地球の一番長い日//アンダーウォーター・ウォーフェア
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──地球の一番長い日//アンダーウォーター・ウォーフェア
巡航ミサイルが次々に発射され、電磁速射砲が火を噴き続け、空母から爆装した無人戦闘機が発艦していく。
その攻撃が繰り広げられている海底にサンドストーム・タクティカルの戦略原潜レヴィアタンは潜んでいた。
「艦長。敵の
「巡航ミサイルは全て使った。やるなら魚雷だ」
副長が報告するのにダニエル・バルカイ大佐がARで可視化されたソナーが把握した敵艦隊の位置情報を見て唸る。
レヴィアタンから重要目標である空母2隻を狙うには、空母の周囲に展開している敵の駆逐艦による
「どちらを狙うかだ。日本海軍の空母か。それともアメリカ海軍の空母か。どちらにせよ魚雷には電子励起炸薬が装填されている。沈めることは不可能ではない」
「位置的には日本海軍の空母が近いです。ですが、目標としてはアメリカ海軍の空母の方が大きく、損失した際のダメージは大きいです」
「確かにこれが最後の攻撃となるならば重要度の高いアメリカ海軍の空母を沈めるべきだろう。アメリカ海軍の空母を狙う。我らが祖国イスラエルを滅ぼしたアメリカの軍艦を我々が沈めるのだ」
「了解」
そしてレヴィアタンが海中で静かに旋回し、リムドライブ駆動の無音航行でアメリカ海軍の空母バラク・オバマへと向かう。
日本海軍の攻撃型原潜“神鷹”もまたハンターキラー任務に就いていた。
「艦長。
「ふむ。間違いなくレヴィアタンの音響パターンだ。向きを変えたな」
現代戦において敵潜水艦の捕捉は基本的に音に頼る。光が届かない海中においては視覚的な情報はなく、音が頼りになる。
その他、
その点音はどうしても生じる。特に原潜は原子炉があり、それによってタービンを回転させているため通常動力潜水艦より音が生じやすい。
日本海軍の“神鷹”が捉えた音もレヴィアタンの原子炉の音だった。
「進行方向にはバラク・オバマがいる。第7艦隊所属のアメリカさんの空母だ。連中の狙いは空母との相打ちというところか?」
「そうでしょう。沈めさせるわけにはいきません」
「その通りだ、副長。通信ブイを射出し、水上艦艇に連絡。
「了解です」
“神鷹”が通信ブイを静かに射出し、海上に展開している日本海軍の駆逐艦4隻に連絡する。
駆逐艦は鯱や狼の狩りのようにレヴィアタンを囲もうと機動し、ソナーと磁気探知機で海中を探り、彼ら獰猛な肉食獣の獲物であるレヴィアタンの撃沈を目指す。
「艦長。複数の水上艦艇が我々を探しているようです。位置が掴まれている恐れがあります。もしかすると敵のハンターキラー潜水艦に追跡されている可能性も」
「不味いな。戦略原潜で攻撃型原潜の相手をするのは困難だ。まともに戦うわけにはいかない。敵潜水艦を避けて、空母を目指す。攪乱用の
「了解」
レヴィアタンも追跡に気づき、昔ながらのソナー要員が耳を澄ませ、さらには音響センサーの情報を限定AIが解析して視覚化する。
「5番、6番魚雷発射管注水。
魚雷発射管から
「敵潜水艦はデコイを使用しました。ソナーの限定AIが現在分析中」
「この程度で我々から逃げらると思ったのならば甘い考えだな。この戦術は第三次世界大戦中に既に対策されていることを知らないようだ。展開中の
「了解」
“神鷹”が展開させた攻撃型
「さて、どう料理してやろうか。敵潜水艦の位置の特定は?」
「現在、水上艦艇が追い込んでいます。進路は間違いなくアメリカ海軍空母です。既にあアメリカ海軍にも艦隊戦闘リンクで通知してありますので、向こうも警戒するかと」
「ふん。だが、アメリカさんにくれてやるのも勿体ない。我が艦の勲章をひとつばかり増やしたいとは思わないか、副長?」
「そうですね、艦長。やりましょう」
「では、追跡を続ける。限定AIによりアドバイスにしたがって
水中戦闘は第三次世界大戦で大きく進化した。潜水艦による潜水艦の撃沈ということが起き、また
潜水艦によって勝利したと言ってもいい日本海軍においてはそれが顕著である。
「ソナーが複数の敵の
「日本海軍もしつこいな。何とかして撒くぞ。もう一度
「本艦に搭載された
「構わん。やってくれ」
「了解」
ダニエル・バルカイ大佐が指示を下し、レヴィアタンが再び魚雷発射管から
「馬鹿のひとつ覚えだな。意味がないということを知らんらしい」
「限定AIがソナーの情報を分析しました。レヴィアタンの位置を特定。やれます」
「1番、2番魚雷発射管注水。水雷戦準備だ」
「1番、2番魚雷発射管注水」
