4-2 お揃い
「今日のユメの恰好って、結構ラフだよねー」
「まぁ、私はおしゃれには無頓着だからね。本当はこっちの方が落ち着くんだよ」
言いながら、侑芽夏はロングTシャツの裾を引っ張る。
ショートパンツがギリギリ隠れてワンピースに見えなくもないが、ショートパンツがなければまず着られないだろう。衣装では大丈夫だが、ミニスカートは基本苦手なのだ。
「それで、何でユメは人の脚をじろじろ見てるの?」
「いや、健康的な脚だなぁって思って」
「え、急に変態が現れたんだけど。てかユメも人のこと言えないからね?」
「いやいやいや。私はほら、履いてるし」
「めくるな馬鹿っ」
裾をまくってショートパンツアピールをしようとするも、すぐさま水琴に怒られてしまった。ファンの前ならともかく、今は水琴の前だ。別に気にすることないのに、と侑芽夏は思ってしまう。
「全然反省してない顔してるんだけど大丈夫……? ユニットの相方として心配なんだけど」
「まぁまぁ。そんなことより、今の私に似合う帽子って言ったら……やっぱり、キャップなのかなぁ」
未だに渋い顔をしている水琴を横目で見ながら、侑芽夏は適当に白地のキャップを手に取り、被ってみせる。
すると、水琴の顔がますます苦いものへと変わってしまった。
「……うん、まぁ、似合わないよね」
「だいたい、ユメってお嬢様って感じの容姿してるもんね」
「えっ、そうなの?」
「……そこは自覚しようよ……」
ついには遠い目をしてしまう水琴。
侑芽夏の髪は水琴よりも長く、亜麻色でゆるくパーマをかけている。ぱっつんの前髪に、顎辺りで揃えられたサイドの髪――所謂姫カットなのも、侑芽夏の特徴なのかも知れない。
「ユメっていっつもTシャツにジーンズじゃん? 映像の仕事じゃない時」
「……うん、その方が楽だし。でもたまにはスカートも履くよ?」
「そのたまにあるスカートにあたしがどれだけときめいてるのかわかってるの?」
「ぅえっ?」
唐突の告白に自分の顔が赤くなるのを感じる。
そういえば、茜と和喫茶に行った時のサロペットスカートも割と評判が良いような気がした。
「ユメってふんわりとしたスカートとかすっごく似合うと思う。今日は目立っちゃ駄目だからそれで良いけど、あとであたしが選んであげるから」
「あ、ありがとう」
「……とっ、とりあえず帽子はこれで良いと思うから」
侑芽夏の恥ずかしさが伝染したのか、水琴はそそくさと帽子を選び、侑芽夏に手渡してくる。
それは、水琴が被っているものとよく似た、ライトグレーのキャスケットだった。
「これ、何かお揃い……」
「は? そんなんじゃないし」
「…………」
「とにかくこれで少しは顔バレ防止になるんだから、さっさと行くよ。そろそろお腹空いてきたし、中華街に行かなきゃ」
大袈裟に腹部を押さえながら言い放つ水琴。
頬はほんのりと朱色に染まっている。思わずじーっと見つめてしまうと、刺々しい瞳をギロリと向けてきた。
「ほら、買うの? 買わないの?」
「もう、買うってば。キミとお揃いなの、嬉しいし」
「……良いから早く」
「わかったわかった」
やっぱりお揃いなのは嫌だから買わなくて良い、とは言わないところを見ると、別にお揃いが嫌な訳ではないのだろう。
むしろ、お揃いにしたかったのかも知れない。
「あー。やっぱりユメと一緒だと調子狂うわー」
「今のは単に墓穴を掘っただけなんじゃ」
「あぁ?」
「キミ、キミ。その顔は絶対にファンの前でしちゃ駄目だからね?」
わかってるってばー、と言う水琴の目が死んでいる。
なのに頬は赤いままというシュールな表情に、侑芽夏はひっそりと微笑ましい気持ちに包まれるのであった。
***
その後は中華街へと向かい、あんかけ焼きそばが有名な中華料理店で昼食をとる。結構ボリュームもあったはずなのにぺろりと平らげた侑芽夏達は、そのままぶらぶらと中華街を歩き回った。
旅行中の胃袋というのは恐ろしいもので、昼食で満足したばかりだと言うのに「あれも食べたい」「これも食べたい」と目移りしてしまう。
結局、小さめの中華まんやごま団子、エッグタルトに杏仁ソフトクリーム、最後にはタピオカミルクティーまで満喫してしまった。
「ねぇ。来週あたし達人前に立つんだよね……?」
しっかりとタピオカミルクティーを飲み干してから、水琴が我に返ったように呟く。
「……ほ、ほら。せっかくマネージャーさんが提案してくれた訳だし。ここは目一杯楽しまなきゃって……ね?」
「いやでも限度ってものが」
「…………」
必死に言い訳をする侑芽夏だったが、水琴は完全に現実モードへと移行してしまったようだ。数時間前にも見たような死んだ目をしていて、侑芽夏は絶句する。
「つ、次! 次は
「……っ!」
侑芽夏の思い付きに、水琴も納得してくれたのだろう。
胡桃色の瞳をまるまると見開いたと思ったら、コクコクと激しく頷いてくれた。
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