第12話 幼馴染✕幼馴染

 思わず見惚れてしまったが直ぐに正気に戻り、銀髪美少女に話しかける。


「だから座ってるんだけど」


「えっ、うそ、それじゃあ」


「俺は久方だよ、髪切ったから分からなかった?」


「あっ、うん、全然分からなかった……そっか、ならそこに座る権利あるね」


 銀髪美少女はそう言うと興味を無くしたように自分の席へ戻っていった。

 途中で他のクラスメイトに呼び止められたさいに「楓」と呼ばれて記憶が繋がる。

 伯東が言っていた紅葉の名字は確か楓。狙いすぎたような名前だが、どうやらあの子が楓紅葉カエデモミジ、瀬貝の幼馴染のようだ。


 その後は俺と楓の話がクラスメイト達に伝わりクラス、特に女子達に困惑した雰囲気が広がる。

 しかし、それも昼休みまでで、すぐに瀬貝と伯東が付き合い始めたという話が広がり、大物カップル誕生の話題に変わっていた。


 あまり注目されたくない俺としては瀬貝様々である。


 そんな美男美女カップルの話題はクラスだけでなく学校中の話題になるのは早かった。

 そんな中で、時の人である伯東と放課後に約束を取り付けたことを今更ながら後悔する。

 一応、朝考えていた通り美郁も一緒に来てもらうつもりだったのでメッセージで予定を聞いてみた。


『放課後予定開いてる?』


 確か美郁のところも始業日から授業が入ってて終わる時間も同じ位なはずだった。


『ごめんね。放課後は友達と予定があって』


 直ぐに返信が来たが残念ながらお断りの内容だった。


『そっか、分かった』


『珍しいね、何かあったの?』


 あてにしていた美郁が駄目だったため他の方法を思案しつつやり取りを続ける。


『いや、放課後カラオケに誘われて』


『だれと?』


『伯東』


『今友達の予定キャンセルになったから大丈夫だよ』


 間髪入れず返信が帰ってきた。もしかして気を遣わせてしまっただろうかと心配になる。


『本当に無理してないか?』


『大丈夫。それでどうしてそうなったの?』


 そこで朝の電車でのやり取りを説明する。


『分かった。駅前で合流するね』


『ありがとう。よろしく』

 

 美郁とのやり取りを終えたところで目の前の視線に気が付く。


「珍しいね。久方君が教室に居るの」


 確かに夏休み前の諒也は教室から抜け出てボッチ飯だった。

 それにしてもどうして彼女が俺に話しかけてくるのだろう。


「そうかな? それより何か用かな楓さん」


「うん、聞きたいことがあって」


 直ぐに想像したのは瀬貝の事。

 あり得る可能性としては八つ当たり。

 最近学校では距離をおいていたとはいえ、中高からの一貫なので諒也と伯東の関係性を知っている人間は多い。 

 もしこの楓も諒也と伯東の関係性を知っているとしたら、自分の幼馴染を奪った女の幼馴染に言いたいことがあるのかもしれない。


「何かな?」


「ねえ、久方君は認めてるの?」


 何をと聞くまでもないだろう。


「伯東が決めたことだ。それより楓さんの方こそ良いの?」


「私も勇人が決めたなら別に良いよ」


 以外とあっさりとした声で答えが帰ってきた。


 もしかしたら二人は本当にただの幼馴染なのかもしれない。


 本人も美人で幼馴染も超イケメン。俺には理解出来ない苦労があるのだろう。


「話ってそれだけ?」


「あっうん。一応確認しておきたかったから。答えてくれてありがとう」


 そう言って楓は俺の席から離れると、自分の席に戻り一人でお弁当を食べ始めた。


 俺もまだご飯を食べていなかったので出かける前美子さんに渡されたお弁当を取り出すと食べ始めるた。


 ちなみに伯東と瀬貝は一緒に学食を食べに行っていた。

 

 それからは普通に授業を集中して受けた。 

 俺としては大学に行くにしても、やはり学費の面で国公立の大学を受験しようと考えていたので勉強を疎かにするわけにいかなかったからだ。 

 幸い一年上だったアドバンテージもあり問題なくついて行けるレベルだったので助かった。


 そんな俺にまた彼女が話しかけてきた。


「久方君、本当に変わったね」


 不思議そうに俺を見る楓。


「そうか?」


「うん、前はやる気なし男だった」


 率直な意見を口にする。本人を前にと思わくもないが不思議と嫌悪感はなかった。美人は得である。


「まあ、俺も事故にあって死にかけて、それに伯東がさ……」


 そこで想定した通りの俺が変わるキッカケを話す少し意味深に。

 まあ、さすがに中身が別人になってるとは想像できないだろうが、俺が変わった理由付としては良くてきたストーリーだと思う。


「そっか、久方君も色々と大変だね」


 何が大変なのかは分からないが、彼女は一人納得すると自分の席に戻っていった。


 諒也の記憶では楓とは名前をかすかに覚えているくらいでほとんど接点がなかったはずだ。


 お互いの幼馴染同士が付き合い始めたという理由で急にここまで距離を詰めて来るだろうか? 


