第42話 幼馴染抗争

 イルカショーが始まると目を輝かせて見入る楓。

 これをクラスメイトが見たらきっと驚くだろう。


 イルカがショーを披露するたびに「すごい、すごいと」言って興奮気味に抱きついてくる。

 確かに凄かった弾力が……。

 とっ、俺も一般的な男子なので、大きさにこだわりはないが大好きだ!


  わりと前列で見ていたの多少水しぶきが飛んできたけど、それすら楓は喜んでいた。


 それとは別に、なんか、後ろから聞いたことある声で歓声を上げてる人が居た。

 嫌な予感がしてチラッと後ろを見て直ぐに楓の方に向き直る。


「んっ、どうしたの諒也君?」


 一瞬、余計な心配を掛けないように黙っていようかと思った。しかし、向こうもこちらに気がつく可能性も有るわけで。


「実は伯東を見かけたんだ。多分、瀬貝も一緒に居ると思う」


「そう、一応こっちには関わり合いにならないようにって、未来が瀬貝君に釘を刺してくれたみたいだけど」


「瀬貝はともかく伯東がなー、俺を見つけると突撃してきかねない」


「あー、それはあるね。でも大丈夫だよ私も居るし、守ってあげるよ」


 有り難い申し出たが、男としては情けない。


「まあ、絡んできても相手をしなければ良いだけだしな」


「それはそうかも、でも折角の楽しい時間を潰されるのは嫌だし、なるべく見つからないようにしないとね」


 二人でそう話していた矢先だった。

 ちょっと楓がお手洗いで俺の側を離れた瞬間を狙いすましたように女が飛び付いてきたのは。



「リョウくーん。こんな所で会えるなんて、これは運命の悪戯だよ」


 そんな、悪戯勘弁願いたいと思いつつ、伯東を引き剥がす。


「あのな伯東。何度言えば分かるんだ、必要以上に俺にまとわりつくな。それに瀬貝はどうした?」


「えっ、えっーと勇人なんて、しっ知らないな〜、ひゅっ、ひゅ~」


 目が泳いで俺と顔を合わせようとしない。

 それに誤魔化すために吹けない口笛を吹く奴なんて実際に居るとは思わなった。


「あー、分かった。分かった、ほれ、お小遣いやるからこれでソフトクリームでも買ってこい。お勧めはミックスだぞ」


 俺は伯東に五百円玉を握られせ売り場を教えるとゴーを出す。


「へぇ、そうなんだ。やっぱりリョウくんは優しいね、ありがとう早速買ってくるね〜」


 嬉しそうな表情で言われた通りにソフトクリームを買いに向かう伯東。なんか騙しているようで少し気が引けたが、今は楓の方が大事だ。


 俺は楓が向った方向に急ぐ。


 その先には予想していた通り、楓に詰め寄る瀬貝の姿があった。




「なあ、どうして俺じゃ駄目なんだ。俺は一途に紅葉の事を愛していたのに」


「はあ、アナタもしつこいわね。ならなんで伯東さんを彼女にしたの?」


「それは……俺は彼女も幸せにする義務があって」


「なら、それで良いでしょう。伯東さんを幸せにしてあげなさいよ」


「いや、俺にはお前も……紅葉も幸せにしたいんだ。分かってくれ」


「分かってほしいのはこっちよ、私の幸せを望むなら放っておいて。それが出来ないなら、それは私の幸せを望んでるんじゃ無くて、アナタ自身の幸せ、いいえ欲望を満たしたいだけよ」


「なっ、違う。紅葉は騙されてるんだ、本当のアイツはチャラ男でクズだ。お前は絶対に不幸になる。それをみすみす放ってはおけない」


「……はぁ、それこそ大きなお世話よ。私が誰を好きになるかなんて私が決める。それで私が不幸になったとしたら、そんなの自己責任でしょう。それにアナタと付き合ったとして、絶対に幸せになる保証なんてあるの?」


「ある! 信じてもらえないかもしれないが俺はこれから起こることを知っている。幸せになるための道筋を分かってるんだ。なのに皆が俺の邪魔をする折角皆が幸せになれる道があるのにだ」


「……ねぇ、それって本当に皆が幸せなの? 幸せだと思ってるのってアナタだけじゃないの? 現に私は今、折角の楽しい時間を奪われて不幸だと感じてるんだけど」


「そっ、それはだから、騙されてるからで……」


「はぁ、じゃあ諒也君は私をどう騙してるの?」


「それは、紅葉の事を好きだと勘違いさせて、でも本当はお前の体だけが目当てで」


「……そう、そうなのよねー、それが本当ならもっと積極的に迫ってきても良いと思わない?」


「えっ、何を言って」


「だってさ、結構私頑張ってアプローチしてるけど消極的なんだよね、それこそ、やっと自然に手を繋げるようになったくらい。まあ、確実に良い雰囲気にはなってるんだよ、さっきだってさ〜」