“神鷹”の口径533ミリ魚雷発射管が攻撃準備に入った。魚雷発射管には限定AIによる分析及び誘導システムがシーカーに内蔵された高性能誘導魚雷が装填されている。
「1番、2番魚雷発射管、発射」
「1番、2番魚雷発射管、発射」
そして2発の魚雷が発射された。
「敵潜水艦、魚雷を発射。本艦に迫っています。艦長!」
「デコイ射出! 最大戦速! 敵空母に一矢報いるまで沈むわけにはいかん!」
“神鷹”が発射した魚雷がアクティブソナーを撃ちながらレヴィアタンに迫るのにレヴィアタンはありったけの欺瞞措置を講じつつ、全速力で攻撃目標であるアメリカ海軍空母に向けて突き進む。
魚雷が迫る音がソナーから聞こえ、レヴィアタンの艦内には緊張に包まれていた。
「ダメです。敵魚雷は本艦を未だ追尾中」
「迎撃魚雷を使うぞ。7番、8番魚雷発射管注水」
「7番、8番魚雷発射管注水」
レヴィアタンが迫りくる日本海軍の魚雷を前に迎撃魚雷を発射。
迎撃魚雷は
レヴィアタンが放った迎撃魚雷は日本海軍の魚雷を捉え、その狙い通りに作動し、2発の魚雷を無力化した。
「魚雷、迎撃されました。さらに水中衝撃波によって展開中の
「やってくれる。どうやら勲章はお預けだな。やれやれ」
“神鷹”の艦長が肩をすくめる。
「水上艦艇に連絡。追加の
「了解」
「敵潜水艦の狙いはアメリカ海軍の空母だ。敵の放った迎撃魚雷の影響で水中音響が攪乱されている。限定AIに急いで分析させろ。それから無人対潜ヘリを発艦させろ」
水上にいる日本海軍の駆逐艦がレヴィアタンの追跡を始め、無人対潜ヘリが駆逐艦後部のヘリパッドから発艦する。
4隻の駆逐艦がそれぞれ無人対潜ヘリを発艦させて磁気探知機とソナーでレヴィアタンの位置を特定しようとする。
「敵対潜ヘリが展開しました。逃がしてはくれないようです」
「クソ。もう少しだと言うのに」
追撃に告ぐ追撃を受けているレヴィアタンでダニエル・バルカイ大佐が呻く。
「ドローンで撃墜できるか?」
「撃墜は難しいかもしれませんが、追い払うことはできるかもしれません。ですが、ドローンを射出する際の音で探知される恐れもあります」
「構わん。やってくれ。少しでも時間を稼がなければ。生き延びる必要はないが、責任は果たさなければならない。自分のために死ぬな。戦友たちのために死ね」
「了解です、艦長」
レヴィアタンが潜水艦発射型ドローンを
ドローンはTMCでの作戦でも暴れたステルス機でカプセルによって海面に到達するとすぐに燃焼剤によって空高く飛び上がって加速し、
『ハヤテ・ゼロ・ワンより“磯風”! 敵のドローンに狙われている!』
『“磯風”よりハヤテ・ゼロ・ワン。了解。撃墜する』
レヴィアタンから射出されたドローンを日本海軍の駆逐艦が特殊なレーダーによって捕捉し、
『敵潜水艦を捕捉。位置情報をリンクにアップロードした』
『了解。引き続き追跡せよ』
そして、ついに無人対潜ヘリがレヴィアタンを捕捉した。
「不味いな。アメリカ海軍の艦隊の内側にいる」
「アメリカ海軍に任せますか?」
「そうしよう。連絡しろ」
ここで日本海軍が掴んだレヴィアタンの情報がアメリカ海軍に送られる。
「日本海軍からです。敵の戦略原潜が我が方の空母を狙っているとのこと」
「第六次中東戦争の際にイスラエルで逃がした奴か。イスラエルの亡霊だな」
「いつでも攻撃可能です、艦長」
「攻撃せよ。
「了解」
アメリカ海軍の駆逐艦がレヴィアタンの進行方向に進出しつつ、
日本海軍のハンターキラー原潜と同じ限定AIがシーカーに内蔵された魚雷がレヴィアタンを正確無比に追跡し始める。
「艦長。敵の魚雷です。追跡されています。こちらにはもう
「なんたることだ。こうなれば空母でなくともいいから道連れにしてやる。もっとも近いのはアメリカ海軍の巡洋艦だな?」
「はい。魚雷の射程内です」
「では、やるぞ」
レヴィアタンの魚雷発射管が注水され、アメリカ海軍の巡洋艦を目標に選択すると一斉に4発の魚雷を発射した。
『ニューオリンズ、そちらに魚雷が向かっている。回避しろ!』
『了解している!』
狙われたアメリカ海軍の巡洋艦ニューオリンズがデコイを射出しながら回避運動を行うが、レヴィアタンの魚雷は獲物を逃がさなかった。
巡洋艦ニューオリンズの右舷で巨大な水柱が上がり、電子励起炸薬で穿たれた巨大な穴から浸水が始まり、巡洋艦ニューオリンズが急速に傾斜して沈んでいく。
「敵巡洋艦、撃沈!」
「よし。我々は義務を果たした」
その直後、レヴィアタンに魚雷が命中し、電子励起炸薬が爆発してレヴィアタンの艦体に大穴を開けるとレヴィアタンを海中に没せしめた。
第六次中東戦争を生き延びた潜水艦は太平洋の海底に沈んでいく。
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