第48話 転生者、頑張る

 何とか聖ちゃんの敵意を削ぐことが出来た。


 彼女は重度のブラコンで、兄である主人公の好感度が高まるとヤンデレ属性が発現する。

 聖ちゃんルート以外では、それが原因でバッドエンドを迎える可能性がある要注意人物だ。


 まあ、取って付けたハーレムルートでは、その設定がほぼ無かったことになっているのだけど、先程の様子だと裏ヒジリんが出かけていた。


 つまり、聖ちゃんは、兄である今の瀬貝君への好意が高まっているということだろう。


 あのまま久方君が瀬貝君の敵だと聖ちゃんに認識されれば面倒な事になる。


 咄嗟に瀬貝君のことを褒めつつ、何とか聖ちゃんの機嫌を取ることが出来た。

 

 これで話が出来る方向に持っていけそうだ。


 それに話の流れから、聖ちゃんは主人公君であるはずの瀬貝君が変わった切っ掛けを知っていそうだ。


「……そうですか、本当なんですね。分かりました兄様が変わった時の事をお話致します」


 そう言って話してくれた聖ちゃんによると、その日の瀬貝君は高熱を出して突然倒れたらしい。


 そして翌日、目を覚ました時には一時的に記憶を失っていたらしい。

 それこそ聖ちゃんの名前どころか自分の名前も覚えていなかったらしい。


「でも、今の瀬貝君はちゃんと記憶ありますよね」


「はい、兄様の記憶は、あの人……彩葉イロハお姉様が取り戻してくれたんです」


 思いがけない名前に驚く、紅葉ちゃんのお姉ちゃんである彩葉さんが関係しているインベントなんて存在しないはず。

 そもそもが主人公である瀬貝君が記憶喪失になるなんてエピソードも無かったはずだ。


「あの、どうやって記憶を?」


「それは私にも分かりません。紅葉お姉様より先に来てくれたと思ったら、二人きりにしてくれと言われて……心配でしたが妙な迫力に負けてしまい、お任せしたら」


「記憶を取り戻していたと、でもどうやって?」


「はい、私も気になったので彩葉お姉様に尋ねたのですが、上手くはぐらかされてしまって」


 手段は分からないけど彩葉さんが主人公である瀬貝君の記憶を取り戻した? いや入れ替えたのか?でもどうやって?

 疑問ばかりが頭をめぐる。


「……なるほど、でも記憶は戻ったけど性格的な部分はですね」


「はい、表面上は確かに優しかった兄様なのですが、所々で違和感は感じていたました」


「そうですか、さすが聖さんですね。瀬貝クンのこと瞬時に見抜くなんて妹の鑑です」


 聖ちゃんの機嫌を良くするため少し上げておく。


「えっ、そうなの?」


 しかし、久方君が余計なことを言いそうになったので肘でつついて制しておく。


「こほん、それで聖さん。その上でお聞きします。今の瀬貝君をどう思いますか?」


「……別にどうも思いません。どんな兄様だろうが私の兄様に変わりありませんから」


「その、仮に中身が別人のようになっていたとしてもですか?」


「ええ、良くも悪くも人は変わるものです。ですから仮に兄様がどんなクズに落ちても、私は変わらずお慕いし続けますよ」


「うん、良いと思うよ」


 話を聞いていた久方君が聖ちゃんの言葉に頷く。

 驚いて久方君の方を見る。

 聖ちゃんも驚いている。


「えっ、諒也お兄様は私のことを応援してくださるのですか」


「ああ、聖さんがそこまで思っているなら、君が兄と付き合って正しく導くべきたと思うよ」


「正しくですか?」


 聖ちゃんが不思議そうに久方君を見る。


「そうだよ、だって付き合うなら皆から祝福されたほうが良いだろう、本当に優しかった兄さんに戻ってもらえれば周りも喜ぶたろう」


「周りから祝福」


 その言葉にうっとりする聖ちゃん。


「あの、そんな煽るようなこと言って大丈夫なんですか?」


 私は小声で久方君に耳打ちする。


「大丈夫だよ、二人がくっついてくれた方が平和になる気がする」


 そう言って久方君も小声で返してくる。

 言われてみれば確かに、あの毒にも薬にもなる伯東さんよりは、聖ちゃんの方が瀬貝君をコントロールしてくれそうだ。


「あの、それで諒也お兄様。その兄様のお心を射止めるにはどうすれば?」


 すっかりその気の聖ちゃんが久方君に訴えかけてくる。そこで私は思いつく、聖ちゃんルートの重要イベントである映画館デートを発生させればいいのではと。


「それでしたら、良い方法が今度上映される映画で兄妹の恋模様を描いた作品があってですね。それを一緒に見に行くのはどうでしょうか、お互いに感情移入して盛り上がるんじゃないですか」


