第40話 主人公覚醒する!?

 遠くに見える忌々しい二人。

 何でいつも俺の行く先々に居合わせる。


 遠目でも分かる紅葉の目を引く笑顔。

 あの笑顔を俺に向けさせることは出来なかった。

 

 明日野の件で紅葉からの信頼を完全に失ったからだ。メッセージを送っても既読になることはなく、電話も着信拒否されていた。 

 嫌でも実感させられる。

 もうアイツが俺に振り向くことはないだろうと。


 だからこそ、もう関わり合いにならないと決めていたのに……。


 今見ている光景が記憶にある光景と重なる。

 嫌だ、嫌だ、嫌だ、あんな惨めな想いをもう味わいたくない。


「大丈夫、勇人?」


 隣のミカンが声を掛けてくれる。

 あの時は、場を読めないこいつのせいで酷い目にあった。


「ごめん、考え事をしてた」


「もう、折角のデートなのにー、どうせ紅葉ちゃんの事でも考えていたんでしょう」


 こんなところは勘が働くらしい。

 なんというか、ある意味ミカンらしいといえは、ミカンらしい。


「違う、違う、ミカンとこれからどうやって楽しもうかと考えてただけだから」


「えっ、本当に嬉しい。今日は沢山楽しもうね、それで最初はね、イルカが見たい、イルカ!」


 目を輝かせるミカン。

 容姿と相まってこんなところは可愛いいと思う。


 でも、結局コイツにしたって俺は二番目だ。


 コイツが一番の幼馴染と距離を置かれてしまったせいで俺に擦り寄ってるだけに過ぎない。


 コイツに告白した時だってそうだ。


 夏休み前の一件から親しくなった俺達。

 ミカンの奴が幼馴染が入院してて、一緒に居られないと寂しくしていたので代わりに俺が一緒に居て遊んでやった。


 一緒に過ごす事が多くなり、予定通りミカンが必ずイエスと言う告白をした。


「幼馴染のことを一番に考えてくれて構わない、だから二番目でも良いから俺と付き合ってくれ」


 この時は、直ぐに幼馴染から俺だけに気持ちを向けさせるのは簡単だと思っていたから。


 しかし、そのプランが告白した翌日から崩壊した。


 翌日、例の幼馴染に俺との事を告白したミカンが心配そうな顔で相談してきた。


「なぜか、リョウくんが余所余所しくなってて冷たかった。勇人との関係このままで良いのかな?」


 と、告白を受けておきながら、幼馴染の態度でこうも手のひらを返そうとする目の前の女に頭が痛くなりそうだった。


「きっと、それは動揺しすぎて気持ちの整理が出来てないんだよ、落ち着くまで待ってあげたほうが良い。ミカンと久方が積み重ねた時間はその程度で揺らぐほど軽いものじゃないだろう」


 機転を利かせて、そう取り繕ってフォローしておいた。 

 幸いミカンもその言葉に納得してくれたので、追加でこうも言った。


「だから、今はミカンと久方に追い越せないまでも、追いつけるように俺との時間に費やして欲しい。恥を忍んで言うと、俺はミカンと久方が羨ましいくて嫉妬しているんだ」


 俺の言葉、特に『ミカンと久方が羨ましい』という部分に強く反応し、喜びながら俺の提案を受け入れてくれた。

 おかげでミカンは約束を守って、夏休み期間幼馴染とは会わず、俺との時間を優先させた。


 今考えれば、もうここからおかしかった。


 本当ならミカンに俺との交際を伝えられた久方は猛反対してミカンと喧嘩別れするが、幼馴染に対して異常なほどの執着心を持つ久方はミカンのストーカーになって行くはずだったのに。


 あいつはストーカーになるどころか、チャラ男でもない、俺の見たことのない別人に変わっていた。


 その後も、あの俺の知らない久方に、ミカンが毎度揺り動かされ、あろうことが喫茶店では俺と一度別れると言い出しやがった。


 まあ、正直に言えばミカンの事より、紅葉に決別宣言された事の方がジョックが大きかった。

それこそ放心してしまったくらいに。


 気が付くとミカンと紅葉達も居なくなっており、店を出るとき、ウエイトレスの女に『ドンマイ』となぜか同情された。


 そして別れる話は有耶無耶になり、目の前には容姿だけは極上の金髪女、ミカンが笑いかけてくれていた。


 そして、もうひとり、俺の女になる筈だった幼馴染、紅葉の笑顔。それは俺じゃない男に向けられ、思わず比較してしまう。


 悔しい、悔しい、悔しい……。

 そして、改めて思う。


 許せないと……本当は全て俺のモノになる筈だったんだ。ミカンや聖、先輩は別にして、久方の妹も、何より紅葉も全て……そう、そのために俺にはこのチャンスが与えられた筈なのだから。


 だから、きっと今は主人公には良くある逆境の時なんだろうと思う。


 だから、きっとここで諦めたら駄目だ。

 大抵の主人公は諦めることなく抗い続ける事で、ピンチをチャンスに変えて逆境を乗り越える。


 そして、その先にたどり着くのは、皆が待ち望むハッピーエンドだ。


 俺の中に萎みかけていた愛する人達への想いが蘇ってくる。

 そう、俺は彼女達を幸せにする義務がある。


 あんなストーカーまがいのチャラ男に負けるわけにはいかない。


 最初は二人を忌々しく思っていたが、きっとこれは俺に与えられた好機だ。上手く事を進めて、必ず紅葉の目を覚まさせて俺の元に連れ戻してやる。


「ふっふ、なんだか勇人楽しそうだね。良かったよ最近元気なかったから」


「ああ、ミカンありがとう。今日はきっと楽しい事になるはずだから!」


 俺を決意を新たにし、遠くの二人を見つめ直した。

 


 



―――――――――――――――


「Gsこえけん」に応募しているので応援してくれると嬉しいです。


 短編になります。

 完結しましたので読んで頂けると嬉しいです。


タイトル


『最愛の幼馴染が僕を暗殺するために送り込まれた刺客だった、それだけの話』


https://kakuyomu.jp/works/16817139557603851062


よろしくおねがいします。 


 


 

 

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