熱風が吹きつけている。僕は砂漠の中に一人たたずむ自分の夢を見た。どこを見わたしても砂しか見えない。僕には行くべき道が見つからない。ただ立ち尽くしたまま熱風が過ぎていくのを待っている。ただ夜になるのを待っている。でも、砂漠の夜はひどく寒いんだ。昼間は焼けつくように熱かった砂のうえに身を投げ出しても、砂はもうすっかり冷え切ってしまって、寒さで震えが止まらない。僕は熱にうなされる。びっしょりと汗をかいて起き上がる。夢から解放される。水道の蛇口のところに走り、コップに注いだ水を一気に飲み干す。そして僕は何も変わっていないことに気づく。そうなんだ。何も変わっていないんだよ。僕には変わることなんてできないんだ。そして変わってしまうことが恐いんだ。それなのに、変わることのできない自分のことを思うとすごく不安になる。空の星は動いていることがわからないくらいゆっくりと、僕のまわりをまわっている。

 さっき飲んだカシスソーダの香りがまだ僕の口のなかに残っている。君の香りもまだかすかに僕のなかに残っている。そう、僕はまだ君のことを忘れていない。でも、君のことを忘れてしまいそうで恐いんだ。星屑が消えてしまうように、君が僕の前ではじけてしまわないか。僕は君の残像を必死で引き寄せている。「そんなことしなくたって、あたしはあなたの前から消えたりしないよ」君の声が僕の耳に遠く響く。そうだよね。君は僕の前から消えたりしない。たとえ君が僕の前から消えたとしても、君は僕の記憶からは消え去りはしない。君の記憶はずっと僕のなかに残る。僕がこの世からなくなってしまうまで。でも、僕が消えてしまったら君はどうなるのだろう。大丈夫。消えてしまうのは僕の記憶だけで、君が消えてしまうわけじゃない。あいかわらず熱風が吹きつけている。熱風で僕は溶けてしまいそうだ。君とあの時食べたソフトクリームのように。

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