第46話 図書館、憩いの時

 先週の騒がしかった時間とは様変わりし、今週は図書館で静かな時間を過ごす予定だった。

 しかし、一緒に行く約束をしていたのは楓と明日野のうち、楓が風邪を引いてノックダウン。

 確かに昨日から体調が悪そうだったので、もう少し気遣ってあげれば良かったと反省する。


 図書館に行くのは取り止めて、明日野と一緒にお見舞いに行こうとしたら、うつすと悪いからとやんわり断われた。


すぐに『折角だし二人で行ってきなよ』と返事が来たため、明日野に確認したところ。


『ふふ二人っきりででしゅか。ひゃい、ついて行かせていただきます』


 と、ぎこちなくオーケーを貰えた。

 楓と一緒の時はそうでもないが、美郁と居るときや俺と二人っきりの時などは未だに、喋りがぎこちなくなることがある。

 まあ、これは緊張しているだけだと、今ならわかるので問題ない。


 とにかく、明日野にオーケーをもらったので一緒に図書館に向かう。

 明日野は遠慮がちに半歩下がって後を付いてきた。


 そして、着いたのは公立の大型図書館。もちろん無料なのでそのまま館内に入る。

 館内は当然ながら静かで独特の雰囲気。

 やっぱりこの空間は良い。


「久方君って、図書館が好きなんですね」


「えっ、なんでわかったの?」


「顔に出てますよ」

 

 明日野に言われて自然に顔が笑っていることに気がついた。


「いや、そうだね、嬉しくて」


 前の世界ではよく行っていたが、諒也としては行く機会がなかったので本当に久しぶりだ。


「それじゃあ、席を確保しちゃうです」


「ああ、そうだな」


 そうして俺と明日野は空いていた四人がけの席に隣り合って座る。


「あっ、あのごめんなしゃいです。その隣に知らない人が座るの怖かったから」


 そう言って明日野が隣に座った理由を話す。


「別に構わないよ」


 俺は頷いくと、先に本を取りに行くように勧める。


「久方君の方こそ先に取りに行ったら」


「いや、俺が読みたいの探すの時間掛かるし、纏めて持ってくるから」


「そうなんだ。じゃあ私、読みたいの決まってるから取ってくるね」


 明日野はそう言って、本を取りに行くと言葉通りすぐにお目当ての本を持って戻ってきた。


 手には俺も知っている古典的な恋愛小説。


「あっ、それこっちにも有るんだ」


 この世界だと音楽とかもだけどあっちの世界とは似ていて違うものも多い。

 その中で明日野が持ってきた本は元の世界でも有名な話で映画もされている。

 時代的にはかなり古い話だけど。


「えっ、それって……そっか、久方君もこの小説知ってるんだね」


「まあ、その……昔知り合いに勧められて読んだ」


 話の内容までは記憶していないけど、元の世界の彼女と話すきっかけになった本。

 その存在はハッキリと記憶に残っていた。


「……それって、そっか」


 明日野は頷くと嬉しそうに、寂しそうに笑った。


「それじゃあ、俺もちょっと取ってくる」


「うん、気になる史書あれば良いね」


 そう言って明日野さんは、持ってきた本に目を通し始めた。


 明日野が言ったおり、俺は歴史が好きで史書がお目当てだった。でも、明日野に歴史が好きなことを言っただろうか?


 少し気になったが、当の明日野が本に集中しだしたので邪魔することはせず、お目当ての本を探す。


 今日この世界の歴史が気になったので調べようと思ったから、授業で聞く限りでは大まかな流れは元の世界と変わらない感じだ。


 しかし、本当に元の世界と同じ歴史をたどっているのかが気になっていたので、信憑性の高い本で一度歴史を調べてみようと思っていた。


 そうして数点、気になる本を手に取り席へと戻る。

 明日野はこちらに一度だけ視線を送ると、再び本に集中しはじめる。

 俺も早速持ってきた本に目を通す。


 お互い無言だが、なんだか懐かしく感じる心地良い時間があっという間に過ぎる。


 気がつくとお昼を過ぎており、お腹も空いてきた。


「明日野さん、良かったらお昼食べに行かないか」


「あっ、もうそんな時間なんですね。分かりました何が食べたいですか?」


「そうだな、近場だとファストフードで良いか?」


「はい、そこで良いですよー」


 俺と明日野は一度荷物を纏めると一度退館して、近場のファストフード店に向う。


 明日野とお互いにセットを注文してイートインコーナーの2階に上がる。

 席につこうとして、後ろから声が掛けられる。


「あの、諒也お兄様ではありませんか?」


 俺をそう、むず痒く呼ぶのは前に会った美郁の友人にして、あの瀬貝の妹名前は確か。


「なっなっ、なっ、ひぃ、ヒジリちゅゎんじゃないでしゅかぁー」


 明日野が何故か変わりに答えてくれた。


 


 


―――――――――――――――


「Gsこえけん」に応募しているので応援してくれると嬉しいです。


 短編になります。

 完結しましたので読んで頂けると嬉しいです。


タイトル


『最愛の幼馴染が僕を暗殺するために送り込まれた刺客だった、それだけの話』


https://kakuyomu.jp/works/16817139557603851062


よろしくおねがいします。 




 




 

 

 

 


 



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