第24話 いったんの顛末

 城内での魔法の使用は、基本的に制限がかけられている。魔力の行使に対して制限をかける大きな魔方陣が、城内全域に広げられているのだ。それでも他人に危害を加えるような魔法を使うのであれば、処罰がくわえられることだって多い。例外は、身を守るためのものだ。

「ねえ。お前が今押しのけて転ばせようとした相手が、伯爵令嬢だとわかっているのかな? そもそもどうして、パーティーの参列者を乱暴に扱ってまでどこかに行こうとしてるのかな」

刺客がふわふわと宙に浮いているのは、厳密には伯爵の魔力によるものではない。浮かされている男の周囲は半透明の幼児の姿をした風の精霊が取り囲んでいて、彼らの魔力が人一人を浮き上がらせていた。伯爵は彼らに友人として助力を乞い、彼らは友人の娘を突き飛ばした男を宙づりにした。エスメラルダの側には風の精霊がひとりいて、突き飛ばされた時によろめいて転びかけたエスメラルダを支えていた。

 刺客は何かを言おうとしたようだが、そこに風を吹き込まれて咳き込んでいる。伯爵が何かをしたのか、それとも高所恐怖症でもあったのか、抗うのもやめてしまった。

「アシュクロフト伯爵! ご助力、感謝致します」

「おや、アルフレッド王子。どういたしましたか?」

『助力に』感謝するという少し予想外の言い回しに、伯爵は少し首を傾げながらも油断なく相手を見つめていた。アシュクロフト伯爵の友人である風の精霊達がその身を刃にしてしまえば、人の一人くらい簡単に殺せてしまう。その刃が軍船のマストまで切り落としたことがあるということは、大人達の間では有名な話だった。そもそも、シャンデリアと同じ今の高さから精霊たちに落とさせるだけでも、それなりの怪我は免れない。

「実は、ビアンカ夫人……城の白ネズミから、この男が飲み物に対して何らかの混ぜ物をしていたという話があったのです。問題の飲み物を、彼は私とアンジー、アシュクロフト嬢に渡してきたので、どう捕まえてやるかを考えていました」

(アルフレッド様、斬り捨てることまで考えてらしたのに……さらっと誤魔化しましたね……)

アルフレッドの選択肢が「告発」に定まったのを見て、少しほっとしているエスメラルダだった。

「え、混ぜ物ですか!?」

「スライさん、大人に調べてもらうために持っておきましょう……きっと、飲まなければ大丈夫ですから」

女子二人でそんな話をしている横で、アルフレッドの命令で護衛の騎士達が登場。捕縛の魔法道具を手に男を取り囲んだ。《麻痺》の鎖をかけようとしたが、騎士たちの顔の上に男の足がある状態だった。ひとまず、その足首に《麻痺》の鎖を絡める。

「あー……アシュクロフト伯爵、すみませんが彼を降ろしてくれませんか?」

「おっと、失礼。みんな、頼むよ」

言葉ひとつで男を磔にしていた風がやみ、落ちてきた男は麻痺の前にすでに気を失わされていたようだった。

「このような場で、なんてことしたものがいたものか……彼が何をしようとしていたのか、誰の関係者かは捜査官たちに調べさせる。安心して、パーティーを楽しんでくれ」

国王の言葉に、いったん緊張した空気が少しずつ和らいでいった。

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