幕間 琴ヶ浜さん視点
第31話 ケンスケと剣介
私、琴ヶ浜恵里奈が「ケンスケ」と出会ったのは、今から三年くらい前のことだった。
当時中学一年生だった私は、両親から一匹のオスのハリネズミをプレゼントしてもらった。
お父さんもお母さんも、「恵里奈が中学生になったお祝いだよ」と言っていた。けれど、きっと友達が少なくていつも一人ぼっちだった私を思いやってのことでもあったんだと思う。
もちろん、動物好きな私は大喜びして、「ケンスケ」と名付けたそのハリネズミをとても可愛がっていた。
朝起きてから夜眠るまで、学校に行っている時間以外はずっとケンスケの世話をして、いつも一緒に遊んでいた。
ケンスケとの時間を優先するあまり、私はますます同年代の子たちから孤立するようになった。それでも、家に帰ればあの子がいると思うと、ちっとも寂しいとは思わなかった。
ケンスケがうちにやって来てからというもの、私は毎日が本当に楽しかった。
だけど……そんな楽しい時間も、あまり長くは続かなかった。
ケンスケが家に来てから二年くらいが経って、私が中学三年生になった年の春のこと。
棚上に置いてあったケージから転落したことで、ケンスケは大怪我を負ってしまい……その怪我がもとで、それから間もなく天国へと旅立ってしまった。
まるで我が子のように可愛がっていたケンスケの死を受け入れられなくて、私はショックのあまり、一時期は食事も満足に喉を通らないほどだった。
寂しくて、悲しくて……それからの私は、死んだような目で日々を過ごしていたと思う。
それでも、彼の死から一年が経った今。
高校に入学し、風紀委員会にアルバイトにと忙しい日々を送る中で、ようやく目線くらいは前を向けるようになっていた。
そんな矢先のことだった。
『違う、違うから! 別に怪しい者じゃないから!』
私の前に、鵠沼先輩が現れたのは。
(……似てる)
最初はどう見ても不審者にしか見えなかったけれど、よくよく先輩の姿を観察してみて、私は内心で静かに興奮していた。
(すごく、似てる)
ウニみたいにトゲトゲした頭といい、ふてぶてしそうな目付きといい。
あの子がもし人間として生まれていたらこんな感じだろうか、と思うくらい、先輩にはケンスケの面影があった。
しかも何の偶然か、先輩が名乗った名前は、彼とまったく同じものだったのだ。
『…………けん、すけ?』
心の傷も少しは癒え始めていたとはいえ、それでもいまだにケンスケへの未練を残していた私は、そこでふと考えた。
考えてしまった。
(あの子が……ケンスケが、生まれ変わって私に会いに来てくれたのかもしれない!)
だから、ついつい先輩に対しては異常に過保護になったり、お腹を空かせていたら何か食べさせてあげたくなったり、やたら構ってあげたくなったりしてしまう。
「ケンスケ」との楽しかったあの日々を、もう一度──と。
そう、手を伸ばさずにはいられなかったのだ。
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