2.ひしゃげて曲がった自転車と出会いの話
~ひしゃげて曲がった自転車~
「レオー!」
「恵美さんそれなんですか?」
「みりゃ分かるでしょ。自転車!」
「タイヤ曲がってるじゃないですか。」
ひしゃげて曲がった自転車を押す恵美さんを一瞥すると先ほどまで読んでいた少年漫画に目を戻した。
それを見た恵美さんはぷくぅ~と頬を膨らませてその少年漫画を取り上げる。
「またSFじゃん?昨日も同じの読んでなかった?」
「昨日のは異世界ファンタジーです。それより返してください。」
「べーだ。一緒に遊んでくれなきゃ返さない。」
とことん子どもぽく舌をだす恵美さんにため息をつきながらも折れたレオはしぶしぶ了承。
「分かりましたよ。」
「やったー!。」
本当に子供っぽいともう一度ため息を零した。
過去に戻りたいと言う者は少なからずいるだろう。
あの時をやり直したいだとか、あの人を救いたいとか、理由は様々だろうけど。
少なくとも恵美さんは...
「きゃっほー!」
「ウギャァーーー」
自転車は曲がったタイヤにそって進んでどすんと倒れる。
俺らは左側に思いっきり倒れた。
「ははははっ!!!もう一回やろ!」
「やらない。」
無邪気な子供時代に戻りたいのだろう。
そう思うようになったのは出会ってからの彼女の変化だった。
「ちぇー。ケチ。」
「危ない遊びは禁止です。大人しくしてください。」
子どものようにしょんぼりする恵美さん。
ついこないだまではこんな感じではなかった。
~出会いの話~
「誰?」
家の近くにある海には高い崖がある。
普通はその崖を歩くのは禁止であり、放課後のような時間帯だと注意を受けることもあるが日中はここらを通る人影が無い為にこのルールは緩くなる。
手首を掴まれて驚く彼女の声は震えていた。
「自殺しようとしていました?」
「まさかぁ。こんな低いところからあんな深い海に飛び込んだところで死なないわよ。」
いや、これ死ぬだろ。
と心の中で突っ込んでいると彼女は崖に座って言う。
「どうしてここへ?」
背が高くクールな印象を受ける彼女はこの頃は全く子どもっぽさを感じさせない。
「君こそどうして?」
「はぐらかさないの。」
と言って槍のように真っ直ぐ目線を受けたので恐怖を感じた。
「クラスになじめなくなって学校サボって来た。」
「そ。」
「えっと...」
「私は恵美。何もかもがどうでも良くなって学校飛び出してきっちゃった。」
「そっか。」
それ以上は何も言えなくて沈黙が流れる。
沈黙を破ったのは恵美さんの方だった。
「ねぇ。」
恵美さんの疑問の意味は分からなかったけれど、その疑問にはまるで空気しかはいっていない風船のように感じた。
「何を好きになって、何を嫌いになれば私は報われるの?」
この言葉を聞いた時が、一番迷子の子どものようだった。
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