2.叔父に呼ばれた
「わーい。準ちゃん家だ、準ちゃん家だ♪」
ご機嫌な様子で歩いている静。おれたち兄妹は準ちゃんの家に行くことになった。もちろん静には夏休みの宿題を持たせ、そこでやらせるつもりだ。
「静、準ちゃんは仕事中だよ。静も連れてこいって言われたけど、遊ぶことはできないからな。おれも準ちゃんを手伝わなきゃならないし」
「えー」
「静は宿題があるだろ。大人しく進めとけ。おれ、ちゃんと合間に見るから」
「……ぶうぅ……」
「おい、お前は豚じゃなくて人間だよ」
不満そうな静を軽く流す。おれの返しを聞いた静はツーンとして歩いているが、あっという間に表情は変わった。
「えへへ、準ちゃん準ちゃん♪」
準ちゃんは実家から徒歩数秒のアパートに住んでいる。元々は実家暮らしだったが、自分の生活リズムで家族に迷惑をかけたくないという考えから、一人暮らしを決めたのだ。
静は準ちゃんが済む部屋のドアを目の前にしてニコニコ。やれやれ……と心で呟きながら、おれは到着を準ちゃんに知らせた。
ピンポーン♪
「はいはーい♪」
電話のときとは違って、明るい声が聞こえてきた。そして扉は開かれる。
「来たよ」
「いやー、ありがとうカズ! 助かる!」
「準ちゃあ~ん」
「あらあら、おしずぅ~」
暑い外での熱い抱擁。おれはもう見慣れているが、初めて見る人はビビる可能性大のワンシーン。
「準ちゃん、通報される前に部屋に入ろう」
「ひどいなぁ~、カズは。ねー、おしず♪」
「ねー♪」
ベタベタなおじちゃんと子どもは、おれと共に渋々部屋に入った。入室前に周りを確かめると、おれたちの他には外に誰もいなくてホッとした。
昔、こんなことがあった。
「その子を連れて、何をするつもりだ」
……ん?
ある日の学校帰り、おれは家の近くで低くて鋭い声を聞いてビクッとした。まだ何も見えていないが、嫌な予感はする。
あの言葉、警察っぽいな……。
近所で事件?
……まさか!
おれの家で、また何かあったのかもしれない。とうとう警察が来てしまった。
……ホンジツモヘイワナリ!
ホンジツモヘイワナリ!
心の中で唱えながら走った。
みんな、どうか無事でいてくれ。
嫌だ嫌だ。
もう、おれたちと金輪際関わるな!
「はあっ……はあっ……は?」
向かったその先には、見慣れた光景withお巡りさん。おれは少し離れたところで、その様子を見る。
「い、いや……ボクは何も……」
「白状しなさい。良からぬことを企んでいるのだろう」
「ち、違いますよぉ~……ねえ?」
「うん……」
そのとき、お巡りさんの鋭い目がカッ! と開いた。さて、どうなる。
「お前っ!」
あららー、スイッチ入っちゃったか。
「汚い奴め! この子に何を言わせる!」
「うぅ、うわぁ~んっ!」
「あっ、な、泣かないで……」
「これこそ、この子の本当の気持ちだな! さあ早く、この子から離れろ!」
「……は、離れません!」
「何だと!」
「だ、だって……」
あーあー、早く言っちゃえよ。
「ボク、この子の叔父だからです!」
はい、白。
隣のおチビも、泣きながらブンブンと頭を縦に降っている。
でも、お巡りさんは……。
「なっ……、そんな見え透いた嘘を!」
「あー、すいません。それ本当なんですよ」
「……え?」
これは、もう出てくるべきだな。
そう思って、おれは三人の前に姿を現した。
「カズ……!」
「うう……お兄ちゃん……」
おれを見て安堵の表情を浮かべる身内と、ポカーンとしているお巡りさん。目の前にいるこの三人に対し、おかしみを感じて笑いそうになるというのは失礼かもしれない。
「……き、君も言わされているのでは……」
「いやいや。この人マジで、おれら兄妹の叔父なんですよ」
その後、お巡りさんはおれたちに心から謝った。比較的いかがわしい風貌で疑われた準ちゃんも、お巡りさんが怖くて泣き出した静も、おれも彼を許した。
ちなみに、あのとき二人はコンビニでアイスを買いに行くつもりだったらしい。実家に戻った準ちゃんは、かわいいかわいい静におねだりされたとのこと。
「あー、あったね。そんなこと……ところでカズ」
「何?」
軽く昔話をしてから靴を脱いでいると、準ちゃんは不思議そうな表情を見せた。
「どうしてカズは、あのときすぐに助けてくれなかったの?」
「……あー……」
今ごろ聞くの、それ。
まあ、もう時効だし吐いちゃうか。
部屋に上がると同時に、おれは答えた。
「何か、おもしろかったから」
「……はい?」
「あの珍事を、すぐ終わらせるのは惜しいなと思って」
「ひど!」
「はっはっはっ」
「わーい、準ちゃんのお家だー」
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