第27話 愛らしいのはお前だよ!
そんなこんなで始まった、琴ヶ浜プロによる動物園巡り。
「ほら、先輩。あそこです」
そう言って彼女が指差した先にあったのは、例の「お食事タイム」とやらが行われるうちの一つ、ミナミコアリクイのケージだった。
ガラスで囲まれたケージの周りには、すでにそこそこの数の客が集まっている。
「ちょうど『お食事タイム』が始まっているみたいですね。これ以上お客さんが集まってくる前に、最前列を確保しておきましょう。さぁ、先輩もキビキビ動いてください」
「い、イエッサー!」
やけに張り切っている琴ヶ浜に急かされるようにして、俺は人混みの中を突き進む。
琴ヶ浜のやつ、めちゃくちゃテンション高いなぁ。
あいつがあんなにウキウキしているところなんか初めて見たよ。よっぽど動物園に来るのが楽しみだったんだな。
「先輩、こっちです。ここからならよく見えますよ」
「はいはい、ただいま~」
気付けば、早くも場所を確保した琴ヶ浜が「こっちこっち」と手招きしていた。
さすがはプロ。場所取り一つとっても仕事が早い。
「おお、本当だ。よく見えるな。え~と、『ミナミコアリクイ』……つまり、こいつはアリクイの一種ってことか?」
「はい。あの細長いお口がとても愛らしいですよね。主食であるアリやシロアリの塚の穴に顔を入れやすくするように、ああした形になっているんです。野生の個体が一日に食べるアリの数は、実に数万匹とも言われているそうですよ」
立て板に水のごとく、琴ヶ浜がスラスラと解説を述べる。
「そんなに食うのか? やるな、アリクイ」
「ええ。先輩と同じで、かなりの食いしん坊さんですね?」
「いやいやいや、俺のことどんだけ大食らいだと思ってるんだよ」
珍しく冗談めかした口調で、琴ヶ浜が悪戯っぽく笑ってみせる。
う~ん、はしゃいでるなぁ。まぁ可愛いからいいけど。
「ただ、動物園で飼育されている子たちには、アリの代わりに犬用の缶詰や冷凍コオロギ、ヨーグルトやアボカドなんかを与えているそうです。さすがに動物園で毎日数万匹のアリを用意するのは、難しいみたいですからね」
「へぇ、そうだったのか。詳しいんだな、琴ヶ浜は」
「あっ……いえ、別に詳しいというほどでは。これくらい、普通です」
ふと我に返って気恥ずかしくなったのか、さも何でもない事のように言う琴ヶ浜。
いつかスタッフルームで暴走(?)していたときもそうだったが、なんというか、意外と感情が高ぶるとブレーキが利きにくくなるタイプだったりするのかもしれない。
「いやいや、大したもんだよ。俺なんか全然詳しくないし、今まで動物園に来ても『でかいな』とか『強そうだな』って感想しかなかったけどさ。こうして分かりやすいガイドがあると、動物園ってこんなに面白い所だったんだな。さすが、動物園のプロは違うぜ」
などと、俺は気まぐれにちょっと大げさに褒めちぎってみる。
さっきからかわれたお返しという訳でもないが。まぁ、これくらいはいいだろう。
それに、どうせいつものようにクールな調子でさらりと流されるだけだろうしな。
……なんて思っていたら。
「……まぁ」
「ん?」
「ま、まぁ? これでも人並み以上には動物園に通っていましたし? それなりに知識があるのは自負しているところですが? 先輩がそう言うなら、私にできる範囲で解説をするのもやぶさかではありませんが?」
「…………」
なんかまんざらでもなさそう~!
予想外の反応に面食らう。同時に、褒められて気を良くしたらしい琴ヶ浜の控えめなドヤ顔が、俺のハートにズキュンと来た。
な、なんだこの愛らしい生き物は。あんなわざとらしい誉め言葉で上機嫌になっちゃうとか、チョロすぎでは? この動物園の中で一番可愛いまであるぞ。
これはなかなかレアな場面を見てしまったかもしれんな……。
「では、そろそろ次に行きましょうか。まだまだ回らなきゃいけないエリアがたくさんありますからね。はぐれないように、しっかり私について来てください」
すっかりガイドさん気分の琴ヶ浜である。
(一緒に来てヨカッタ~~~!)
歩き出す彼女の背中を眺めながら、つくづくそう思う俺だった。
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