第35話 転生者、動く


 放課後、いつものファミレス。

 なんだか久しぶりにに紅葉ちゃんと久方君で話をする気がした。


「ごめんね、未来。気付くのが遅れて」


 紅葉ちゃんが謝ってくれる。

 別に紅葉ちゃんが悪い訳ではないのに。


「済まなかった。俺も明日野さんがおかしいのは気付いていたのに対応が遅れた」


 久方君も同じだ。悪い事をしたどころか、私を助けてくれたのに、謝られたら私はお礼を言うことが出来ない。


 それに、あの時の言葉、昔彼にも同じように助けてもらった気がする。


 そこに淡い期待が生まれる。

 もしかして彼が転生者で……。

 もしかして彼があの人……私が大好きになったあの人だったらと。


 思わずそんな思いで久方君を見つめてしまう。


「んっ、どうした?」


 視線に気付いた久方君が声をかけてくる。


「あっのっ、そっのっ、あっありがとう。また助けてくれぇて」


 なぜか彼を真正面に見ることが出来ず、話し方も変になってしまった。


 これじゃあ、折角助けてくれた彼に失礼だ。

 こんなダメな私じゃ嫌われてしまう。


「いや、まあ、今回の一番の功労者は伯東だったけどな」


「ぷっ、あの時の瀬貝君の顔ったらなかったわね」


 紅葉ちゃんが思い出して笑う。

 確かにあの時の主人公君の顔は……。


「あはは、あれは想定外でしたね」


「正直、あれで許せるかといえば、どうなんだ明日野さん」


 久方君が尋ねてくる。


「そうですね」


 そこで何で私が狙われたのかを考えて見る。


 本来モブキャラである私と主人公君との接点。

 それはハーレムルートにある。


 取って付けたシナリオ。

 本来ファンサービス的な意味合いが強いため基本的に攻略要素は無い。


 しかし、唯一地雷となる選択がある。


 それが今私が転生している明日野未来。


 彼女には主人公ではない片思いの人が居る。

 そんな彼女に、ヒロイン達を片っ端からハーレムに加えていった本編ルートとは違う薄っぺらい主人公が、調子に乗ってハーレムに加えようとする選択肢がある。


 ユーザーにとっては隠れヒロインの登場を思わせる選択肢。しかし、これは完全な罠でその選択肢を選ぶと……。


 ハーレムルートにある唯一のバッドエンド。

 主人公は欲を出して本来の好きな人達以外も選んだことで全てを失い、惨めな結末に終わる。


 お姉ちゃん曰く。

 本来作る予定のなかったハーレムルートにおける開発陣のささやかな抵抗であり、明日野未来はハーレムルートに対するアンチテーゼ的な存在として作られた。だから本編の方では絡みが無い。


 もし、それを知ってて私を排除しようとしたのなら、恐らく彼も転生者?

 ……にしては違和感がある。


「ねえねえ、未来大丈夫?」


 色々と考え込んだせいで、ぼうっとしているように思われたみたいだ。

 紅葉ちゃんが心配して声を掛けてくれた。


「あっごめんね、ぼうっとしてたよ」


「うんうん、諒也君のことじっと見てて、もしかしたら新たなライバル出現かな?」


 紅葉ちゃんがからかうように言う。

 その言葉に思わずドキッとしてしまう。

 私が彼以外の異性を好きになるわけないのに、でも動揺したのは、久方君のことを……。


「えっと、違うくて、その瀬貝君のことをどうすれば良いのか考えてて」


「ああ、どうする。証拠はあるから」


「うん、それですが瀬貝君も今日のことで立場と信用を失ったと思うんです。だから逆に余計なことをして刺激したくないかもです」


「なるほどね~、一理あるかも。逆に追い詰めちゃって、何するか分からなくなるほうが怖いかも」


 私と紅葉ちゃんの意見に久方君が頷く。


「分かった。明日野さんがそれでいいなら俺としては構わない」


「とりあえず一件落着なのかな。でも何で瀬貝君は未来にこんなことしたんだろうね」


「大方、俺の時と同じで、楓と急に仲良くなったから嫉妬したんじゃないか?」


「あー、今の瀬貝君なら、あり得るかも」


 私としてはもう一つの可能性も考えられたが、言われてみれば久方君の意見もあり得なくない。


 だから、私も勇気を出して確認しようと思う。

 今の彼になら今更なんと思われようがどうでもいいから。



 そう思い立った私は、ファミレスを後にして紅葉ちゃんと別れ、彼の家に向かう。


 ゲーム情報で家の位置は大体把握している。

 今日会えるかは分からないが、待つのは得意だ。


 敵意を向けられた相手と対面するのに恐怖はある。久方君とは違い、もともとの私は根暗なオタクだから、真正面から向き合うのはキャラではない。


 でも……。


「あの、話があるんだけど」


 私は帰ってきた瀬貝君に話しかける。


「……まさか鴨がネギ背負ってくるとはね」


「いいの? 妹さんには本性隠してるんだよね」


 カマを掛けて見る。これを無視して粗暴な態度になるようなら、話し合う必要もない。


「本当に疫病神だな。まあいいや、すぐ終わるんならここで聞くけど」


「じゃあ、率直に聞くけど、アナタ転生者?」


「はぁ? 何言ってるんだ、転生者ってなんだよ? 頭でもおかしくなったのか?」


「ふぅん、とぼけてる感じじゃないね。違うんならいいや。今後は私にちょっかいかけないでね。そうすれば、こっちもちょっかいかけないから」


 余裕ぶって話をするけど内心は怖くて仕方ない。


「俺からもひとつ、聞いていいか?」


「……どうぞ、答えるかは別ですが」


 相手の手の内を知るのもひとつと考え質問を許してみた。


「じゃあ聞くけど、お前も未来を知っているのか?」


 ゲームの世界の未来という意味なら答はイエスだ。でも今はもう私の知らない展開で世界は進んでいる。


「未来なんてしるわけないじゃん、確かに名前は未来だけど」


「そうか、ならいい。約束どうりもうちょっかいはかけないから、放っておいてくれ。じゃあな」


 どうやら今日の件は効いているようだ。

 疲れた表情で私の横を素通りして自分の家に入っていった。


「はぁぁあ」


 緊張感が解け、ため息がもれる。


「もう、ヒヤヒヤしたよ」


 急に掛けられた声にビックリする。

 振り向くと紅葉ちゃんがそこに居た。


「あの、どうして?」


「だって、未来の様子変だったから、後を付けてきたら瀬貝君の家の前だったから驚いたよ」


「その心配してくれてありがとう」


 もしかして、聞かれちゃっただろうか?


「でも、良かったよ何もなくて、ところで何を話てたの?」


「今日、ファミレスで話してたことだよ、もう関わらないでって言っておいたよ」


「へぇ、凄いじゃん。頑張ったんだね」


 紅葉ちゃんの優しく労う声が心に響く。


「……うん、ありがとう」


「じゃあ、慰労もかねて、久しぶりに私んちで話そうよ、お姉ちゃんも未来に会いたがってたし」


 そう言われて手を引かれると、久しぶりに紅葉ちゃんの家に遊びに寄った。

 お家では、事情を聞いた紅葉ちゃんのお姉さんが同情してくれて、涙目でギュッと抱きしめられた。


 




 

 






 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る