの目が合ってしまう。


「…俺は、その気はねぇぞ?」

そう言った若者は用を足し終え、トイレを後にした。


「俺だって、その気はねぇよ」

リックは、閉ざされた個室の扉に一瞬目をやり、用を足し終え

手を洗いながら、鏡越しに個室の扉を見ている。


「早く出て来い。早く顔を見せろ」

小声で言いながら、リックは扉を見つめている。 


すると…

水の流れる音がする。

リックは背筋を伸ばし、扉の方を睨みつける。

やがて、中から出てきたのは…

リックの注文を対応をした店員だった。


ハッとした表情を見せる店員に対し、リックが言った。


「俺の注文は?」


「あの…そのぉ…今から…」


店員がバツの悪そうな表情を見せると、

リックは怒鳴りながら言った。


「さっさと作れ!」


店員は、かなり焦った様子でトイレを出ようとするが、

リックは店員を掴み止め、そして言った。


「俺を食中毒にさせる気か?」

かなり不機嫌な表情をするリック。


「いや…そんなつもりは…」

店員が、そう答えると。


「用が済んだら、しっかり手を洗え!」

リックは大きな声で店員に向って怒鳴り散らす。


「はい」

慌てて手を洗い、トイレから出て行く店員。


「まったく…衛星管理がなっていない」

リックは水を出し、顔を洗っていると、また携帯電話が鳴る。


リックは顔を拭き、携帯電話を取り出し、

届いたメールの内容を確認する。


「姿が見えないようですが?

            ひょっとして、もう帰られましたか?」


リックは急いでトイレから出て、自分の席へと向かった。

リックは辺りを見渡していると、荷物があったカウンターの端には、先程トイレで用を足していた若者が座っている。

そして一つ席を開けて、作業着姿の男。

真ん中の席にはリックが座っていた席。


その、リックの席を一つ開けてスーツ姿の二人組の男達。

その隣の席には、割とラフな格好をしている男が一人。

リックはカウンターに座っている人物を、

一人一人じっくりと横目で見ていた。


「この中に奴が居る筈だ。

         だが、目印となる懐中時計が…見当たらない」

リックは目印となる懐中時計を探しているが、

持っている者は何処にも見当たらない。

リックは、ゆっくりと自分の座っていた席についた。

横目で辺りを見渡し、いつメールの人物が接触してくるのか警戒していた。


「何処だぁ~?」

リックはTVを観るフリをしながら周りを見ている。


「何処にいるぅ~?」

リックはポケットから煙草を取り出しながらも、

周りを警戒している。


すると、

「ホットドックとコーヒー。お待たせ致しました」

店員の声がリックに向けられた。


「…」リックは無言のまま、店員を睨めつけた。


「…?」


リックの異様な雰囲気を察する店員は、若干後退りをする。

そんな店員に向って、リックは物優しげな言い方で店員に言った。


「君は…トイレで用が済んだら、毎回手を洗っているか?」

リックの質問に対し、店員は背筋をピンっと伸ばしながら答えた。


「イエッサー!」店員は敬礼をしながら、

リックの方に身体を向けてはいるが、視線は合わせていない。


「う~ん…では?先程、俺とトイレで出くわした時は?」

リックは人差し指でトイレの方を指した。

店員は、アッっという表情をする。


「もう一度だけ聞く。先程は?」

リックの表情はとても穏やかだが、

そんなリックの穏やか過ぎる表情に店員は、恐怖感を抱いていた。


「忘れ…ました…」

とても小さな声で質問に答えた店員に、

リックは「何?」そう問いただすと

「手を洗うの…を…忘れました…」

リックは目を閉じながら、何度か頷いた。

「そうだよな?君は忘れたんだ。

            とても大事な事を忘れてしまったんだ」

店員は、今この場から一秒でも早く離れたい。

そんな表情を浮かべる。


するとリックは、また店員に質問をした。

「俺の注文は、なんだっけ?」


「ホットドックとコーヒー…です」店員は答えた。


リックは、頷きながら言った。


「そうだ。ホットドックとコーヒー。正解だ」


店員は安心したのか、ホッとした表情を見せる。


するとリックは、先程とは打って変わって苛々した感情を見せた。


「何か…大事な事を忘れてはいないか?

