ニイタカヤマノボレ//暫定的勝利

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 ──ニイタカヤマノボレ//暫定的勝利



 部下である軽戦車1台と歩兵部隊を指揮してネオナチ集団“アームド・ホワイト”の陣地に突撃するギルバート。


 機関銃がけたたましい銃声を響かせ、軽戦車が榴弾で敵を砲撃し、歩兵がボルトアクション小銃で“アームド・ホワイト”の武装構成員たちを狙う。


「畜生。これまでも民間軍事会社PMSCやテロリストの相手はしてきたけど、今回は規模が半端ないぞ」


生体機械化兵マシナリー・ソルジャーもいなけりゃ無人攻撃ヘリもいない。楽な戦場だろ。むしろ殺し甲斐がない」


「あんたはいつも楽しそうで羨ましいよ、セイレム」


 セイレムが鼻を鳴らすのに東雲がほとほと呆れた。


「油断するなよ。第二次世界大戦の武器だって山ほど人を殺してるんだ。生身のあんたにとっちゃ全部危険だぜ」


「分かってますよ。だから、気乗りしないんだよ。最悪、頭さえふっ飛ばされなければどうにかなるけどさ」


「それはそれで機械化した人間より異常だな」


 東雲がぶつぶつ文句を言い、呉が苦笑する。


「覚悟を決めろ。行くぞ」


「やってやりましょう」


 八重野が言い、東雲が“月光”を展開する。


「俺は援護する。危ない奴は狙撃で片付けておくよ」


「サンキュー、暁。頼りにしてるぜ、アイアンマン」


 暁がサント・フシールから借りた長射程を誇る光学照準器付きの大口径自動小銃を構えて言うのに、東雲が頷いて返した。


「突っ込め!」


 そして、東雲たちが突撃を開始。


 “月光”を高速回転させて東雲が突撃し、八重野、呉、セイレムの順で“アームド・ホワイト”の砲兵陣地に切り込む。放たれる銃弾を“月光”が弾き、東雲たちが突き進んでいく。


「おらおらおらっ! くたばれ、ファシストども!」


「東雲、援護する!」


 東雲たちに“アームド・ホワイト”の武装構成員が自動小銃や機関銃を乱射する中を突き抜け、敵を“月光”で切り裂き、敵を“鯱食い”で切り倒し、BAN-DEADで現実リアルから排除していく。


「連中に続け! 突撃だ! アメリカ軍人の勇気を見せろ!」


「おおっ!」


 さらに東雲たちに続いてギルバートたちアメリカ軍部隊が突撃。軽戦車が砲撃と機関銃による射撃を行いながら無限軌道の音を響かせて進軍し、歩兵たちがボルトアクション小銃と機関銃で射撃しながら進む。


