第4話 戦闘訓練
「ただいま」
「おかえり」
帰宅すると、出迎えてくれたのは母親だ。いつも通りのようだが、少し怒っているようにも見える。
「どうしたの、母ちゃん」
「あんなに大きなものが届くなら、事前に言いなさい」
「大きなもの?」
「業者さんに入れてもらうの、大変だったんだからね!」
「あ! 【
(もう届いたのか!?)
「部屋に入れてもらったけど、他に何も置けなくなったわよ?」
「ありがとう!」
「ちゃんと勉強もするのよ!」
「わかってるよ!」
母親の声を背に受けながら、俺は階段を駆け上がった。勢いよく自分の部屋のドアを開ければ、そこに鎮座する巨大な黒い箱。
「これが、【
俺のベッドと同じくらいの大きさだが、高さは腰くらいまである。見た目が棺桶に似ているため、『死の
「ネットに書いてあった通り。つまり、本物だ!」
──ピロン。
その時、ポケットの中のスマホがメッセージの着信を告げた。
「ん? 【チームR】のグループチャットか」
──ピロンピロンピロンピロン!
「おわわわわ」
スマホを開くまでの間にも、通知音が鳴り続ける。
「みんな【
4人の仲間たち全員、【
=====
【
【リボンナイト】:私も!
【
【リボンナイト】:でかいよwwwww
【
【リボンナイト】:wwwwwwwwww
【
【
【リボンナイト】:アホだwwwwwwwwww
【
【
=====
「ははは。みんなテンション高いな」
俺も部屋に入って荷物を置く。着替えは後でいいだろう。
【
「俺も届いた、っと」
グループチャットに投稿すると、すぐに反応が返ってきた。
「俺の部屋も足の踏み場なくなった、っと」
──ピロン。
新たに届いたメッセージを確認すると、思いもしなかった一文が。
「え? すぐに使えないの?」
=====
【
【リボンナイト】:3日後か。もったいぶるねぇ。
【
【リボンナイト】:おお!
【
【リボンナイト】:いえーい!
【
【蘭丸】:もちろん帰宅部です。
【
【
【リボンナイト】:賛成!
【蘭丸】:了解
【
=====
「三日後か」
それまでお預けというのは寂しい気もするが、それまで楽しみをとっておくのも、乙なものだろう。
「俺も楽しみです、っと」
最後のメッセージを送って、スマホを閉じた。
(……予習と課題、やっとこう)
今週末は、どっぷり潜ることになるのだから。
* * *
翌日の学校は地獄だった。午前中は『
「おらおらおら! さっさと走れぇ!」
授業を担当する安田特殊教官は、リアル鬼教官だから。今日の訓練は、まずハイポートから。小銃を抱えてグラウンドを10周だ。
「なんで、リアルでこんな訓練すんだよ……!」
俺の隣を走るクラスメイトがボヤいた。
「聞こえるぞ」
小声で注意するが、俺の声は聞こえないらしい。
「だいたい、兵役は65歳以上だけじゃん。俺ら、関係ないのに」
「おい、やめろって」
「そこぉ! しっかり走らんか!」
安田特殊教官の怒声が飛んでくる。耳がビリビリとするほどの声量に思わず身が竦んでいるうちに、特殊教官がこちらに来た。
「足を止めるな! ヴァーチャルで強い兵士はリアルでも強い! そんな当たり前のことが、なぜわからんのだ!」
──バキッ!
ボヤいていたクラスメイトが殴られた。
「すみません!」
「お前もだ!」
──バキィ!
俺も殴られた。サボったら殴られる。それを思い出したクラスメイト達が、一気に足を速めた。
「お前らも65歳になったら国のために戦うんだ! それまで、鍛えられるだけ鍛えておけ! 四の五の言わずに、走れぇ!」
ハイポートの後は、実銃を使った訓練だ。
「遅い! 撃たなきゃ死ぬのはお前だ! 何度言ったら分かる!」
──バキィ!
もたついていたクラスメイトが殴られた。
「すみません!」
「リロードしたら、とっとと撃て!」
「はい!」
「馬鹿野郎! 弾を無駄にするな! 弾数を計算しろ! 次!」
続いて、俺も的の前に立つ。
──タン! タン! タン!
全弾命中。ゲームと一緒でコツさえつかめば、そんなに難しくない。教官の言う通り、ヴァーチャルで強いやつはリアルでも強いのだ。
「よし、いいぞ森!」
安田特殊教官が、俺の肩を叩いてニヤリと笑う。
「今期も、お前がトップか?」
「どうでしょう?」
曖昧に笑った俺だったが、あまり悪い気はしない。戦闘訓練の成績は、俺が学年トップだ。
(まあ、世界一のパーティーの一員だしな)
「ははは!」
声を上げて笑う教官の様子に、他のクラスメイトが安堵の息を吐いている。
(優秀な生徒がいたら、とりあえず機嫌がいいからな)
この授業で、俺が手を抜かない最大の理由だ。
「お前、ゲームでも銃を使っているのか?」
「いいえ。俺は『剣士』です」
「銃も使ったらどうだ?」
「【
「そうなのか?」
「はい。剣と魔法の世界ですから」
「ははは! やっぱり、子どものお遊びだな!」
「ははは。そうですね」
乾いた笑いで答えると、ふたたび安田特殊教官が俺の肩を叩いた。
「励めよ」
さっきまで笑っていた教官だったが、今は違う。鋭い目で俺を見つめているその迫力に一瞬たじろぐが、それも一瞬のことだった。すぐに笑顔になってぽんぽんと肩を叩かれた。
「よし! 次だ!」
次の生徒に交代すると、安田特殊教官は再び鬼の形相に。
「敵の戦力を削るなら足だ。特に膝か足首! 一発で当てられる自信のある者だけ、頭を狙え!」
「はい!」
返事をしたクラスメイトだったが、撃った弾は大きく的を外れた。
「馬鹿野郎!」
──バキッ!
鬼教官の雄叫びと人の頬を打つ音が、訓練場に鳴り響いた。
* * *
「女子も終わったのか」
訓練を終えて重たい足を引きずりながら教室に戻ると、ドアのすぐ前で栄藤とかちあった。さすがに、これで声をかけないのは不自然だろう。思い切って、声をかける。
「うん」
思いのほか、普通に返事が返ってきた。
「どうだった?」
「別に」
「別にって」
「ゲームと一緒でしょ」
栄藤は答えながらも教室に入っていった。席は隣同士だから、そのまま後ろをついていく。自然だ。実に自然な流れだ。
「栄藤もやんの?」
「私だってゲームくらいするよ」
(すごい、俺、栄藤と会話できてる……!?)
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