ある数日間の事

門前払 勝無

帰宅

 あれは八王子に暮らしていた時の事だ。

 ヤマハSR400をカフェレーサーにしてた事だから二十代半ばである。

 その日は珍しく残業して夜八時過ぎに仕事から帰ると彼女から浮気を疑われた。俺は初めはくだらないと突っぱねたが彼女が本気だったのを感じて怒りが沸いてきた。

 そして、彼女の文句を聞き流して家を出た。そのまま風俗店へ向かった。


 値段もコース内容も女の写真も見ないで金を二万円払った。


 ジメジメと湿気と混沌とした紫色の憎悪が漂う廊下を進み突き当たりの部屋から小柄な女がこちらを見ていた。俺は誘われるがままにそのベニヤの小さな部屋に入った。ガサガサのバスタオルがラックに重なっていて小さな鏡が置いてある。この薄暗い中でこの女は化粧直しをしていたのであろう。少しでも客に気に入られようとした努力に少し可愛げをみた。女はニコニコしながら木製のハンガーを取り俺のライダースジャケットをかけてくれた。何故か挨拶も無しに無言の行動である。だが、悪い気はしないむしろ居心地がいいのである。

 裸になりシャワールームでも無言のままである。小さな乳房の女はニコニコしている。俺の俺を触りながら見上げる表情は無垢な乙女のようであり内心いけないことをしてしまってるのでは無いかと傷心してしまいそうになる。

 ガサガサピンクタオル一枚で部屋に戻り肩を寄せてくる女に何故か緊張している。そして、何やってんだよと自問自答する。

 同棲する女への報復的行動、疑うなら浮気してやるよと言う過ちの一歩手前ーいや、アウトか…そんな事を思いながら無口で小柄な女にキスをした。


 それから何度か指名で通った。

 小柄な女はメイと言う源氏名で声が出ないのである。会話をしなくても身体を晒していればお金がもらえると言う理由でこの仕事をしているらしい。一日三人までと言う条件で働いている。この情報はLINEでメイと会話が出来るから聞いた、読んだ事である。メイの夢は海の近くでのんびりと暮らすことだと言っていた。休日は砂浜に座って海を眺めていたい。海からの音を聞いていたい。


 なんとなくメイの事ばかり気になり始めていた矢先であった。


 三鷹駅でメイが飛び込み自殺をしてしまった。


 理由は解らない。

 前日の夜のLINE

 こんちゃ!

 海の近くに部屋を借りることが出来ました!

 今週で今の仕事を辞めて引っ越します!

 住所はココ

 神奈川県~~~町


 数日後に俺はバイクでメイが送ってきた住所へ行った。

 そこは太平洋が一望できるお寺であった。

 紫陽花の小さな花が微笑ましくそよ風に踊りながらキラキラと揺れる海を眺めていた。


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ある数日間の事 門前払 勝無 @kaburemono

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