「そうなんですか明日野さん。あのそれはいつ公開予定なのでしょうか?」


「えっと、確か来月だったかな」


「はぁ、先は長いですね。待ちきれません」


「別にその間、何もしないわけでもないだろう。俺達と同じようにプールに行ってもいいと思うし」


「あっ、そうですね。じゃあ今度美郁さんに水着を選んでもらいましょう」


「妹なら今日は暇そうにしていたから、連絡すれば付き合ってくれるんじゃないか」


「そうですか……善は急げといいますし、美郁さんに連絡してみます」


「ああ、俺からもお願いしておくよ」


「まあ、何から何までありがとうございます諒也お兄様」


 聖ちゃんはそう言うと早速ミークちゃんに連絡を取り始める。二人の水着選びには心を惹かれるものが今日は久方君と居たい。


 本の続きが読みたいと言うのもある。

 なにせあの小説は、前世の私と彼を結びつけてくれた大切な本だから。

 『君バラ』に関連する本でもあるので、こっちの世界でも存在すると思っていた。

 案の定、この世界でもちゃんと存在していた君バラの主題歌と同じように。

 そして、何気なく彼が言った『こっちにもあるんだ』という意味。


 つまり元の世界でもこの小説の存在を知っているということだろう。


 元々転生者じゃないかと疑っていた。


 イジメから助けてくれた時の姿が彼と重なった。


 勝手に私と同じように彼もこの世界に転生していてくれたらと、そらがこの人ならと思ってしまった。


 そしてあの言葉の後。

 いつものように大好きな歴史の本を取ってきて読み漁る彼の姿。


 私の中で全てがつながった。

 彼が……正巳君だと気付くことが出来た。


 と、思わず私が感慨にふけってる間に久方君と聖ちゃんはミークちゃんとのやり取りを済ませていた。


「こっちもメッセージ送っておいたんだけど」


「はい、いま美郁さんから連絡が来たのでこれから駅の方に戻ります」


 聖ちゃんはそう言うと残りのハンバーガーをあっという間にたいらげると、頭を下げて店を出ていった。


 結局、彩葉さんのことは疑問に残ったが、聖ちゃんもあれ以上の事は知らないようだった。

 やっぱり直接、彩葉さんに聞かないと駄目だろう。



 聖ちゃんが去った後、もう一度久方君に尋ねる。


「あれで良かったんですか?」


「うん、これが最善のような気がする。なんか聖さん妙な迫力あったし」


 どうやら久方君も聖ちゃんの暗黒面を感じ取ったらしい。


「そう、それじゃあ久方君図書館に戻ろうか」


 私の言葉に久方君は頷いて一緒に図書館に戻り本の続きを読む。


 彼と私の間にゆったりとした時間が過ぎていく。


 大好きだったもう戻らない時間と同じように。


 もし、彼に私が元の世界での彼女だと告げたらどう思うだろうか?


 ……きっと迷惑だろう、彼はもうこの世界で前を向いて歩き出している。

 隣には既にミークちゃんや紅葉ちゃんという私が逆立ちしても敵わない美少女が二人。

 今更、私がしゃしゃり出ても彼の幸せにはならない。

 なら私は遠くから見守るだけだ。

 彼が幸せな時を過ごせるように願いながら……。





※補足

 済みません。私の説明不足と文章力の無さで、唐突に未来が諒也の正体に気づいた様に思わせてしまいました。なるべく話の流れを壊さない様に文章を追加しました。


 最近、立て込んでおり返信も出来ず申し訳ありません。


 恥ずかしながら沢山頂いてる誤字脱字の報告もありがとうございます。今度時間を取ってちゃんと修正を済ませたいと思います。


 そう言う意味でも私の拙い小説は、読者の皆様の寛容さに支えられているのだと実感するところでもあります。

 

 ずっと応援して頂いてる読者様を含め、読んで頂いてる皆様には感謝しかありません。


 ありがとうございます。


 引き続きご愛読頂けると嬉しいです。


 

 あとずっとアピってる

 下記の作品。

 お陰様で今のところウィークリー2位をキープしております。


 これも皆様がついででも読んで下さったお陰です。こちらの件も本当にありがとうございます。


―――――――――――――――


「Gsこえけん」に応募しているので応援してくれると嬉しいです。


 短編になります。

 完結しましたので読んで頂けると嬉しいです。


タイトル


『最愛の幼馴染が僕を暗殺するために送り込まれた刺客だった、それだけの話』


https://kakuyomu.jp/works/16817139557603851062


よろしくおねがいします。 


 

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