第9話「除霊できた話」

オバケが見えるけど、除霊とか無理……ではあるけど、一回だけ何とかできた事はある。


 * * *


大学一年前期。

よく分からないまま空きコマをほぼ作らない感じで授業を選択しまくったせいで、時間的にはもちろん、精神的にも余裕がない状況だった。

そして期末試験シーズンになるとストレスは最高潮。ほぼ全ての授業において期末試験が用意されていた。

それでも専門科目は、まだ難易度が大した事もなかったのだけど、厄介なのが一般教養。

特に第二外国語で選んだドイツ語。お前だけは許さん。ストレスで帯状疱疹ができたレベルで難しい……いや、難しいなんてもんじゃない。訳がわからん。正直、先生の教え方も問題があった。


「なんだ、あの投げやりな教え方と、投げっぱなしジャーマンスープレックスみたいな教科書は!ドイツ語だけに、ジャーマンかよ!受けてる側はちっとも面白くないよ!」


そんな感じでイライラしながら深夜に部屋でテスト勉強をしていた。

すると、急に耳鳴りと人の気配を感じ、思わず部屋を見回す。


『見えないけど誰かいるな』


部屋の南側に机を置いていたのだが、その反対側の壁、ベッドのある側の何もない壁に気配を感じる。目を凝らすとモヤのようなモノも見えるが……正直、それどころじゃないのでドイツ語の問題集に視線を戻した瞬間


ばんっ!!


と壁を掌で叩くイメージが脳裏に浮かび、同時に叩かれた音を知覚した。


「……」


さすがに……腹が立った。

子供の頃から両親に『腹が立っても物に当たってはいけません』と言われて育ってきた。

それもあるが、いま僕は、イラつくドイツ語を、イライラしながら勉強しているのと、どう考えても切羽詰まってる状況なのは、一目瞭然だろう。


壁を掌で叩くイメージが脳裏に浮かんだ時に、何やら悲しいとか気づいて欲しいとか寂しいとかいう『負の感情』が弾けるのも感じはした……が、それを僕に向ける、だと?


「あ゛あ゛?」


ひょっとしてワタクシめに喧嘩をお売りになられていますのことですか?という気持ちをドスの効いた声に込めて壁の方に投げかけると、まるで打ち寄せた波が引くような勢いで『何か』は消えていった。


チッ!


思わず舌打ちして勉強に戻る。


 * * *


ドイツ語の試験は……最悪だった。

女子のひとりが「こんなの分かる訳ないじゃない!」と試験中に叫んで教室を出ていった時には、教室にいた全員が心の中で拍手喝采していたと思う。


僕はというと本気で分からなかったんで、解答欄全てに──


Deutsch macht Spaß.

《ドイツ語は楽しい》


と書いて、下手くそな「黒猫」と「ビール」と「ソーセージ」の絵を答案用紙の裏に添えて提出した。


結果は何故か【可】判定(いちおう合格という意味)。


これでいいのか?


 * * *


結論として、オバケには本気で怒りをぶつければ除霊は可能なようだ。


それと、ユーモアは身を助けるという話。

ただし、使い所は難しいようだ。

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