             あっ、これはとても大事な事だぞ?」


店員は、とても困った顔をしながら心の中で思った。

「トイレで用が済んで…手は洗った。

   注文された通りにメニューは、今こうして目の前にある…」

店員は若干、下向きになっている。


その姿を見たリックは、少し怒鳴り気味で言った。


「俺は…チリ…ビーンズが…嫌いなんだよ」


「やってしまった、、、、、」

そう思った店員は、少しでもリックとの距離をあけようとするが、背中が壁にあたっている。


「俺は…チリビーンズを抜いてくれ…そう、お願いしたよな?」


店員は、顔を横に何度も振る。


「あぁ…俺は頭にきたぞ?」


リックのその言葉を耳にした店員は、両手で頭を抱え言った。


「ノー!」店員は、大声で叫んだ。


リックは物凄い表情で店員を睨みつけ、

今にもカウンターを乗り越え、

店員を殴りつけようとするような様子。


「思い出したか、コノ野郎!

   さっさとチリビーンズ抜きのホットドックを持ってこい!」


そう言いながらリックは、ホットドックに入っているチリビーンズを一つ摘み、店員に向って投げつけようとする素振りをみせる。


店員は急いで厨房へと駆け込み、チリビーンズ抜きのホットドックを用意しようと必死になっていた。


「まったく。なんてヤツだ!」


怒りをあらわにするリックは、

コップを手に取りコーヒーを口にした。

そしてリックは、ふと、ある異変に気付いた。


店内に入った時、

カウンターには一番端の席に荷物があり、人は居なかった。


だが、トイレから戻りカウンターには、五人の人物が居た。


リックは、何か気配を感じた。    


「…今、カウンターには俺を含め…六人の筈。…一人…多い…」


リックは横目で右隣を見ると…

帽子をかぶった男がリックの真隣に座っていた。


リックは若干、背筋を伸ばした。


そしてゆっくりと、右隣の男の容姿を見る。


右隣の男の手には…《懐中時計》がある。


リックは思わず息を飲んだ。


「グリーンピースは好きだが…

           私もチリビーンズが、どうも苦手でね?

               その気持ち、良く分かりますよ」


そう言った右隣の男は、ゆっくりとリックの方に顔を向けた。


リックも、顔を右隣の男の方へと向けた。


そして、二人は顔を合わせた。


「初めまして。いや、本来は二度目なのですがね」

右隣の男が言った。


「お待ちしていました」

リックは、物凄い警戒をしている様子。


何故ならば、気配を全く消し、自分の隣に突然座っていたからだ。っというよりリックは、あの日の夜の出来事と同じ様に、

気配を消し一瞬にして姿を消した時の事を思い返していた。

だが、今度は気配を消しながらも姿を突然現したからである。


「リック…さん、で良いのですよね?」

右隣の男は、とても丁寧な口調であった。


「はい。ですが、こちらはまだ名前を伺っていませんが?」

リックの言葉に答える右隣の男。


「そうですね。私はシルエットと言います」

リックは、一体どうして自分に接触してきたのか?

っという理由が物凄く気になっていた。


「初めまして」握手を交わす2人。


「初めてお会いした、あの日の夜

 こちらからは貴方を確認出来ました。  

 でも、貴方からは私を確認する事は出来なかった。

 暗がりでも月明かりによって、影くらいは見えましたか?」


そう尋ねると、リックは答えた。


「確かに、その通りです。影は見えました。

                   あと、その懐中時計も」


リックは、懐中時計を見る。


シルエットは、懐中時計をカウンターの上に、そっと置いた。


「ではシルエットさん、お話の方ですが…」

シルエットはリックの会話を切る様に、言った。


「例の件について、ここでお話するのはちょっと…」


そう言いながらシルエットはFBIバッチを周囲には隠すように、

リックに一瞬だけ見せる。

それを見たリックは、溜め息と共に肩を下に下ろす。


「なんだよ。一体どういうつもりだ?」

シルエットがFBIだと知り、リックは態度を変えた。


シルエットは、丁寧な対応でリックに話を続けた。


「例の件。是非とも貴方の力をお借りしたい」


リックは煙草に火を付け、少し背中を向けながら話を続けている。


「俺に一体、何をしろと?」


シルエットは、周りを気にしながらリックに言った。


「ここではなく、場所を変えて話を」


席を立とうとするシルエットに対し、リックが言った。


「おいおい。俺の注文がまだ届いていない」


「時間が無い」っといった様なシルエットの行動に対し、

リックは、苛々とした態度をみせる。


「俺の注文は、まだか?」


大きな声で店員に怒鳴りつけるリックは、更に続けて。


「お前が忘れるからだぞ!コノ野郎!」


リックはカウンターの上に落ちていたチリビーンズを、

さっきと同じ店員に向って投げつけようとする素振りをみせる。


その様子を見ていたシルエットは、

やれやれと言った表情で顔を横に振った。

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