4.負けたくないのか乗り越えたいのか
「準ちゃんをいじめないで!」
おれたちの様子を見ていた(つまり宿題に集中していない)静が、プンプンと乗り込んできた。
「おしず……」
「あーあ、うるさが来た」
「し・ず・か!」
愛すべきおしずが来たからか、表情が曇っていた準ちゃんが少し明るくなった。怒った静は準ちゃんに捕獲され、また二人のイチャイチャが始まる。
「はっはっはっ」
おれのこういうところは、本当に笑うしかない。このひねくれた性質を、見事に受け継いでしまっているのだから。
受け継いだといえば、こんなことが結構ある。
「カズってA型?」
これは昔から、よく言われている。血液型の話題となれば、おれはA型と予想されることが多い。
「違うよ。B」
「あ、そうなんだ! Bかぁ~。何か意外」
マイナスなイメージが強いB型が意外だと言われると、何だか悪い気がしない。まあ、何でもかんでも血液型で決まるわけではないが。それでも、あれだけ色々な説があれば楽しんでしまう人間はいる。
占いとかって、どうしてこう魅力的なんだろう。目に見えない不確かなものなのに、なぜか気になってしまう。言霊も然り。
だから、おれは毎日あの言葉を唱えている。
「おれ、Aっぽい?」
「うん」
「何で?」
「しっかり者だから。家事全般できるし、妹の面倒を見ているし……。あ、妹は何型?」
「A。ちなみに、父ちゃんはOだよ」
「えっ……」
ここで和やかだった空気が、ガラリと変わる。おれと初めて血液型の話をする者は、みんな同じく「やっちゃった」。
「ああ大丈夫。一緒に住んではいないけど、おれらを産んだのはAB型」
「……」
追い撃ち……もとい、おれの補足で下を向く。はい、お決まりのパターン。
「あー、気にしないで。とりあえず今は、あのときよりは平和だから」
「……ごめん……」
「まあまあ。はっはっはっ」
おれの笑い声が、ひんやりとした空間に響く。笑っているのは、一人だけ。もちろん悪いのは、おれ。この出来事を、おもしろがっているからだ。もう静の血液型を聞かれた時点で「よしきた」と内心ニヤニヤしていた。わざわざ聞かれていない父ちゃんの血液型まで知らせている。ああ、おれは悪い奴だ。B型だけでなく、そういうところも受け継いでいる。
「そういえば準ちゃん、O型だよね?」
「えっ、急にどうしたの?」
うるさを追いやって原稿と格闘している中で、おれは準ちゃんに話を振った。
「いや、ふと血液型のことが気になったから聞いただけ」
「ふーん……。うん。Oだよ」
「じいちゃんも、O型だよね?」
「ああ、そうだけど……」
「で、ばあちゃんはAOでA型」
「……うん」
「静と同じ」
「……カズ、どうしたの?」
「え、何が?」
また準ちゃんの手が止まった。まあ、おれが悪い。準ちゃんは不安そうに、おれのことを見ている。
「機嫌悪い?」
「いや通常運転だよ。いつもこうでしょ?」
これが通常運転だなんて笑える。というか、この空気を察して再び静が来るかも……。そう思ってチラッと静がいる場所を見ると、もう宿題に集中していた。準ちゃんも、おれが言葉を返すと仕事に戻った。
あーあ、せめてA型になりたかったな。
どうにもならないことなのに、そう思ってしまう。その淋しさを誤魔化すようにと、てめえでブラックジョークへと変化させ、それを振り撒く。そして周りの「しまった」を見ては楽しむ。
負けたくないのか乗り越えたくないのか。こういうスタイルを自ら選んでしまった自分が、一位タイで滑稽だろう。同率は奴だ。
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