 そう考えたとき二つの可能性が頭に浮かんだ。


 ひとつは単純に瀬貝に嫉妬してもらいたいがため。可能性としてはこちらかの方が高いだろう。


 そしてもう一つの可能性。

 それはもし俺と同じように中身が入れ替わっていたとしたら? 正直これは根拠もなにもないただの閃きだ。だけどこうして実際に俺は諒也としてこの世界に居る。なら同じようなことが他に起きてる可能性だってゼロではない。


 もし、それが当たりなら同じ境遇を抱える同志となりえるが、俺の事情を話して違っていれば完全に痛いヤツ確定だ。ここは慎重に見極める必要がある。

 俺は直感に従い、楓の動向には今後気をつけていこうと決めた。


 と、決めたのは良いが、それ以降楓から話しかけてくることはなく放課後になると伯東が言っていたように瀬貝と一緒に帰っていった。


 そうなると俺に寄ってくるのは伯東しかいない。


「ねぇ、リョウくん今日、紅葉ちゃんのこと見てたでしょう。二人で話ししてたし」


 なぜか不機嫌顔で俺を問い詰めてくる。


「別に今まで話したことなかったのに話しかけられたから少し気になっただけだ」


「むっ、本当に? 気になるからって紅葉ちゃんのことばっかり構ったら駄目だよ」

 

「意味わからん、それは彼氏の方に言うべき言葉じゃないのか、幼馴染とはいえ彼氏が他の女と帰っててお前は本当にそれでいいのか?」


「えっ、だって勇人と紅葉ちゃんは幼馴染なんだよ」


 また伯東の幼馴染理論が展開される。

 こいつの中の幼馴染に対する考えが全く理解できない。


「意味わからんが、分かった。さっさと俺たちも帰ろう」


 気付けば好奇心の目が、残った俺と伯東に注がれていた。

 どうやらクラスメイト達も、付き合ってる二人がそれぞれの幼馴染と帰ることを不思議に思っているようだ。


 俺はクラスメイト達の目を避けるようにそそくさと教室を出る。伯東はそんな視線を気にしてないかのように笑顔で俺の後ろを付いてくる。


 下校途中、スキあらば隣に並ぼうとする伯東をかわすため自然と早足になり、あまり足の早くない伯東を待つ。追いつくと、また隣に並ぼうとするので早足になりと、そんな非生産的な行動を繰り返しながら駅に着くと、やってきた電車に乗り込む。


「ぜぇ、ぜぇ、はぁ、はぁ」


 息を切らしながら伯東はようやく俺の隣に並ぶ。


「席が開いてるぞ、座ったほうが良くないか」


 さすがにやりすぎたかと思い座るように勧める。


「だっ、大丈夫だよ、リョウくん」


「さすがに大人気なかった。だから座って休め」


 俺が申しわけなくなって、座るように再度促す。


「ありがとう。やっぱりリョウくんは優しいね」


 優しいやつなら、そもそもこんなことしないだろうと思いつつ、嬉しそうな顔の伯東を見る。

 普通に見れば綺麗で可愛い幼馴染なのだと思う。

 しかし、記憶だけで思いのない俺としては意味不明な言動を取る浮いた存在に見えてしまう。

 でも、諒也からすれば、そこも含めて好きだったのだろう。だからこそ、もし諒也と俺が入れ替わっていなかったとしたら……好きな人に彼氏ができ、仲良くする様子を眺めながら、変わらない距離感で接しようとする幼馴染に何を思うのだろう。


 俺は諒也では無いのでやはり分からないが自分が同じ立場になったとしたら辛い、好きならばなおさらに。


 だからこそ、俺は諒也にはなれない分、諒也の立場を想定して、きちんとこの無自覚で無遠慮な幼馴染に気持ちを伝えて、分かってもらえるまで話し合うつもりだった。


 そんな俺の決意とは別に妙なプレッシャーというか、違和感というか奇妙な視線を感じるのは、イケメンになったせいで周りからの視線に慣れていない俺の自意識過剰さが原因なのだろうか?



 

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