第47話 もうひとりのブラコン

 「よろしければご一緒にお食事でもどうですか?」


 明日野が代わりに紹介してくれた聖がにこやかな笑顔で席へと誘う。

 隣の明日野が『なまヒジリん、ヤバっ』とか言っていたが、もしかしたら有名人なのだろうか?


 そう言えば美郁も小学生からモデルをやっている知り合いがいると言っていた。

 もしかしたら彼女がそうなのかもしれない。


 実際に美男美女の多いこの世界でも、美郁と変わらないくらいに抜きん出て可愛らしい。

 特に今日は黒を基調にしたゴシックロリータ、いわゆるゴスロリ服が妙に似合っていた。

 美郁も似た感じの服を着ることがあるので影響を受けている可能性はある。


 ただ、声を掛けられたのは良いが、彼女の兄も居るのではないかと周囲を見回し確認する。

 どうやら一人のようで、少しホッとする。


「その、今日は一人かい?」


 念の為、彼女の兄が一緒にいないかを確認しておく。


「はい、余りファストフード店に行く機会が少ないので、図書館に行くついでで寄らせて頂きました」


 聖はどうやらあまりファストフードには行かないらしく、見た目通りのお嬢様のようだ。

 そうなると瀬貝も良いとこのお坊ちゃんってことのなるが、その片鱗は見たことない。


「折角なので一緒に食べましょうよ」


 どうやら、明日野は一緒に食事をしたいらしい。


「分かった。明日野さんが良いなら俺は構わないよ」


「はい、それではこちらへとうぞ」


 先に席を取っていた聖の場所に移動する。


「ところでそちらの方は? わたくしの名前を知っているようですが」


「あっ、ごっごめんなさいです。一方的に知っているだけなのに、馴れなれしく名前を呼んでしまって。私は明日野未来、久方君とはクラスメイトです」


「まあ、でしたら兄様とも同じクラスメイトというわけですね」


「うっうん、そうなるかなー、アハッハハ〜」


 明日野がぎこちなく笑う。


「そうですか、改めましてわたくしは瀬貝聖です。宜しくお願いしますね明日野さん」


 聖が屈託ない笑顔で返す。


「うわぁ、ヒジリんスマイル頂きました〜」


 聖を突然拝みだす明日野。

 明日野にとっては瀬貝の妹だからというわだかまりはないようだ。


「??」


 不思議そうに明日野を見る聖。


「あまり気にしないでくれ」


「そうですか、でしたら、あの折り入ってご相談が……あの、諒也お兄様は先週、美郁さんとそのプールにお出かけしてラブラブだったと」


「いや、ラブラブまではいってないと思うけど」


「いいんですよ照れなくとも、嬉しそうに話す美郁さんを見ていれば分かりますから」


 聖はそう言って真剣な表情を向けてくる。


「なので、どうすればわたくしも、その兄様とラブラブな関係になれるのでしょうか? これは同じ妹を愛する、兄様のご友人である諒也お兄様にしか相談出来ない事ですから」


「…………」


 前も思ったが、認識に齟齬がある。

 前は否定するまでもないと思ったので特に何も言わなかった。

 でも、今の聖は俺が瀬貝の友人の立場だと勘違いして大事な相談をしているというなら……。


「あの聖さん、その言いにくいことなんだけど俺と瀬貝は友達じゃない、むしろ、お互いに余り良く思っていない」


 俺からすれば明日野の件と、楓にちょっかいさえ出してこなければ、特に関わり合いになろうとは思わなかったのだけど。


「えっ、それってどういう事ですか? 確かに兄様は諒也お兄様の事を友人だと言っていたのですか?」


「それは、俺にも分からない。どうして彼がそんな嘘を言ったのかは」


 俺がそう伝えると聖の様子が一変する。


「あなたは、兄様が嘘を付いていると? あのお優しい兄様が、わたくしに嘘をつくはずがありません」


 俺の言葉に反応して目が据わりだす。


「えっと、ごめんね聖ちゃん。ちょっと良いかな」


 怪しくなりかけた雰囲気を明日野の言葉が打ち消す。


「なんですか明日野さん。あなたも兄様の悪口を言うのですか?」


「違うよ、聞きたい事があってさ、瀬貝君って凄く優しいじゃない」


 瀬貝からあんなことをされたのに、アイツの事を優しいなんてどういう了見だ?


「ええ、明日野さんの言うとおりです。わたくしの兄様ですから当然です」


「うん、でもさ夏休み前くらいからかな、様子がおかしく感じるんだけど、妹の聖ちゃんなら何か知ってるのかなって」


「……そうですか、わたくし以外にも兄様の異変に気付いている人がいたのですね」


「じゃあやっぱり」


「はい、兄様は巧妙に隠しているつもりですが、あれだけ様子が変われば、兄を愛する妹なら当然気付きます」


 聖の言葉に俺も冷や汗が落ちる。

 美郁も聖と同じように実は気付いているかもしれないと。


「それで、その瀬貝君に何かあったの?」


「……あなたに教える必要はありません」


「いいえ、私は知らないといけない、だって優しいはずの瀬貝君が私をイジメるような指示を出すなんて、何にか余程の理由があるはずだもの」


 あの明日野とは思えない堂に入った言動。


 俺は心配になって明日野を見る。

 彼女は笑って俺を見る。


「そんな、あの兄様がそんなことをするはずが」


「うん、本当ならするはずの無いよね。だから私は理由を知りたい、彼に何があったのかを」


 聖をしっかりと見て話す明日野。

 いつもの様子は微塵もない。

 たから、ここは彼女に任せて見ようと思った。

 

 

 

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