第8話「下心と血の話」

 初対面の人と話をする時によく出る話題で「趣味は何ですか?」というのがあると思う。

 この質問をする分にはいいんだけど、されると非常に困る。

インドアもアウトドアも好きで、かといって極めてもいないし、極める気もないし。


……言い換えれば「広くて浅い」という感じか。


 イメージ的には、深さ128ミリ、広さ65,535平方メートルぐらいの勢い。

朝に美大生の友達とディック・ブルーナ先生のナインチェの話をしながら落書きを楽しみ、サークル棟に戻ってペンネ・アラビアータを作って後輩たちに食べさせ、午後から中庭で体育会系の友達とプロレス技を掛け合って大笑いし、帰り道にPCジャンクパーツを買いに行って、夜遅くなったら馴染みのバーに行ってマスターに預けていたイーディ・ゴーメのCDを流してもらい酒を飲みながら音楽鑑賞、深夜に酔ってふらつく足で家に帰って某DVDを観ながら「あぁ^~心がぴょんぴょんするんじゃぁ^~」とか言って当時に同棲していた彼女にドン引きされるという多趣味さ。(なお、そのDVD自体は彼女の兄から借りた物なのだが……)


 * * *


 とりあえず、公称できる無難な趣味として「旅行」「バイク」「キャンプ」「美術」「武道」があるのだが、他にも「献血」が趣味であったりする。献血はインターバルが決められており、通常の献血(血を単に抜かれるだけの献血)だと、200mlで4週間を開けねばならず、400mlで12週間を開けなくてはならない。(調べてみたところ女性の場合は16週間のインターバルが必要らしい。)

ところが成分献血だと2週間で復活し、献血が可能になる。成分献血では抜き取った血液から血漿成分や血小板を分離して、残された体液(赤血球など)は体内に戻される。

かかる時間は個人差あるがだいたい1時間前後。僕はこれを定期的にやっている。

 献血をやっている理由は、正直に言うと、高校生の時にとある看護師さんに一目惚れしたのが理由。インターバルを計算し、最短で献血に行き、ひたすらお目当ての看護師さんと雑談をしていた。さすが男子高校生。下心全開である。

気がつけば、献血回数が10回、20回、30回……と増えていく。


「楽しいなあ……」


なんて思っていたのも束の間で、いつの間にかその看護師さんはいなくなっていた。たしか僕が大学に入ったぐらいだったか?


『いつか会えるかも?』


そんな事を漠然と思いながら献血を続けていた。

もっとも、その間に何人も彼女はいたので、そこまで固執していたわけでもなく、惰性で献血を続けていた感じか。

 気がつけば両腕が注射痕だらけで、警察に職質されたら何か言われるんじゃないかと心配するレベル。100回を超えたあたりから数えるのを止めたので、もう今が何回目の献血なのかが分からない。もちろん献血カードを見たら正確な数字も分かろうものだが、興味がない。興味が無い事は視界にも記憶にも残らない。


 * * *


 それよりも気になるのは、僕の血(血漿や血小板)が世に出回っているという事。ちなみに、ありふれた血液型である。どれほどの人の体内に、僕の血なりが入っていったのか。

僕はオバケが見えるが、弟も妹も見える側にいる。また、亡き母方の祖母が残した記録を読んだことがあるのだが、どうやら先祖代々から「そう」だったらしい。もっとも母は見えていないので必ずしも遺伝するわけでもなさそうだが……


考えてみよう。

この能力なり欠陥なりが僕らの血に宿っていたとしたら?

それが誰かに移植されたら何が起こる?


……それはそれで面白い。


まあ、運が良ければ「趣味が増える」という程度で済むだろうけれど。

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