第10話「やってしまった…という話」

友人の乗るHONDA VTR250は2013年に製造されたバイクでアチコチにガタ……というかパーツの劣化が目立つ。言いたくはないが買ったバイク屋がいい加減な店だったのかもしれない。


その代わりに驚くほど安く手に入れており、僕が想像する金額の2/3で購入しているので、悪い買い物ではないような気もする。だが、結局は部品交換やら何やらでかかった金額を上乗せすると、僕の想像する金額をぐらいにはなってる。購入から二ヶ月目でね。

初心者ライダーさんがバイクを買うなら、悪い事は言わないので直営店舗とか、大手の中古バイク屋さんで買ったほうがいいと思う。

事故ったら死に直結するので、本当にバイクはケチっては駄目。よほど最初から整備の腕があるなら話は別ではあるが……。

そんな愚痴をグチグチ言いながら、今日も友人のバイクをいじりまわしている。


「ホーンが鳴らなくなるって、どんな症状よ?」


「師匠、なんか本当にすみません……」


 * * *


友人はバイク初心者で免許を取って日が浅いということもあり、もちろん整備の仕方もその為の道具も持っていない。と言うか「まさか」とは思ったが、ガソリンエンジンの仕組みから説明せねばならないレベルであった。

自動車学校では教えないんだっけ? 記憶は曖昧。

仕事帰りに我が家に立ち寄ってくれるので、そのたびに図に書いてバイクの仕組みやらを説明しながら整備している。

そして、友人のVTRを整備しては自分が乗っている最新型のアレと比較してため息が出てしまう。


何というか……


〈昔のバイクは作りが丁寧だ。〉


最近のバイクは工業製品っぽいが、昔のバイクは芸術品的な印象を受ける。

これは想像なんだが塗装なんかも手塗りなんじゃないだろうか?


そして10年以上前のエンジンかつ、こんなに雑なメンテナンスしか受けていないはずなのに元気がいい。


「水冷4サイクルDOHC4バルブV型2気筒、つまりVツインエンジン……」


搭載されているVツインエンジンは、それほどのスピードは出ないであろう。

しかしながら、今のバイクには無い「ドドド…」という低音で不規則なエンジンの振動……言い換えるならば”独特なエンジンの鼓動”が、この鉄の馬バイクに生命を感じさせてくれる。

アクセルを回した時の音は高音が目立ち、それこそ馬の嘶きのようである。

今まさに走り出さんとしているのに攻撃的な印象は受けず、気品さを感じられる。


「なんだ、この凄えバイクは……」


こんなのが存在してたんだなあ。いや、存在は知ってたんだけど見事にスルーしてたんだよな。

まさか、この歳になって知ることになるとはなあ……

これだからバイクは奥深い。


 * * *


「という訳で、君のVTR250と色も年式も同じモノを買ったわけだけど……

 色々と細かい事は気にしないように」


つい1ヶ月前に僕のVTR250を照れながらお披露目したのだが、友人は大爆笑。


「そこまでします?! そんなに、このバイクが気に入ってたんですか?!」


「うるせえ!

 こんだけ毎日のようにメンテナンスしてたら愛着も湧くし、欲しくもなろうよ!」


そういった訳で、ここ最近は鏡写しのように同じバイクで、同じような格好して走っているので目立って仕方ない。


「父娘ライダーですか? お父さんとお揃いでいいですね!」


とかツーリング先の見知らぬライダーさんによく言われるけど……


ごめんよ。親子じゃなくて、友人同士なんだわ。

それに真似したのは僕の方ね。

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日常と非日常の間 名島照葉 @Hrkw3106

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