「なんだよ、さっきまで何してたんだよ」


「あっ、聞いてくれるの。実はね『あ〜ん』して食べさせ合いこしたんだよ。これってどう見てもカップルだよね。付き合ってるみたいなもんだよね?」


「ぐっ、そんな羨ましいことをアイツと……でも、ふっふふ、つまり紅葉は久方にまだ恋人として見られてないってことだな」


「はぁ、そうなんだよね。強力なライバルもいるし」


「そうか、なら、ならさ俺が練習相手とかになってやろうか? それこそ俺は色んな子と付き合ってて経験豊富だし、それで女としての魅力を色々身につけて久方を落とせば良いだろう」


「……そうね」


「そうそう、いい判断だ。絶対に後悔させないよ」


「って、本当に言う子がいると思うの? たかが練習相手にさ、普通はそういう関係にならないでしょう、仮にそれで本当にそういった関係を結ぶ人がいるんなら、ただのアホでしょう。まあ、アナタみたいな複数人と付き合っても平気な人なら何とも思わないだろうけど、私は前も言ったとおり好きな人だけに振り向いて欲しいの」


「いや、でも、バレなきゃ良いだろう。お互いに黙ってればいい話だし」


「はぁ、やっぱりアナタと付き合わなくて正解だったわね。アナタの言っていることってさ、好きな相手、大切な人でさえ平気で嘘ついて騙すってことよ……でね、ハッキリ言うと、私ってそういう人間が大嫌いなの!」


「えっ、いや、これは違うんだ」


「それにさ、隠れてこそこそしたら、それって浮気でしょう。いくらハーレムでも先に付き合ってる相手には説明しないと駄目だよね」


「いや、ミカンには許可をもらってるから大丈夫で」


「だからー、本当、疲れるわね。そっちが良くても、こっちが嫌なのよ、幼馴染のよしみで、言わなかったけどさ、未来にした事と今の言葉で、もう失望しかないわね。諒也君の事をクズなんていってたけど、本当にクズなのはアナタの方よ」


「……なんだと。折角俺が助けようと、あのクズから助けてやろうとしてやってるのに……幼馴染だからって甘い顔してたら付け上がりやがって。お前は大人しく俺の言うことを聞いてれば良いんだよ、それが幸せなんだから」



 二人が話をしているかと思ったら、瀬貝が感情的になり楓に手を伸ばす。


「気安く楓に触らないでくれるか」


 すんでの所で手を掴んで止める。


「久方ぁぁあ、お前のせいで、お前と明日野のせいで俺は、俺は、紅葉を失いそうになってるんだぞ」


 途中からしか話は聞こえなかったが、あれは完全な自滅で自業自得だ。


 しかも、最後は楓に手をあげようとまでした。

 もう、許されることじゃない。


「瀬貝、お前こそ、いま何しようとしたんだ。楓は大切な幼馴染じゃなかったのか?」


「大切だからこそ躾は必要だろう」


 瀬貝が歪んだ笑顔を見せる。

 雰囲気がいつもの様子と違う。


「いたいた、おーいリョウくん、っと、あっ勇人も、何してるの?」


 そこへ、場の雰囲気を壊す女、伯東が現れる。


「ちっ、何でもない。たまたま会ったから挨拶していただけだ。行くぞミカン」


「えっ、えっ、ちょっと待ってよー、どういうこと??、ねぇ待ってったらー」


 慌て両手にソフトクリームを持って瀬貝の後を追いかける伯東。


「折角のデートなのに嫌な気分になっちゃったね」


 二人の背中を複雑な表情で見送る楓。


「そうだな、でも楓に何もなくて良かったよ」


 今日の瀬貝は様子がおかしかった。

 さすがに、こんな人前で理性を失うような人間とまでは思っていたなかったけど。

 万が一もある。

 もし駆けつけなかったら楓は暴力を振るわれたかもしれないと考えるとゾッとする。


 今後は瀬貝に気をつけないといけないかもしれない、気になる事も言っていたし。


 そう思い瀬貝に注意を払っていたが、その後二人は見当たらず。楓と安心して水族館を堪能した。


 



―――――――――――――――


「Gsこえけん」に応募しているので応援してくれると嬉しいです。


 短編になります。

 完結しましたので読んで頂けると嬉しいです。


タイトル


『最愛の幼馴染が僕を暗殺するために送り込まれた刺客だった、それだけの話』


https://kakuyomu.jp/works/16817139557603851062


よろしくおねがいします。 


 

 

 




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