「クソ、クソ、クソ! ロケット砲が全滅だ!」


「数が多過ぎる! この時代錯誤のコスプレ野郎どもめ!」


 “アームド・ホワイト”は次第に崩れ始め、孤立した武装構成員が容赦なく東雲たちによって切り倒され、集まれば軽戦車の主砲と手榴弾、迫撃砲で吹き飛ばされた。


「いい感じだ。このまま畳み込め!」


 東雲が残りわずかになった上、指揮統制も取れていない“アームド・ホワイト”の武装構成員を追撃し、殲滅し始めた。


 容赦なく“アームド・ホワイト”の武装構成員が倒され、一部は逃げようとして暁に狙撃された。東雲たちを対戦車ロケットで攻撃しようとした武装構成員も狙撃でダウン。


 そして、砲兵陣地は完全に陥落したのだった。


「勝利だ!」


「ああ、とりあえずは勝ったな、少佐」


 ギルバートが破壊されたカチューシャ・ロケットの荷台に立って拳を突き上げるのに、東雲がふうと大きく息を吐いて頷いた。


 そこに装輪式の装甲兵員輸送車APCが2両やって来た。車体にはサント・フシールのトレードマークであるAR-15と天使のイラストだ。


「サイバーサムライ! いよいよナチ野郎どもの司令部を叩くぞ。全戦線で反撃が始まってる。勝利はすぐそこだ」


「ガルシア。紹介するよ。アメリカ陸軍のギルバート少佐だ」


「アメリカ陸軍?」


 サント・フシールの現地指揮官であるガルシアが自動小銃を手に装甲車から降りてくるのに東雲がギルバートを紹介した。


「お前たちはどこの所属だ?」


「連中はコロンビア人だよ、少佐。義勇兵さ」


「そうか。あの後コロンビアも参戦したんだったな」


 太平洋戦争においてコロンビアは日本と断交したが、宣戦布告はしてないし、兵士も派遣していない。


「よし。俺たちに続け、コロンビアの義勇兵たちよ。ともにナチを打倒し勝利を!」


 ギルバートはそう言って軍用トラックに乗り込んだ。


「どうなってんだ? アメリカ軍は軍事施設に立て籠もってるだけって話を聞いたぞ。それに連中の装備は妙に古い。まるで戦争映画のコスプレだ」


「真珠湾攻撃で死んで、蘇った連中だよ。愛国者で正義感が強いから麻薬カルテルだって言うなよ。殺されるぜ」


「変なことになっちまったな」


 東雲が事情を説明するのにガルシアは困惑した様子で後頭部を掻いた。


「後は司令部を叩けば戦争も終わりか?」


「恐らくはな。ボス・ラミレスはナチ野郎どもの司令部が潰れたら、あんたらと約束した取引をするって言ってる」


「オーケー。やってやろうぜ」


 東雲たちはギルバートたちアメリカ軍の軍用トラックに、ガルシアたちはサント・フシールの装甲車に乗り込み、“アームド・ホワイト”の司令部がある建物を目指してスラムの通りを進み始めた。


『東雲。ディーが確認したけど第二次世界大戦のアメリカ兵たちは全部味方で大丈夫。彼らも“ネクストワールド”について知ってる。それからハワイ沖に第二次世界大戦のアメリカ海軍空母がいる』


「空母? マジで?」


『マジだよ。“ケルベロス”のミリタリオタクのハッカーによると1942年の南太平洋海戦で沈んだホーネットって空母。で、今艦載機を発艦させてる』


「そういや少佐が海軍の支援があるって言ってたな」


『だとすると航空支援が受けられるね。でも、こっちで確認している限り“アームド・ホワイト”は旧式ながら口径40ミリの対空火器AAAとMANPADSで武装している。レシプロ機じゃ撃墜されちゃうかも』


「どうにかしてもらうさ。零戦とドッグファイトした連中だし、技術は確かだろ」


 東雲はベリアの連絡に軽く返した。


「少佐。海軍が来てるみたいだけど」


「ああ。連絡を受けた。空母がいるぞ。認めたくはないが海軍の方が爆撃は上手い」


「じゃあ、早速司令部を爆撃してもらえるか? けど、気を付けるように言っておいてくれ。ナチ野郎どもは対空火器AAAを装備してる」


「分かった。海軍の空母飛行隊に連絡を取る」


 ギルバートはそう言って通信兵から無線の受話器を受け取る。


「こちらチャーリー・マイク・ゼロ・ファイブ。海軍に航空支援を要請する。そうだ。航空支援だ。いや敵はジャップじゃない。ナチだよ。ジャップと戦いたい? 馬鹿言うな。いいから航空支援を寄越せ! 海軍のクソオカマ野郎!」


 ギルバートが無線に向かって罵詈雑言を叩きつける。


『あー。こちらホーネット空母飛行隊所属海軍機。コールサインはサベージ・ゼロ・ワン。無線を聞いた。チャーリー・マイク・ゼロ・ファイブに尋ねる。あんたらも“ケルベロス”の側についてるのか?』


「サベージ・ゼロ・ワン。そうだ。“ケルベロス”の側についた」


『じゃあ、あんたらはいいアメリカ人だな。支援する。座標を指示してくれ。こちらの兵装は1000ポンド爆弾をひとつ下げてる。あんたの実家の便器にだろうと正確無比に落としてやれるぜ』


「そいつは助かる、サベージ・ゼロ・ワン。座標を指示する。なお、目標地点には対空火器AAAが存在。警戒してくれ」


『オーケー。俺たちはジャップのゼロファイターを相手にして、さらに大日本帝国海軍IJNの軍艦の高射砲の砲撃の中を潜り抜けて急降下爆撃をやってきた命知らずの爆撃機乗りだ。任せとけ!』


 そして東雲たちの上空を第二次世界大戦で使用されたアメリカ海軍の艦載爆撃機がエンジン音を響かせて飛んでいった。


『タリホ―!』


 “アームド・ホワイト”はまさか100年前のレシプロ機が攻撃してくるとは思っていなかったらしく、対空火器AAAとMANPADSによる反撃が遅れ、爆撃を許してしまった。艦載爆撃機は急降下して爆弾を投下。


 航空爆弾は“アームド・ホワイト”の司令部を、そこに蓄えられていた武器弾薬ごと吹き飛ばし、大爆発が起きる。衝撃波は司令部に迫っていた東雲たちの乗る軍用トラックにまで響き、軍用トラックが揺れた。


