僕には君が必要なんだ。君が僕を必要としているのかはよくわからない。でも僕には君が必要なんだ。それなのに君は僕のそばにいてくれない。空が溶けてくるんだ。僕の真上から。君は多分「そんなわけないよ」と僕に言う。そう、僕は君にそう言ってほしいんだ。ただそれだけなんだ。だから僕には君が必要なんだ。「そんなこと言うためにあたしを呼んだの」君は僕にこう言うかもしれない。でも、僕は君にそんなことも言えずにいるんだ。でもさ、今まで僕は君にそんなことを言って君を困らせたことはないよね。別に君を困らせたいわけじゃないんだ。ただ僕は君が必要なんだ。「そんなわけないよ」ってそう言ってくれる人が必要なんだ。「それなら別にあたしじゃなくたっていいじゃん。誰だってそう言ってくれるよ。空が溶けて落ちてくるんだなんて言ったら」

 僕はカシスソーダの入ったグラスを持ったまま、窓際の壁によりかかって、星のかがやく空を見ている。たしかに空は溶けてきそうになかった。そして考えていた。何で君じゃないといけないのかってことを。僕は君がほしい。僕には君が必要だ。それだけじゃいけないのかな。僕は君のことを思い浮かべてみる。君の髪。君の目。君の鼻。君のくちびる。君のうなじ。君のうで。君の小さな手。君の胸のふくらみ。君のおなか。君のあし。君のつまさき。そして君を抱きよせたときの君のやわらかい頬。

 ケンタウルス座のアルファ星。僕の一番近くにある星。でも、僕はその星をつかむことさえできない。いま僕が君のほっぺたをなでることができないのと同じように。僕は待つしかないのだろうか。君が僕の前にあらわれることを。僕は君をつかみとることはできないんだろうか。いま僕の前にケンタウルス座のアルファ星が空から落ちてくることがないように。僕はもう一度君のケータイに電話してみた。つながらないのはわかっているのに。

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