「いいぞ! よくやってくれた、サベージ・ゼロ・ワン! あんたは勇者だ!」


『ありがとよ。これから──』


 爆撃機が上昇して空域を離れようとしたとき地上からMANPADSが発射された。赤外線誘導の地対空ミサイルSAMが爆撃機に急速に迫り、近接信管が作動して爆発する。


『クソ! 被弾、被弾! 墜落する!』


 爆撃機は翼のひとつが破損し、地上に墜落していく。


『チャーリー・マイク・ゼロ・ファイブ! あの世に帰ったら冷えたバドワイザーで一杯やろう!』


「ああ。約束だ」


 そして、爆撃機は墜落して爆炎を上げた。


「残敵がいる。掃討するぞ」


「あいよ。これでようやく終わりだぜ」


 MANPADSが発射されたということは“アームド・ホワイト”の生き残りがいるということだ。呉が“鮫斬り”を握り、東雲が“月光”を握る。


「よし。行くぞ。突っ込め!」


 東雲たちは爆撃で破壊された“アームド・ホワイト”の司令部周辺にいる武装構成員たちとの交戦に突入する。


 司令部の残骸の周囲には重機関銃をマウントしたテクニカルや機関銃陣地、無反動砲陣地などがあり、それらが全て東雲たちを狙っていた。


「結構生き残ってるな」


「だが、明らかに混乱している。素人の上に混乱していればただの的だ」


「そいつはラッキー!」


 東雲たちが突如として司令部が吹き飛んだことで混乱している“アームド・ホワイト”の残存勢力に襲い掛かる。


 東雲の“月光”が舞い、八重野の“鯱食い”が鋭く線を描き、呉の“鮫斬り”が血をほとばしらせ、セイレムの“竜斬り”が全てを引き裂く。


 もはや“アームド・ホワイト”はまともに抵抗することもできず、切り倒され、さらにBAN-DEADで排除されてしまった。


「制圧完了! 勝ったぞ!」


「とりあえずは、な」


 東雲が周囲を見渡して叫び、呉が息を吐いた。


「よくやった、サイバーサムライ。ボス・ラミレスのところまで送ろう。俺たちは約束はちゃんと守る。どんな仕事ビズでも信頼が大事だろ」


「そうそう。信頼は大事だ。嘘つきと詐欺師の辿る末路は悲惨なもんさ」


 ガルシアが言うのに東雲が頷いた。


「少佐。あんたらはこれからどうするんだ?」


 そして、東雲はこの戦いを共に戦ったギルバートに尋ねる。


「上級司令部と協議して動くことになるだろう。だが、俺たちの目的は“ネクストワールド”による死者の世界と現実リアルの接続の遮断だ。お前たちがツバルにいくことで問題が解決するならお前たちを全力で支援する」


「助かるよ、少佐」


 ギルバードが答えるのに東雲がサムズアップした。


「連絡を取るときはどうすればいい?」


「こっちの連絡用IDを渡しておく。それから俺たちがとりあえず拠点を置いているホテルの住所も。何かあったら援軍を頼むぜ」


「オーケー。いつでも助けに行くぞ。コロンビアの義勇兵もよく戦ったな。アメリカ陸軍を代表して感謝する。ウィルソン中尉、司令部に一度向かうぞ。ジープを出せ!」


 ギルバートは軍用四輪駆動車に乗り込むと走り去った。


「さて、武器の調達に向かおう」


 東雲たちはガルシアたちサント・フシールの乗って来た装甲兵員輸送車APCに乗り込むとサント・フシールの拠点に向かう。


「やあ、やあ。ナチ野郎どもを黙らせてくれたようだな、暁?」


「ああ。連中は暫くはあの世で大人しくしてるよ」


「じゃあ、仕事ビズだ。欲しいものを言ってくれ。とっておきのものが揃っているぞ。選り取り見取りだ」


 そう言ってラミレスは最初とは違う武器庫に東雲たちを案内した。


「こいつはトート・ウェポン・インダストリー製の口径40ミリ電磁ライフルか。モンスター級の代物だな」


「しかも弾薬は装弾筒付翼安定徹甲弾APFSDSが使える。戦車だって吹き飛ばせるぜ。おすすめだ。約束通り割引してやる」


「よし。まずはこいつでオプションが欲しい」


「いろいろあるぞ。アドオン式グレネードランチャやサプレッサー。ナノマシン連動式光学照準器や高出力レーザー照射装置。好きなものをカスタムしてくれ」


「オーケー。いい感じに整えよう」


 旧式のカラシニコフのような武器と違って西側の最新の武器は、共通した装備装着部位によって、それを扱う兵士が自由に装備をカスタムできるのが長所となっている。


 暁は口径40ミリという巨大な電磁ライフルをカスタムしていく。


「電磁パルスグレネードはねえの?」


「ある。こっちだ。手榴弾式のものからグレネードランチャーで叩き込むものまで。どちらかといえばグレネードランチャー式の方がいいぞ。かなり遠くにも飛ばせるからな」


「いいね。俺はこいつにしよう」


 東雲がグレネードランチャーで発射される電磁パルスグレネード弾を購入した。リボルバー式のグレネードランチャーで電磁加速装置が装備されている。


「他に必要なものあるか?」


「装甲車が欲しいところだが小型機じゃ持ち込めない」


「そうだよなあ。いつも俺たちは生身で機関銃に突っ込んでる。まるで白襷隊だぜ」


 八重野が言い、東雲が肩をすくめた。


「ラミレス。助かった。金を払う」


「あんたらと仕事ビズが出来てよかったよ」


 暁がラミレスに武器の代金を支払い、東雲たちはホテルに戻った。


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